後期の武道大会 アリアリーシャの準々決勝
アリアリーシャは、あっさりと負けてしまった事を、アッケラカンと伝えたが、その様子をシュレイノリアは、黙ってジーッと見ていた。
「あんなにぃ力がぁ、強いとはぁ、思いませんでしたぁ」
黙って聞いていたシュレイノリアは、隣に居たカミュルイアンの袖を引っ張った。
気がついたカミュルイアンは、その方向を見ると真剣な様子のシュレイノリアと目が合った。
「カミュー、まずは、見ていたお前が、試合の解説をしろ!」
カミュルイアンは、シュレイノリアの様子が、あまりに真剣そうだったことから、少しオドオドしたような表情をした。
「姉さんの語尾を伸ばす言い回しだと、時間が掛かり過ぎる! お前の事実関係だけを伝える方法なら時間も短縮できるから、カミューが説明しろ!」
アリアリーシャは苦笑いをしつつ、カミュルイアンはアリアリーシャが気を悪くしないかと2人を見比べながら聞いていた。
そして、アリアリーシャの様子から、喧嘩にはならないだろうと思ったのか、少し身体の力を抜いた。
「うん」
カミュルイアンは、今の話から早く要点をまとめて言った方が良いと思ったようだ。
「開始早々に2人は飛び出したんだ。首席は、剣を横に振りかぶりながら出てきてたから、アリーシャは、その剣を受け流すように斜めに構えていたんだけど、きっと、剣が当たる瞬間に剣の軌道を変えてたみたいなんだよ。それで、押し込まれそうになるから、アリーシャが両手の剣で押さえようとしたけど、その時、首席は更に力を加えるようにして振り切ったんだ。でも、あの時、アリーシャが横に飛んだように見えたけど」
そこまで言うとチラリとアリアリーシャを見ると目が合った。
「そうですぅ、あの時ぃ、剣だけでぇ、力をぉ抑えられないなぁって思って、体ごとぉ、横にぃ飛びましたぁ」
シュレイノリアは、少しイライラしたようにアリアリーシャを見た。
ただ、その行動には、首席の剣の力を分散させるため、剣の進む方向に動いてダメージも最小限に押さえようというアリアリーシャの考えが伺えた。
アリアリーシャのような小柄で敏捷性の高い事を利用した高等テクニックと言える。
「そのぉ、勢いをぉ、殺そうとぉ、飛んだのにぃ、それをぉ、利用されてぇ、更にぃ、力をぉ掛けられてぇ吹っ飛んでぇしまいましたぁ」
大体の様子は、今の説明で理解できたといった様子で、シュレイノリアは大きく息を吐いた。
「前の試合の小細工なんてぇ、首席にはぁ、関係無かったですぅ」
そう言って苦笑いをした。
シュレイノリアは、今の話の内容を頭の中で整理するような表情をした。
そして、何かに気がついたようにアリアリーシャを見た。
「それより、姉さんにケガは無かったのか?」
アリアリーシャは、開始早々に場外まで吹っ飛ばされて負けていた。
約30メートル四方の中央から場外までなら最低でも15メートルとなれば、20メートルは飛ばされていると考えられる事から、その運動エネルギーによって身体に何か影響が出ていたのでは無いかと思えたのだ。
「ええ、格闘技の授業でぇ、受け身はぁ、嫌と言うほど仕込まれたからぁ、受け身はぁ取ったのですけどぉ、1回じゃぁ力を分散できなかったのでぇ、何度もぉ転がってぇしまいましたぁ」
話を聞き終わると、シュレイノリアは、カミュルイアンを見た。
今の話が事実かどうかを確認するためにカミュルイアンに視線を合わせると、カミュルイアンは、首を縦に振って、今言った通りだと示した。
それを見て、シュレイノリアは、少し安心したようだが、それでも完全に不安は拭い去られた訳では無かった。
「そうか、まあ、ここまで、普通に戻って来れたのなら、問題は無いだろうが、念の為確認しておく。今は、興奮状態の可能性が高い。痛めていたとしても痛まない事もあるからな」
そう言うとシュレイノリアは、アリアリーシャの手を取って隅の方に移動していった。
それをカミュルイアンとアンジュリーンは見送った。
「3年生の首席って、本当に凄い実力を持っているんだね」
カミュルイアンは、シュレイノリア達を見送りつつ言葉にした。
「そうね、私は、決勝戦でしか対戦しないけど、気をつけておかなければいけないわね」
その答えを聞いたカミュルイアンは、少し心配そうにアンジュリーンを見た。
「アンジュは、これから準決勝だよ。あまり、勝ったつもりのような事を言うと、決勝戦まで上がれなくなるよ」
アンジュリーンは、少し思い上がったような事を言ってしまった事をカミュルイアンに指摘されて恥ずかしいと思ったのか少し顔を赤くした。
しかし、それは直ぐに変わった。
「な、何言っているのよ! カミューのくせに!」
アンジュリーンは、恥ずかしさを紛らわすように強い口調で答えた。
「大体、次の11位との対戦があったとしても、大会全体のイメージを持つようにと思ってだけよ、次に勝つつもりでいなかったら勝てないでしょ! 私は、次の試合に勝ったら、ご褒美のような首席との試合が待っていると思う事で、私を奮い立たせているのよ! ふん!」
カミュルイアンは、そんなアンジュリーンの言葉が、上っ面の誤魔化しのように聞こえていたが黙って聞いていた。
それよりも、大事な事が有るとでも言いたそうにアンジュリーンを見ていた。
すると、アンジュリーンの左肩に手が置かれた。
それに驚いたようにアンジュリーンは左側に顔を向けた。
「何よぉ!」
アンジュリーンは、顔を向けた方向にいた人が、自分の肩に手を置いていたので強い口調で聞いた。
しかし、言われた相手は、ムッとした表情をしてアンジュリーンを睨んだ。
「君の試合なんだけど、何度も呼んでも、顔も向けなかったんだよ! それとも、君は、次の試合は棄権で良かったのかな?」
アンジュリーンは、試合会場に入るように職員から呼ばれていたのだが、アリアリーシャの事が気になって聞こえていなかったので、職員は直々にアンジュリーンの所に来たのだ。
「あ、はい。今直ぐ入ります」
アンジュリーンは、失礼しましたと態度に表しながら答えると、そそくさと会場に入っていった。




