後期の武道大会 控室の入れ替え
アンジュリーン達の話が終わると、控室に本戦出場選手が入ってきた。
控室はウォームアップも行えるように広くなっていたので、アンジュリーン達4人が陣取っている程度のスペースなら、本戦ベスト8の内の4人だけのためなら十分なスペースはあった。
しかし、4人が居た場所が、良くなかった。
控室から試合会場を見渡せる一番良い席だった事によって、誰もが、その場所に陣取りたいと思っていた。
そして、その中にはアンジュリーンに勝った次席も含まれていた。
「やあ、アンジュリーン君。さっきの試合は残念だったね。僕は君が絶対に決勝戦に勝ち上がると思ってたのに残念だよ」
3年生の次席が、アンジュリーンに声をかけてきた。
そして、シュレイノリアとアリアリーシャの顔を見てから、少し離れていたカミュルイアンの顔も確認していた。
アンジュリーンは、次席から声を掛けられたので、舞い上がってしまい、次席の視線の動きなど気にする事なく、今の話を微妙な表情で聞いていた。
ギルドの高等学校の3年生の上位ともなれば、今までならば、2年生も1年生も叶うような事は無かった。
それだけ、ギルドの高等学校の教育カリキュラムは冒険者に特化しており、簡単に1年間のキャリアの差を埋められていなかったことから、3年生の成績上位者は敬意を示されていた。
それは、アンジュリーン達も同様であり、自分達が次席から声を掛けられるなんて事は考えていなかった事であり、そして、名前を覚えられているとなれば、なおのこと嬉しいものなのだ。
アンジュリーンもアリアリーシャも次席が自分達に声を掛けてきた事に舞い上がっていたが、このままでは、話が進まないと思った次席が、もう一度声を掛けてきた。
「君達は、3位決定戦に出場するのだから、その場所を譲ってもらえないだろうか?」
次席は、本戦のB組の選手なので、これから行われる本戦の準々決勝に出場するために控室に入ってきた。
そして、アンジュリーン達の試合は本線の準々決勝と準決勝が終わった後になる事から、控室で一番良い場所を譲ってもらおうとした。
「それにしても、君達は、次の3位決定戦で対戦するんじゃないの? 1年生は、仲が良いんだね」
「あ、ああ、私達、同じパーティーなんです」
少し緊張気味だったアンジュリーンが答えた。
次席は、敗者復活戦を観戦していたのか、次に対戦するはずのアンジュリーンとアリアリーシャが一緒に居て何やら親しい様子で話していた事から、その内容について気になったようだ。
試合前となれば、同じパーティー同士でもお互いに気を遣って離れるようにしているが、2人にはそのような気遣いをしている様子は無かった。
「は、初めまして、アリアリーシャです」
アリアリーシャは、次席に挨拶をした。
3年生の次席ともなれば、アリアリーシャは名前も噂も聞いている。
同じパーティーメンバーのアンジュリーンに声を掛けてきたなら、礼は尽くすので挨拶はする。
「ああ、君も残念だったね。その前の試合から見ていたけど、とても良い作戦だったと思うよ。前の試合から布石を打つとか、あれは、誰かに指示されて他の?」
「あ、いえ、私が考えて行いました。え、私の試合も見てくださっていたのですね」
アリアリーシャは、少し恥ずかしそうに答えたが、その様子を次席は気にする事なく意外そうな表情で見ていた。
「ふーん、そうだったのか。よかったよ。もし、君と対戦していたら、僕は負けていたかもしれないね」
アリアリーシャに笑顔で答えると、アリアリーシャは、顔を赤くしていた。
その様子を見てから、次席はアンジュリーンを見た。
「君との試合は、本当に焦ったよ。あそこまで追い詰められるとは思わなかったからね。僕は、あの時、初めて大会で槍を使ったけど、少し舐めてかかっていたと反省したし、君にも悪い事をしたと思っている。すまなかった」
そう言って、アンジュリーンに詫びを入れるように頭を下げたが、その表情には本当は違うと言いたそうな表情をしていた。
しかし、アンジュリーンは、そんな次席が紳士的な対応をしてくれたと思うと少し舞い上がっていた。
「ところで、本戦の1年生の2人は、君達のパーティーなの?」
次席の言葉を聞いて、アリアリーシャはアピールするチャンスと思った様子で、次席を見上げた。
「そうなんですぅ。ジュネスとレオンも同じパーティーなんですぅ」
それを聞いて、次席は考えるような仕草をした。
「ああ、ベスト8に初めて入った1年生は君達と同じパーティーだったのか」
納得するような事を言うが、表情からは初めて聞いたようには思えなかった。
そして、今まで何も言葉を発しないシュレイノリアを見ると、少し離れたところにいたカミュルイアンを確認した。
「少し離れた、あそこのエルフの彼も君達と一緒のパーティーなの?」
珍しいエルフの男子が入学してきた事は、直ぐに学校内に広まっていた。
そして、特待生が2人も居るパーティーとなれば、学校内で知らない者は居ない。
次席は知っていて知らないふりをして聞いたが、アンジュリーンとアリアリーシャは、次席の視線を追いかけてカミュルイアンを確認すると、2人とも何でカミュルイアンが遠くに離れているのかと、言いたそうな表情で睨んだ。
視線を感じたカミュルイアンは、一瞬、ビクッとした。
「カミュー! こっちに来なさい!」
パーティーの話が出てしまったので、3年生の次席に挨拶をしないのは失礼かと思ったアンジュリーンは、カミュルイアンを呼んだ。
もう、さっきのアンジュリーンの弄る話も終わっていた事もあり、カミュルイアンは素直に従った。
「ああ、彼も敗者復活戦に出場資格があったはずだよね。確か、ケガによる棄権だったはずだ。へーっ、君達のパーティーは優秀なんだね」
感心したように言いながら近寄ってくるカミュルイアンを見ていた。
「1年生のうちから、これだけ上位に食い込んできたのは、君達が初めてじゃ無いのかな」
それを聞いて、アンジュリーンとアリアリーシャは、少し嬉しそうにした。
「しかも、同じパーティーだったんだね」
次席は、歩いてくるカミュルイアンを見ていた。




