後期の武道大会 敗者復活戦の準決勝で負けたアンジュリーン
アンジュリーンは、ガッカリした表情で控室に入ってきた。
その様子をカミュルイアンは、心配そうに見ており、声を掛けようか掛けまいか悩んでいた。
そして、シュレイノリアとアリアリーシャは、ジト目でアンジュリーンをみると、お互いに視線を合わせた。
2人は、あの技を使うなと忠告していたにもかかわらず、アンジュリーンは、その忠告を無視して使い、その技に対策を施していた相手に技を使った瞬間、相手に自身の剣を叩き落とされてしまった。
冷静な目で対戦相手を分析していたシュレイノリアとアリアリーシャは、技を成功させて舞い上がったアンジュリーンに忠告したにも関わらず、それを聞く事もなく、技の対策をしてきた相手に、あっさりと負けてしまった。
そう思うと、2人は残念そうに視線を外した。
アンジュリーンの使った相手の剣を落とす技は、相手がそのことに気が付かなければ対処できずに思った通りに剣を落とす事は可能となるだろうが、準決勝の相手は、アンジュリーンの準々決勝を見て、そして、負けた相手から、その時の様子を詳しく聞いていたようだった。
直近の試合を確認して対応策を考えていたら、簡単に同じ技を食らう事はない。
そして、アンジュリーンは、シュレイノリアとアリアリーシャから同じ技を使うなと言われていたにも関わらず、最初の攻撃に使ってしまい、そして、相手の思惑通りになって、自身の剣を落とされて負けてしまった。
その事もあって、アンジュリーンは、2人に合わせる顔が無かった。
「アンジュ、残念だったね」
最初に声をかけたのは、カミュルイアンだった。
カミュルイアンは、アンジュリーンに声を掛けようかどうか悩んだのだが、シュレイノリアとアリアリーシャの様子を見て2人より先に声を掛けた方がよいと思ったようだ。
「あんな、返し技があるとは思わなかったよ。でも、準決勝まで残れてよかったね」
アンジュリーンは、凹んだ様子でカミュルイアンに視線を送ると苦笑いをした。
「アンジュは、敗者復活戦でも準決勝まで勝ち上がったんだよ。ベスト4じゃないか。うちのパーティーは、本戦と敗者復活戦で4人も成績上位者を出せたんだ。オイラも鼻が高いよ」
カミュルイアンの説明を聞いても、アンジュリーンの気持ちは晴れなかった。
「あ、ありがとう」
アンジュリーンは、カミュルイアンに答えはしたが、シュレイノリアとアリアリーシャには目を合わせにくそうにしていた。
「アンジュ、おめでとう。姉さんと同じ、ベスト4だ。1年生で、この成績は誇っていいだろう」
シュレイノリアに言われても、まだ、後ろめたさが有るのか、頷くだけで視線は合わせようとしなかった。
その様子をアリアリーシャが見ていてヤレヤレといった表情をした。
「アンジュ! いつまで凹んでいるのよ! あれは、新技が使えるようになった時の洗礼よ! 使い所を間違えたら、逆にやられるって事が、直ぐに分かったのだから、良かったって事でしょ」
アリアリーシャは、いつもの語尾を伸ばす事はせずに真剣な様子で話すので、アンジュリーンも今の言葉は耳に入ってきたようだ。
「私達は1年生で、武道大会は後4回あるのよ。使い所を間違えた時のデータがアンジュの中に組み込まれたのだから、これから先の事を考えたら、早い段階でのミスデータは貴重よ! それに、1年生も2年生も私達と同じ成績を出した人は居ない訳だから、準決勝で負けたというより、準決勝に出れたという事に自信を持った方がいいでしょ」
アリアリーシャに言われて、アンジュリーンも冷静に考える事ができてきた。
上位に残れたのは、本戦でも敗者復活戦でも3年生ばかりで、その中にアンジュリーンも含めたジューネスティーン達パーティーが含まれていた。
入学してから、授業以外の時間にも体力作りを行なっていた事が、上級生の2年間以上の力を付ける事ができていた。
初めての大会で、勝ち残れて上位に食い込んでいる。
最後の大会ではなく、これからの大会の事を考えたら、アンジュリーンは、本戦では5回戦までいっており、ベスト8まで後2回勝てば良い位置にいて、本戦ベスト8に負けた敗者復活戦では4位以内となっている。
この敗者復活戦は、学校全体ランキングの9位から16位を決めるようなものであるので、実質的に学校全体のランキングを付けたら12位以内となり、アンジュリーンとしたら、1年生のうちに2年生を追い越して上位に位置付けられている事になっていた。
アンジュリーンは、準決勝で負けた事から凹んでいたが、これから先の事を考えたら敗者復活戦で準決勝まで勝ち上がれた事が、今後に大きくつながる事になると理解した。
「そうよね。私は、まだ、1年生なのだから、1年生で準決勝なのだから、これは、凄い事なのよね」
アンジュリーンの気分は昂った。
「そうよ、次の大会には、もっと、良い成績を残すように、頑張ればいいのよ!」
アンジュリーンは納得できたようだ。
「アンジュリーンとアリアリーシャの2人」
気分の戻ったアンジュリーンなのだが、そこに、大会の運営委員の職員が声を掛けてきた。
アンジュリーンは、声の方に顔を向けるが、その趣旨が何なのか分からないといった表情をしていた。
「ああ、君達の試合は、本戦の準決勝が終わった後に行うから、それまで、体を冷やさないようにしておいてくれ?」
アンジュリーンは、準決勝で負けたので、この大会での試合は終わったと思っていた。
そのため、試合と言われても理解できないといった表情をしていた。
「あのー、試合って? 私は、今、負けてきたので、決勝戦には出れないはずですけど?」
アンジュリーンは、不思議そうに職員に聞いた。
職員は、一瞬、何を言っているのかと思ったようだが、直ぐに残念そうな表情をした。
「準決勝で負けた者同士による3位決定戦の事だよ」
負けたら終わりのトーナメントでも、準決勝は違っており、そこで負けた者同士の3位決定戦が組まれるのだが、アンジュリーンは、そんな事も忘れて、負けたら終わりだと思っていたのだ。
そして、職員に言われて、自分が準決勝で負けたら3位決定戦に回る事に気が付いた。
「君達は、本戦の準々決勝と準決勝が終わった後、最初の試合になる。トーナメントの山から、アンジュリーンは、こちら側、アリアリーシャは、反対側となるから、そのつもりでいるように」
話を終えると職員は戻っていった。
そして、アンジュリーンは、自身の大会はまだ終わっておらず、そして、その対戦相手がメンバーのアリアリーシャだと思うと、どう対応して良いのか困ってしまっていた。




