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後期の武道大会  アンジュリーンの準決勝


 控室を慌てて出たアンジュリーンは、急いで会場に入り試合場に行ったが、試合場に入ろうとすると、近くの副審がアンジュリーンを止めた。


「ちょっと、君! 素手で戦うのか?」


 アンジュリーンは慌てていたので、会場に入る時に自分が持っていた木刀を持ってくるのを忘れてしまっていた。


「あっ!」


 アンジュリーンは、シュレイノリアに身体のケアをしてもらった時、剣を壁に立て掛けて置いておいたままにしていたことを思い出した。


 アリアリーシャの試合を観戦したら持って出れば良い程度に考えていたのだが、アリアリーシャは一撃で負けており、観戦する暇も無く戻ってきたアリアリーシャの話を聞いていた。


 それに集中しており、職員の言葉も耳に入らなかったので、慌てて試合場に行ってしまった。


 その際、自身の剣を持っていなかった事に気付かずにいた。


「アンジュ!」


 すると、控室の扉が開いて、そこにシュレイノリアが、アンジュリーンの剣を持って立っていた。


 それを確認するとアンジュリーンは、シュレイノリアを指差しながら副審を見た。


「あのー、取りに行っても、よろしいでしょうか?」


 副審はガッカリした表情で、顎を振って行けと示し、そして、左手を控室の入口に向けると、シュレイノリアに入って来いと、その手で示した。


 アンジュリーンとシュレイノリアは、お互いに近寄った。


「忘れ物だ」


 そう言ってアンジュリーンの木剣を差し出した。


「あ、ありがとう」


 アンジュリーンは、お礼を言って自身の木剣を受け取った。


 しかし、シュレイノリアは、何か言いたそうだったが、試合会場でそれ以上の言葉を掛けるのを控えた。


「勝って、帰ってくるから」


 アンジュリーンは、そう言って試合場に戻っていくと、シュレイノリアも控室に戻っていき、控室の扉を閉めようとして、何か声をかけようとして思いとどまった。


 そして、仕方なさそうに、その扉を閉めた。




 アンジュリーンは、試合場に入る前に立ち止まった。


「大変失礼しました」


 そう言って、副審、主審、そして、相手の選手に深々とお辞儀をし、会場内に入り開始線の前に立った。


「最低限の準備はして会場に入りなさい」


 主審に注意されると、アンジュリーンは、また、お詫びをするようにお辞儀をした。


 その様子を、相手の選手は蔑むような目で見たが、直ぐに表情を戻した。


 相手選手としたら、今のアンジュリーンの行為により、試合が時間切れになった際の評価が上がったと思ったようだ。


 また、試合を審査するのは人なので、その時の心象によって微妙な判断を迫られた時、場合によっては大きなアドバンテージになりかねない。


 3年生ともなれば、最低でも4回の大会に出場しており、それ以外にも学年内ランキングの試合もあり多くの経験が有る。


 そんな事もあり、相手の選手はアンジュリーンのミスをラッキーだと思った事が表情に出していた。


 試合経験の多い3年生となると、様々な経験からイレギュラーの対処も見たり経験したりしている。


 その経験から、審判への心象は大きく影響を及ぼす事も知っており、微妙な判定ならば自身に有利に働くと理解していた。


 このような場合、アンジュリーンは、完全な形の勝利が必要になる事から自身が優勢になったと考えていた。




 しかし、アンジュリーンの表情には余裕が伺えた。


 剣を忘れてしまった事で不利になったのだが、要は完全な形の勝ちをもぎ取れば良い程度に思っていたようだ。


 自信に満ちたように相手の選手を見ていた。


(試合内容に持ち込まれたら、今の事で私が不利になるわ。でも、要は勝てばいいのよ。さっき、成功したのだから、今回も、また、成功させてみせるわ!)


 余裕の有りそうな表情でアンジュリーンは相手選手を見た。


「両者、構えて!」


 2人がお互いを睨むように見ているだけで、剣を構える様子が無かった事から主審が指導した。


 それによって、アンジュリーンは、忘れてシュレイノリアに渡された剣を中段に構えると、その様子を見ていた相手も、アンジュリーンの構えを確認してから、その構えに合わせるように中段に構えた。


 お互いの選手が構えた事を主審は確認した。


「始め!」


 しかし、2人は直ぐに飛び出す様子もなく、お互いに切先を向けたまま、徐々に間合いを詰めていた。


 そして、お互いの切先が僅かにクロスする距離に入ると、アンジュリーンは、相手の剣と触れる寸前に飛び込んだ。


 そして、自身の剣の峰を相手の大剣の鎬に合わせるように添えながら、自身の剣の反りを利用して、相手の剣を切先側で押さえつつ、相手の剣の鋒を自身の剣の鍔で引っ掛けた。


 そのまま、自身の剣の切先を落とすように力を加えようとした。


 しかし、その時、アンジュリーンの剣は自身の手の中に無く、地面を音を立てて剣がバウンドして止まった。


 アンジュリーンは、何で自身の手に剣がないのか理解できないまま、呆然と自身の剣を見ているだけだった。


 そして、相手は、自身の剣をアンジュリーンの首に当てた。


「あの技を仕掛けてくる事は分かっていたからね。だから、仕掛けて叩き落とす瞬間を狙って、先にこっちが叩き落としたんだよ」


 相手の選手は、アンジュリーンが何も理解できていなかったようなので、自身の行った事を解説してくれた。


「君は、1年生だからね。きっと、2年後には、優勝を争う選手になると思うよ」


 そう言うと相手選手は、主審に笑顔を向けてから、自身の開始戦に戻った。


 アンジュリーンは、呆然としていると、主審に自身の剣を拾って開始線に戻るように促されるので、言われるがまま、自身の剣を拾って開始線に戻った。


 そして、自分が負けた事を悟った。


(ああ、これが、現実なのね)


 アンジュリーンは、力無く相手選手の勝ち名乗りを聞くと試合会場を去っていった。


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