後期の武道大会 控室のアンジュリーンとアリアリーシャの準決勝
アンジュリーンは、相手の剣を絡めて叩き落とす技を初めて成功した余韻のまま控室に戻ってきた。
完全に周りの様子が見えてなかった。
そんなアンジュリーンにカミュルイアンは祝辞を述べようとして、声をかける前に表情が曇ってしまい、どう声を掛けたら良いのか迷ってしまっていた。
それをシュレイノリアがジト目で見ていた。
戻ってきたアンジュリーンは、隅に置いてあった椅子に座るが、心ここに在らずといったようだ。
「アンジュ、あの技は、次の試合では使うなよ」
シュレイノリアは、惚けていたアンジュリーンに声を掛けた。
「ふーん」
アンジュリーンは、気のない返事をするが、言われた事が最初は気付かなかったようだが、徐々に表情を曇らせていった。
「えっ! シュレ、何言っているのよ! 完成した技なら、体に馴染ませるためにも、また、すぐに使った方がいいでしょ!」
その答えを聞いてシュレイノリアは、蔑んだ目でアンジュリーンを見た。
「お前は、あんな難しい技を、ぶっつけ本番で使って、しかも、何度も失敗して成功させた! あんな方法で、2回目が有るか! 次に使ったら、その瞬間、お前は負ける!」
シュレイノリアの言っている事は、冷静な分析によりアンジュリーンに注意勧告しただけなのだが、アンジュリーンは、イラついたような表情をした。
「な、な、なんで、そんな事、言い切れるのよ!」
「ああ、間違い無い。次は完璧に負ける」
シュレイノリアも、アリアリーシャが気がついたように、次の相手の11位の選手が、今戦った10位の選手に何かを聞いている事に気がついていた。
負けた相手から、次の選手が聞くと言ったら、大半は、相手の戦い方の状況を聞き、その中に、癖か何かを見出せれば、次の対戦の際に大きなアドバンテージになる。
そして、敗戦後に次に対戦する相手であって、なおかつ、よく知っている相手ならば気が付いた事は全て話す事が多い。
ランキング10位と11位なら、3年生のセカンドグループとして君臨していることもあり交流が深い可能性が高く、負けた直後なら仇を取って欲しいと、持っている情報は渡しやすい。
身内なり交流の深い相手なら、自身が負けてしまったなら、知っている顔に勝ち上がって欲しいと考える。
その事が分かったから、シュレイノリアはアンジュリーンに忠告したが、それは、全く通じていなかった。
「ふん! まあ、良い! それより、お前の体調を確認する! 姉さんの試合が終わったら、直ぐにアンジュの試合だ。可能な限り、体調はベストな状態にする!」
シュレイノリアは、剣を叩き落とす技を使うなと言った理由を説明する事なく、アンジュリーンの体のケアに入ったが、アンジュリーンは、不満そうにしていた。
「うん、痛めたところは無さそうだが、さっきの試合に時間を掛け過ぎた分、筋肉に疲労が溜まっている。あんな、難しい技を使わなくても、お前なら勝てただろう」
すると、会場の方から歓声が上がった。
「おお、試合が始まったみたいだ。アンジュも姉さんの試合を見ておこう」
シュレイノリアは、そう言うと立ち上がって、窓の近くに居たカミュルイアンの方に行くと、アンジュリーンも椅子から立って2人の方に行った。
「どうなの? アリーシャは、良い試合をしているの?」
2人に話しかけつつ、試合の状況を聞くが、2人の様子は、そんな悠長な表情ではなかった。
「カミュー、お前は試合を見ていたはずだ。姉さんは、どうやって負けた!」
シュレイノリアは、アリアリーシャの試合が簡単に終わるとは思っていなかったのだが、開始早々にアリアリーシャは負けていた。
さっきの歓声は、勝負が一瞬で相手の首席が勝った事によるものだったのだ。
「え、ああ、うん、一撃でアリーシャが負けたよ」
「ちょっと、カミュー、どう言う事なの! ちゃんと説明しなさいよ!」
カミュルイアンが答えると、その答えにアンジュリーンが噛みついた。
アリアリーシャが一撃を喰らった程度で負けるとは思えなかったので、あり得ない事だと思ったのだ。
「さ、最初の一撃で、アリーシャが、場外まで吹っ飛ばされて、しまったんだよ。だから、場外に出たという事で負けてしまったんだよ」
「ねえ、バカな事言ってないで、ちゃんと説明しなさい!」
試合会場は縦横30メートル程の四角形の広さがある。
開始直後となったら、ほぼ中央の位置に居るので、そこから場外まで吹っ飛ばされるとは思えなかった事から、アンジュリーンは、カミュルイアンの説明が、ふざけた話に思えた。
そんな2人を他所にシュレイノリアは、会場を見ていた。
そして、ホッとしたような表情をした。
試合会場では、試合の終了宣言をしてアリアリーシャが帰ってくるところだった。
シュレイノリアは、そんなアリアリーシャをジーッと見ていた。
アリアリーシャは、控室にガッカリした様子で入ってきたが、控室に居た3人の表情を見ると、やらかしてしまったという表情に変わった。
「いやー、負けてしまいましたぁ。やっぱり、3年生の首席は強かったですぅ」
アリアリーシャとしたら、この試合の前に首席にプレッシャーを与えるように考えて試合を進めていたが、そんな策を見事に覆すような力を見せつけられてしまった。
負けた事は残念だったようだが、その負けっぷりには納得しているようだった。




