後期の武道大会 ジューネスティーンの準々決勝
試合会場の開始線の前に立つと、主審から簡単な注意事項を聞き、お互いに剣を構えるのだが、ジューネスティーンは、自身の木剣を腰に収めたまま立っていた。
「君! 剣を構えて!」
ジューネスティーンは、主審に注意されたが気にする様子もなく相手の選手を見て、剣を抜く事なく腰に収めたまま仁王立ちをしている。
主審は、無視されたのかと思い、少し気に食わなそうな表情をした。
「君!」
「あ、お構いなく。剣で倒されるとは思っていませんから、自分は剣を抜く必要がありません。どうしても必要になったら抜くようにしますから、そのまま続けてください」
その回答に主審は驚いていたが、武道大会のルールでは木製の武器を使うとあり、変な突起物によって相手を傷付け易いものでなければ問題はなく、試合において、腰に携帯したままで戦ってはいけないとは無かった。
主審は、少し困ったような表情をした。
「すみません。こちらとしても剣が触れるようなら、構えようかと思っていましたが、簡単に身体の何処かに当たるとも思えませんし、こちらは《《フルメタルアーマー》》ですから、防具の部分が広いので多少なら、当たっても問題ありません」
主審は、ジューネスティーンの装備を見て、大半の部分が金属の防具に覆われている事から、その部分に木刀が当たってしまったとしても大きなケガになることもないと思ったようだ。
「そうか、君が良いなら」
そう言うと試合開始を宣言した。
しかし、今の話を聞いていた相手の選手は、はらわたが煮えくりかえっていた。
自分の剣が当たらないから、構える必要が無いと言われて激昂していた。
そして、開始と同時に飛び出し、ジューネスティーンのパワードスーツに覆われてない、左肩の下の二の腕の部分を狙って横から剣を振ってきた。
その剣は寸止めされる事なく、振り抜く勢いで襲いかかってきたが、ジューネスティーンは、素早く左腕を上げて、腕を包むように取り付けられているガードに取り付けられた腕と同じ長さの盾もガードに固定されていたので、その盾に防御され剥き出し部分の二の腕に当たる事は無かった。
(うん、やっぱり、最初に狙う場所は、ここだったな。それに、腕を動かすだけなら、肩には大きな負担は掛からないな)
ジューネスティーンは、相手の動きを観察して一番最初に狙われるであろう場所は二の腕のガードが空いている肩の直ぐ下を狙ってくる事は予測しており、簡単に相手の木剣を防ぐと、相手は気に食わなかったように表情が険しくなった。
最初の攻撃を防がれると、また、右に引き戻し、左にステップして顔を狙って振ってきた。
兜に覆われている頭なので、打撲のような直接的な衝撃が当たる事は無いが、棍棒で叩かれた時と同じように兜への衝撃によって失神してしまう事もある。
ケガをしないからと言って兜を被った頭部への攻撃は、絶対に避ける必要がある。
しかし、そんな攻撃もジューネスティーンは左腕の盾で防ぐと、相手は更にムキになってメチャクチャに剣を振り回し始めた。
相手は、武器無しのジューネスティーンに打撃を与えることが出来ず焦り出していた。
武器無しのジューネスティーンに左右の腕に取り付けられた小さな盾で自分の攻撃を全て防がれてしまった事が、観客に対して悪い印象を与えているように思えていたのだ。
特に本戦の準々決勝ともなれば、来賓達も真剣に観戦している事から、こここで実績を示れば軍へのスカウトも有り得るので、無様な戦い方は見せられない。
3年生のランキング8位と言っても、1年生相手に成す術なく倒されたとあっては、軍のスカウトの目に止まる事は無いと思ったようだ。
そのため、攻撃も正確に打撃を与えられそうな場所を狙って、その剣速も太めで重さも有りそうな木剣とは思えない速度で攻撃しているのだが、ジューネスティーンは、それを左右の腕に取り付けられた小さな盾でガードしていた。
(腕の反応も遅れとかも殆どない。シュレの作った新しい魔法紋は反応速度が今までとは段違いだ。それに、このRev.1のパワードスーツでも、上手く使えば肩への負担も少なくて済む! 今度の魔法紋は、完成度が高い!)
パワードスーツの開発において、ハード面はジューネスティーンが行っていたが、それを駆動させ制御を行う為の魔法紋はシュレイノリアが担当していた。
ギルドの高等学校に入学後は、学校の図書館にある魔法関連の資料から魔法紋の改良は常に行われていた。
シュレイノリアとしたら、開発中のパワードスーツにも流用可能と思い常に新しい魔法紋を設計していたので、それを試していた。
(シュレの魔法紋は、完全に人の動きに連動できるようになったならRev2にも対応できるだろうし、Rev2なら完全な外装骨格になるから、木刀程度の打撃なら、ダメージも無さそうだ。今回はいい実験になりそうだ)
ジューネスティーンは、余裕そうに相手の剣を躱しており、表情にも余裕が伺えたが、それは、相手にとっては、とても屈辱的であった。
自身が全力で攻撃しているのだが、その攻撃を全て簡単に躱してしまうので、自分が弱いと周囲に印象付けてしまうことを嫌った。
そんな中、そのジューネスティーンの態度が相手には癪に触った。
そして、今まで叩いていた剣の切先をジューネスティーンの顔に向けると一気に突いてきた。
剣の先端が緩衝材によって保護されているとはいえ、それが、兜に覆われてない顔の部分に突かれてはケガでは済まない。
場所によっては、即死も有り得る突きがジューネスティーンの顔に向かって突き出された。
しかし、ジューネスティーンは、その切先を簡単に左手の盾で跳ね除けると、身体を低くしながら、全力で突いてきた相手の腹に右手の盾を押し当て一気に力を加えた。
相手の身体は少し前のめりになっており、ジューネスティーンは、右手の盾を僅かに上に向けて力を加えたので、相手の身体は一気に吹っ飛んで場外まで飛んでしまった。
そして場外で2回3回と転がって止まった。
それを副審が、慌てて確認しに行くと、首筋に手を当て脈を確認してから主審の方に視線を送った。
そして、救護班に担架を持ってくるように言い、対戦相手は気絶しているので医務室に運ぶように指示した。
副審の処置が終わり、相手の選手の安否も分かると主審は、ジューネスティーンの勝利を宣言した。




