後期の武道大会 試合後の控室
ジューネスティーンは、勝利宣言を受けると一礼して会場から立ち去り控室に戻っていった。
「にいちゃん! すごいよ! 武器無しで勝っちゃうなんて、驚いたよ!」
控室の入り口にはメンバー達が集まっており、ジューネスティーンが控室に入るなり、早速レィオーンパードが大喜びで声をかけると、その後ろにドヤ顔のアンジュリーンが居た。
「最後の攻撃は凄かったわね。盾にあんな使い方が有ったとは思わなかったわ。名前を付けるならシールドアタックってところかしら!」
勝ち誇ったようにアンジュリーンが言うと、その横に居たアリアリーシャが苦虫を噛み潰したような表情をした。
「何よぉ、アンジュったら、攻撃にぃ、お名前を付けるなんてぇ、ちょっとぉ、お恥ずかしくはぁ有りませんかぁ」
その一言を聞いて、アンジュリーンは、周りを見渡すと聞いていたと思われる全ての人が苦笑いをしていたので、そんな周囲の表情を見たアンジュリーンは顔を赤くした。
「まあ、そんな話はどうでも良い、ジュネス! さっさと、あっちで肩の状態を確認だ! それに腰も足首も背骨も! 肘と膝以外のガードされてない部分は全部チェックだ!」
アンジュリーンに気を取られていたが、そんな中、鬼の形相をしたシュレイノリアがズカズカと音を立てるようにして、ジューネスティーンの前に立った。
最後の攻撃で全身を使って相手を吹っ飛ばした時に、身体への負担がどれだけ有ったのかを考えると、防御されてない関節への負担が心配になっていた。
「お前は、あんな無茶な力の使い方をして! 不完全なRev.1で、あんな闘い方をするんじゃない! 身体のどこかに痛みは無いか!」
ジューネスティーンは、少し引き気味にシュレイノリアを見ていた。
「あっ! うん、まあ、大丈夫だ、と、思、う」
ジューネスティーンは、その様子に少しビビりながら答える間、シュレイノリアは、ジューネスティーンを睨みつけていた。
「構わないから、直ぐに来い! たかが、武道大会の準々決勝だ! こんなところでケガをしたら、どうするつもりだ!」
「ん! えっ! ああ、ケガをしたら棄権するつもりさ。それよりも、今度の魔法紋は反応も早かったよ。身体の動きにタイムラグ無しで付いてきていたから、この魔法紋は、Rev.2でも使えそうだよ」
答えを聴きながらシュレイノリアは、ジューネスティーンの後ろに回ると、背中を押して自分が用意していた場所に押していた。
「当たり前だ! 人体の動きに対する神経の伝達信号を拾い上げているんだ! 今までのように筋肉の動きだけに頼ってないから、その分、反応が早いのは当たり前だ!」
シュレイノリアは、自身が設計した魔法紋の結果より、ジューネスティーンの身体の方が心配だった。
「シュレ、痛いと思うところは、特に無いんだ」
「アホーッ! 今は、試合の直後だ! そんな状態なら痛みを感じてないだけかもしれない! さっさと、次の試合に向けて、チェックだ!」
シュレイノリアは、ジューネスティーンの言うことを聞く気は無い様子で、ジューネスティーンを壁側に用意した椅子のところまで連れて行くと、そのまま座らせた。
すると、手首の様子を確認し、次に右肩の様子を確認し始め、次々と、問題になりそうな部分を触診していった。
その様子をカミュルイアンが不安そうに見ていたのをジューネスティーンが気が付いた。
「カミュー、ちゃんと勝ってきたよ」
カミュルイアンは、素直に喜べずにいた。
「うん。おめでとう」
カミュルイアンは、自分の為にジューネスティーンが無理をして、剣を使わずに戦ったのではないかと思い、自分の為に悪い事をさせてしまったと思っていたので、答えはするが心持ちは重かった。
「カミュー、あの闘い方は、お前の仇を打つ為じゃないよ」
ジューネスティーンは、そんな様子からカミュルイアンが、不安に思っている事を察しったのか笑顔で答えたので、カミュルイアンは何の事という表情をした。
「あの闘い方は、今まで考えていた事なんだ。パワードスーツで魔物と近接戦を行うことになった時の事を考えてなんだよ。対人戦で使えるなら、きっと魔物にも有効だろうし、今作っているパワードスーツRev.2になったら、完全な外装骨格を形成するから、身体の全てが防御されるだろ。だから、ケガを恐れずに戦う事が可能だと思ったから、早めに試してみたいと思っていたんだよ。だから、今の試合で使ってみたんだ」
ジューネスティーンは、カミュルイアンを安心させる為に適当な嘘をでっち上げた。
本当は、カミュルイアンにケガを負わせた相手に思い知らせてあげようと思って武器無しの戦いを挑んだが、カミュルイアンが、そんな自分の闘い方を気にしている様子から、気持ちを緩和させようと咄嗟に嘘をでっち上げていた。
「そうだったんだね。ジュネスもシュレも、何時も凄く先の事を考えて行動しているんだね」
カミュルイアンは、自身の気持ちが晴れた様子で答えたので、ジューネスティーンは、カミュルイアンが納得したと思い僅かだが表情がホッとした。
それは、よく見ないと分からないように少し表情を緩ませた程度だったので、カミュルイアンには気づけなかった。
「そうだったのか。でも、オイラには、そんな先の事まで考えて試合に挑めなかったよ」
自分の為に無理をして戦ったのかと思っていたが、そうではなさそうだと思い安心した表情を見せていた。
「ジュネス! お前、最後の盾での攻撃は、何かしたのか?」
一通り、ジューネスティーンの身体のチェックを終えたシュレイノリアは、何かを気にする様子で聞いたので、2人はシュレイノリアを見た。
「ああ、あの攻撃だけど、実は二発叩き込んでいるんだ」
「えっ!」
「……」
カミュルイアンは、思わず声を出し、シュレイノリアは何をしたのか気になる様子で黙ってジューネスティーンの表情を伺った。
「最初は、お腹全体に衝撃を与えるように上に向かって当てた後、相手の身体から力が抜けて、少し浮き上がったからね。そこから後方に吹っ飛ばすように力を加えたんだ。まあ、一瞬に力の方向を変えたから、周りからは一撃で吹っ飛ばしたように見えたかもしれないね」
「ふん! そういう事か! どうも、飛んでいく方向が違うと思ったんだ! 最初の攻撃を見ていたままだと、上に飛び跳ねるようになると思ったが、相手の飛んだ方向が違ってた。そのせいだったんだな」
ジューネスティーンの説明でシュレイノリアは、納得したように答えた。
「最初の一撃で、相手はノビていたという事か。それで、二撃目は相手の抵抗も無く後ろに吹っ飛ばせたって事か。それなら、最小限の力で吹っ飛ばせるか」
ジューネスティーンの関節へ大きな負担が見受けられなかった事がシュレイノリアは気になったようだが、ジュネスティーンの答えを聞いて、跳ね返ってくる力を最小限にした事が理解できた。




