後期の武道大会 トーナメントの山を見るアンジュリーンとアリアリーシャ
敗者復活戦の準決勝が終わり、控室も本戦のベスト8の選手に入れ替えられた。
A組のジューネスティーン、E組のレィオーンパードは、アンジュリーン達の居た控室とは反対側となっていた事から、入れ替えの際に顔を合わすことは無かった。
「アンジュ、姉さん。私とカミューは、これからジュネスとレオンの控室に行く。試合に備えさせるようにするが、お前達はどうする?」
控室を出たアンジュリーンとアリアリーシャは、敗者復活戦の3位決定戦に出場することになっており、そして、対戦相手でもある。
シュレイノリアは、そんな2人が対戦前に、どうするのか確認した。
2人はお互いに顔を見合わせた。
お互いに、そんな事も決めてなかった事もあり、どうしようかと思って、相手の様子を伺っていた。
「どうする?」
「別にぃ、お互いの手の内は知っていますからぁ、今更、隠すような事も無いですぅ」
アンジュリーンは、優柔不断そうにアリアリーシャに聞くと、アリアリーシャは決まりきった事だと言うように答えた。
「それも、そうね。今更よね」
2人の中で話が決まった。
「だったら、ジュネスとレオンの応援も兼ねて向こうの控室を使わせてもらおう」
話しが決まった事から、シュレイノリアは、反対側の控室に向かうように言うとスタスタと歩き始めた。
その後を3人が追いかけるように歩いていくと、掲示板の前を通ると、アンジュリーンが、その前で止まると、つられてアリアリーシャも止まった。
2人は、敗者復活戦のトーナメントの山に書かれている3位決定戦の部分に自身の名前を確認していた。
「何だか、随分、上に居るわね。私達」
「そうですねぇ。決勝戦には出れなかったけどぉ、十分な成績ですねぇ」
アンジュリーンが感慨深そうに言うと、アリアリーシャもそれに同意した。
「何だか、入学式の後の事を思い出すわ」
懐かしそうにアンジュリーンが言うと、アリアリーシャは、イヤラシそうな表情を浮かべた。
「そうですぅ。あの時、私達を振った連中は、全員私達より成績は下ですぅ。時々、悔しそうに見ている視線を見ました」
そして、ザマア見ろというような表情をして、今にも笑出だしそうにしたが、アンジュリーンは、そんなアリアリーシャの表情を確認する事なくトーナメントの山を見ていた。
「これも、ジュネスと同じパーティーになって、トレーニングも一緒にするようになって、どんどん強くなったのを授業で感じたわ」
アンジュリーンは、純粋に強くなった事を喜んでいた。
その言葉を聞いて、アリアリーシャは、アンジュリーンの顔を見るために見上げた。
その顔を見るとアリアリーシャは、少し自己嫌悪するような表情になった。
「ああ、何だか、嫌になりましたぁ」
「え、何が?」
「私の心は、少し汚れ気味でしたぁ」
ガッカリした様子で答えるのだが、アンジュリーンには、まだ、よく理解できないという表情でアリアリーシャを見た。
「強くなれたんだから、よかったじゃないの。私達は、この学校を卒業して冒険者になるのだから、強いということは良い事でしょ。冒険者ランクを上げるには実力も必要なのよ」
「それに知識もねぇ。ギルドの冒険者ランクを上げる試験だってぇ、実力以外の事も審査されるからぁ、学校の座学も大事ですぅ。ただ、強いだけでぇ、それを誇るような冒険者にならないようにぃ、考える力を付けさせるからぁ、知識もつけさせるぅ」
それを聞いてアンジュリーンは、現実を実感し座学の事を考えると、ちょっとウンザリしたようだ。
「ああ、そうなのよね。全くもう、魔物を倒すのに、何で勉強しなきゃいけないのよ! 倒すだけなら、力強さとか技とかの方が重要でしょ」
「脳筋!」
アンジュリーンの本音を聞いて、ムッとしたような表情でボソリとアリアリーシャは呟いた。
「ん? 何? よく聞こえなかった」
アリアリーシャは、少しガッカリした。
(本当に顔だけの残念なエルフだわ)
「いえ、何でもありませーん。アンジュは、ちゃんと、勉強もした方がいいわよ。そうしたら、知識の重要性も理解できるわ」
(全くもう、考える力をつけるために座学も有るって事に気がつきなさいよ! 作戦を考えるにしても、知識は重要でしょう。卒業後はパーティー戦が中心なんだから、連携とかも重要なんだからぁ! 今のままだと、アンジュだけ1人で突っ込んでいきそうじゃないの!)
そして、残念そうに顔を上げてアンジュリーンを覗き込んだ。
そのアンジュリーンは、何の事かというようにアリアリーシャを見ていたのを確認して、思った通りの表情だった事から残念度が上昇した。
「ま、これがアンジュなのよね」
アンジュリーンは、アリアリーシャの表情と、その言葉の意味が理解できない事が、少し面白くないと思ったのか表情を変えた。
「何よぉ、その分かったような感じ! 何だか、気持ち悪いわよ」
「もう、いいわよ。アンジュは、美人の中の美人だって事」
そう言うとアリアリーシャは視線を落とした。
(それだけで、それ以外の事は全部ダメだってことよ)
そして、また、視線を戻すと、そこには、顔を真っ赤にしたアンジュリーンが、アリアリーシャを見ていた。
「な、何よ! わ、私、そ、そんな、趣味は、無いわ、よ。私は、ノーマル、なんだ、から、ね!」
それを聞いて、アリアリーシャも顔を赤くした。
「ち、違うわよ! そんな意味で言った訳じゃないわよ! ノーマルな私から見ても! 女子の私からも、アンジュは美人だって言いたいのよ!」
「な、な、な、何なのよ!」
アンジュリーンは、嬉しそうにして、両頬を両手で覆うと、視線をアリアリーシャとは反対の方にむけてしまった。
「チョロ!」
アンジュリーンの視線から外れた瞬間にアリアリーシャはジト目でアンジュリーンを見た。
そして、ため息を吐いた。
「行くわよ! シュレもカミューも行ってしまったし、ジュネス達の様子も、試合前に確認したいから」
そう言ってアリアリーシャは歩き出すと、アンジュリーンもジューネスティーン達の控室に行く事を思い出したように、アリアリーシャの後を追った。




