後期の武道大会 本戦 準々決勝第一試合の観戦
ジューネスティーンは、後期の武道大会に、検討したパワードスーツではなく、今まで使っていたフルメタルアーマーを改造した簡易型パワードスーツで参加していたが、それは、魔法紋の設計を担当しているシュレイノリアにより、高等学校の図書室から得たノウハウにより更に強力になっていたため、外装骨格の関節の無い部分の人体に、大きな負担が掛かる事になってしまった。
ジューネスティーンが、卒業までに納品する予定の完全に人の身体に合わせて連動し防御も可能なパワードスーツの開発は、ギルドの指示で学校の教室で行われており、パーツは、ほぼ完成していたが、可動部分のベアリングが未完成だったこともあり、まだ、組立する段階には至っていなかった。
今回の大会にパワードスーツが間に合わなかったため、今まで使っていたフルメタルアーマーを改造した簡易型パワードスーツで参戦する事になった。
そのため、足首、股関節、背骨、肩、手首等の関節の無い部分への負担は大きくなっており、最大パワーを出す事は控えていた。
しかし、3年生の首席と対戦した際は、スピードを重視したため、最大パワーとは言わないが、かなり負担の掛かる使い方をしてしまった事により関節の各部に炎症を起こしていた。
その後の試合は、改造したフルメタルアーマーのパワードスーツの防御力を活かして、相手の攻撃を防御しつつ勝ち上がり、次は準々決勝となった時に、敗者復活戦が途中で追加された事によって、時間が取れた事から、ジューネスティーンは、身体のケアを行うことができた。
準々決勝からは、3年生のセカンドグループとの対戦、そして、勝ち進んだら首席と同等の強さを持つ次席との対戦が待っていた事から、この1日はジューネスティーンにとって幸運と言えた。
状況に応じて全力とは言わないが、ジューネスティーンの身体に大きなケガを負わせない程度に力を発揮する必要は考えていた事から、炎症を起こしていた関節の事を考えたら無茶は出来ないと考えていた事もあり、場合によっては棄権することも視野に入れていた。
ジューネスティーンは、控室に入ると直ぐに装備を整えていた。
フルメタルアーマー式のパワードスーツでは取り付けに時間が掛かる事から、レィオーンパードを使って取り付けを完了させていた。
前回の大会に出場した際は、入学して間もない時期だった事もあり、体力も無く、技も無く、戦略も戦術もなく、ただ、戦っていただけだったが、進級が迫るこの時期になると、授業を受けて技を知り、弱さを知って力を付けてきた事から、技術的にも体力的にも別人のように強くなっていた。
そして、ジューネスティーンと一緒に授業以外の部分で同じ事をしていたパーティーメンバーも、つられて強くなっていた。
授業においても、徐々にジューネスティーンのメンバーが強くなり始めたと周囲は思い始めてはいたが、クラスメートとしては、入学式後のパーティー決めの際に、6人は、落ちこぼれだと思っていたこともあり、6人が強くなった事を素直に認めようとはしていなかった。
しかし、この後期の武道大会で、1年生の中では、5人以上の成績を収めた生徒は1人もいない事から、ジューネスティーン達の強さを認め始めていた。
ジューネスティーンの試合は、準々決勝の第2試合となるので、軽く身体を動かしつつ、始まった第1試合を見ていた。
そして、敗者復活戦が終了して本戦になった事から、3位決定戦に出場するアンジュリーンとアリアリーシャが、ジューネスティーンの両脇に立って同じように試合を見ていた。
一方、シュレイノリアは、試合の無いカミュルイアンを使って、試合が終わった後の準備をしていた。
本戦に出場する予定のレィオーンパードは、ジューネスティーンの横に行って気になった事が有れば聞こうと思っていたが、2人に両脇を抱えられるように立たれてしまったので、アリアリーシャを挟んで並び、ジューネスティーンがするように身体を捻ったり腕を伸ばしたりしつつ同じように第1試合を見た。
「あの人の剣って、何だか他の人と違うみたいだわ。私の時は、槍で戦ったから気が付かなかったけど、常に切先を相手に向けているわね」
「そういえば、あの人の剣って、剣自体の長さは一般的な剣の長さだけど、柄の部分が長いね。柄だけ倍位長いよ」
アンジュリーンが気になった事を言うと、レィオーンパードも続いて話し出した。
一般的な剣の柄は、両手剣なら、20センチから30センチ程度だが、次席の使う剣の柄は50センチは有った。
「ねえ、にいちゃん。あの剣の柄を長くするメリットって何かあるのかなぁ」
ジューネスティーンは、身体を動かしていたら自分に話を振られて少し面倒そうな表情を浮かべたが直ぐに表情を戻した。
「さあね」
レィオーンパードの問いかけにジューネスティーンの回答が気になったアンジュリーンとアリアリーシャは、ジューネスティーンの答えを興味深く視線を送っていたのだが、その答えに少しガッカリした。
「でもね、あの人の剣って直剣だから、叩くというより突く攻撃が多いし、防御の時だけ相手の剣を左右に払うようにしているから、直剣の特性に合った戦い方だと思うよ」
ジューネスティーンの解説を聞いてアンジュリーンは、自分の持ってきた木剣を見た。
その木剣は、軽く反りの入った曲剣なので、斬る事が目的の剣である。
しかし、今、戦っている次席の剣は直剣だったので、その違いについて考えていた。
「戦い方は人それぞれだからね。突く事が得意なら、あの柄の長さは間合いを伸ばす為なのかもしれないね」
「ああ、柄尻の方を持って伸ばしたら、鍔の部分で持つより長くなるって事だね」
ジューネスティーンの言葉にレィオーンパードが納得したように答えた。
「でもぉ、それだけなんでしょうかぁ」
今まで、黙って試合を見ていたアリアリーシャが不思議そうな表情で話に入ってきた。
「何だかぁ、剣を使ったぁ槍の試合をぉ見ているぅみたいですぅ」
アリアリーシャの不思議そうな言葉を聞いてジューネスティーンは、安心したような表情をした。
(きっと、あの人は、剣より槍の方が得意なんだろうね)
納得したような表情をしていた。
「そう言えば、次席は私と戦う時に使った槍って、勝つ為の手段にはギリギリのタイミングとかって言ってたわ」
「あっ! 決まった」
「えっ!」
アンジュリーンが、次席と話をした時の事を思い出している間に試合は次席の勝利で決まったのだが、アンジュリーンは、記憶を辿っていたので、その試合を見ずに終わってしまった。
「圧倒的とは言わないけど、力の差を感じる試合だったね。さすが、今年の首席と次席は頭一つ抜け出しているって言われているだけはあるね」
ジューネスティーンが感想を述べると、それをアリアリーシャがジト目で見上げていた。
(まあ、ジュネスったら、その首席から、あっさりと勝ってしまったんでしょ!)
ジューネスティーンは、試合会場の方を見ていたのでアリアリーシャの視線に気付いてはいなかった。
「ま、それが、ジュネスなのよね」
独り言のようにアリアリーシャは呟いた。




