後期の武道大会 準々決勝に勝ったアンジュリーン
アンジュリーンは、ジューネスティーンの使った剣を叩き落とす技法は使うことが出来なかった。
それを、試合相手の剣を見て、レイビアのような細身の剣なら出来るのでは無いかと思い実行してみた。
しかし、最初から上手くいく訳では無く、何度も何度もジューネスティーンが成功させた時の事を思い出しつつ試行錯誤し、相手の攻撃を受けながら何度も同じことを繰り返して失敗していた。
本来なら、練習中に行うか、相手と戦闘の条件を決めて行う約束稽古なら分かる話だが、アンジュリーンは、それを試合中におっこなっていた。
失敗したら負ける。
この試合は負けたら終わりのトーナメントなのに、そんなリスクを背負っている事も気にせずに突っ走ってしまった。
アンジュリーンの性格だから、こんな無謀な賭けに出れたと言えよう。
アンジュリーンは、相手の剣を叩き落とすと、その剣から視線を外す事なく、叩き落としたままの状態で、ただ、見つめていた。
もし、ここで相手に予備の武器が有れば、そんな惚けたアンジュリーンに致命傷を与えられるように持っていくだけで、勝負はアンジュリーンの負けで終わっただろう。
しかし、相手は、レイビア型の木剣一本で試合に臨んでいたので、自身の剣を場外に叩き落とされた時点で攻撃手段を失って勝負はついてしまった事になる。
相手選手は、アンジュリーンが動く気配が無かった事から、主審に棄権を申し出て、それを受諾された。
最後は、何とも言えない幕切れとなってしまったが、主審は選手からの申告により、勝敗を決めなければならない事にガッカリしつつもアンジュリーンの勝利を宣言したのだが、アンジュリーンには全く聞こえていなかった。
相手の選手は、主審の宣言を聞き、自身の開始線の位置に戻ろうとしたのだが、試合場のコーナーに追い詰められた状態だった事もあり、アンジュリーンが動こうとせずに固まっていた、その表情を見て驚くと、その後はアンジュリーンに可能な限り離れるようにして自身の開始線に戻っていった。
その際、アンジュリーンの顔を見ていたが、かなり、ドン引きした表情でアンジュリーンを見ていた。
相手選手が開始線に戻っても、アンジュリーンは剣を叩き落とした時の状態のまま固まっていた。
「おい、ちょっと」
主審がアンジュリーンを呼ぶが、アンジュリーンは固まったままだった。
「君ぃ!」
全く動きの無いアンジュリーンに、主審は大きな声で呼んだ。
その声で初めて気が付いたというようにアンジュリーンは、構えを崩して主審の方を見た。
その表情を見た主審は、何か気持ち悪い物を見たような表情をした。
「さ、さっさと、開始線に戻って」
「はいぃ」
そう言うと、アンジュリーンは、試合場のコーナーから自身の停止線まで戻っていった。
ただ、自身の立っていた場所から開始線に一直線に戻っていったので、主審の前を横切っていった。
通常ならば、主審でも選手でも人の前を横切ることはせず、その後ろを回るようにするのだが、ニヤけた表情のまま、周りの事など全く目に入らないといった様子で戻っていった。
主審も副審も審判員も、そのアンジュリーンの様子を、ただ、見守っていた。
そして、アンジュリーンが開始線に戻ると主審は、そそくさとアンジュリーンの勝利宣言をして試合を終わらせていた。
アンジュリーンは、上の空で主審の勝利宣言を聞くと、そのまま、控室に帰っていった。
アンジュリーンが控室に入ると、入り口付近に、アリアリーシャが立っていた。
「アンジュ、おめで、と、う」
アリアリーシャは、次の準決勝第1試合の選手なので、呼び出されたら直ぐに会場に入れるように控室の扉の前に立っていた。
そして、入ってきたアンジュリーンに祝辞を述べたのだが、アンジュリーンの表情から言葉に詰まってしまった。
そして、あの変な表情を見て気になったようだ
(大丈夫かしら? あの技、アンジュは使えなかったはずなのに、ひょっとして、ぶっつけ本番で決めたの?)
アリアリーシャは、アンジュリーン目で追いかけていた。
(あの技は、決まると嬉しいけど、あそこまで、喜び過ぎるの? まぁ、次も頑張って欲しいものね)
アリアリーシャは、アンジュリーンの様子を見つつ、ヤレヤレといった表情をした。
(あの技は、使い時が重要なんだから、次は使わないでしょうね。ほら、あっちの控室で、次のあなたの相手が、負けた10位の選手に、色々、聞いているわよ)
アリアリーシャは、向こう側に見える控室の窓辺に、今負けた10位の選手と次に対戦する11位の選手が話をしている姿を見た。
(今の戦い、あの11位も見ていたし、あれは、今対戦した時の状況を確認しているはずよ。だから、次に同じ技は通用しない! あれは、奇襲戦法なのだから、次は正攻法か別の方法で戦う必要があるわ)
そして、アンジュリーンを見て、アリアリーシャは不安になった。
(ちょっと、まだ、惚けた顔して! あれ、絶対分かってないじゃないかしら!)
「シュ!」
「アリアリーシャ、会場に入って!」
アリアリーシャは、シュレイノリアを呼ぼうとした瞬間、会場へ入るように促された。
「はい」
心配そうな視線をシュレイノリアに送りつつ、アリアリーシャは、首席との対戦のため会場に入っていった。




