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後期の武道大会  アンジュリーンの準々決勝 2


 アンジュリーンの試合は、相手の最初の一撃をアンジュリーンが躱しつつ相手の首を狙った攻撃を行ったが、それも躱されていた。


 お互いに相手の力を探っての最初の一撃だったと言える。


 その結果、不用意に仕掛けたら、攻撃の隙を突かれってしまう可能性をお互いに感じていた。


(さすがね。でも、あのレイビアの形状なら、あの技が使えるかもしれないわ。ひょっとすると、私も使えるようになるかもしれない! 試す価値はありそうね)


 アンジュリーンは、相手の様子を窺っているが、それは、相手も一緒だった。


 しかし、アンジュリーンは、何かを考えつつ窺っていた。


(じゃあ、仕掛けてみましょうか)


 アンジュリーンは、間合いを詰め始めた。


 相手はアンジュリーンの間合いの詰めるのを黙って許していた。


 そして、相手は自身の間合いに入った瞬間に剣を突き出してきた。


 アンジュリーンは、その突きを剣の峰で払うようにして、刃を相手の首目掛けて伸ばすと、相手は剣を持つ手を持ち上げながらアンジュリーンの剣を躱すと、また、間合いを取った。


 それを、アンジュリーンは何度か繰り返し、間合いを取られると、何やら呟くような仕草をしていた。


 相手の選手は、そのアンジュリーンの様子が気になっているようであり、怪しそうに見ていた。


 しかし、それが何なのかまでは気付いてはいない。


 最初は、アンジュリーンが間合いを詰めてきたタイミングで仕掛けていたが、何度も同じ事をしてくる事に違和感を覚えたようだ。


 そして、何度か繰り返されると、アンジュリーンが間合いに入ってくる事を嫌い、ギリギリの間合いをキープするため、アンジュリーンが間合いを詰めると、その都度下がっていた。


 それが下がり過ぎて会場ギリギリの所まで来ると、仕方無さそうに剣を突き出して同じようにお互いの攻防を行うのだが、会場ギリギリまで追い詰められていた事もあり、その都度、大きく回り込んで間合いを取っていた。


 しかし、何度も同じような攻防が続くと、追い詰められた場所が試合場のコーナーになってしまい、回り込みずらい場所に追い詰められてしまった。


 今までと同じようにアンジュリーンが間合いに入ったタイミングで仕掛けたとしたら、後の間合いを開け難い事になり、一度でアンジュリーンの間合いから出ることは不可能な場所になる。


 相手の選手は、自身が試合上のコーナーに追い詰められている事に気がついており、不利な体勢に持ち込まれている事に気がついており、それが表情に現れていた。


 ただ、アンジュリーンは、そんな相手の様子を気にする様子は無く、何かブツブツと呟いていた。


 相手の選手は、今までアンジュリーンが自身の間合いに入った瞬間に仕掛けていたが、それでは、今までのように攻撃した後に間合いを開けられず、アンジュリーンの間合いの中から離れられないので、その後、連続で攻撃を受ける必要がある事に気がついていた。


 そして、今までの鬩ぎ合いにより、アンジュリーンの実力が、かなり高い事も気付いていた。


 今まで、アンジュリーンより先に仕掛けていた事から、時間切れになった際の判定では有利に働いているだろうが、短い間合いの中での攻防が続いた際は、レイビアのような突く剣より、アンジュリーンのような斬る剣の方が有利になる事もあり、今までの優位を帳消しにされる可能性もある。


 それなら、完全にコーナーに追い込まれる前に仕掛けて、アンジュリーンの間合いから離れてしまえばよい。


 相手は、コーナーギリギリに追い込まれる前に仕掛けた。


 その攻撃をアンジュリーンは、自身の剣を相手の剣の峰に合わせるように突き出した。


 そして、相手の剣の切先がアンジュリーンの剣の鍔の辺りまでくると、峰を相手の剣に合わせ、自身の切先を相手の広い鍔に当てると、そのまま、一気に自身の剣を叩き落とすように振った。


 相手は、いつもの間合いより広い部分から飛び出していた事もあり、腕は伸び切って、少しでも剣を伸ばそうとしていた。


 相手の剣は、アンジュリーンの剣の反りを使って、相手の剣を絡ませると、そのまま一気に叩き落としてしまった。


(できた!)


 アンジュリーンは、ジューネスティーンが使っていた、相手の剣を自身の剣で絡めて落とす技は教えてもらってはいたが、成功した試しが無かった。


 ジューネスティーンやパーティーメンバーを相手にしていた時もだが、授業の際に他の生徒との対戦でも、常に失敗していた事から、不器用な自分には不向きな高等テクニックだと思っていた。


 しかし、この相手の持つ、細身のレイビアを使う相手は初めてだった事もあり、このような細い剣なら自身でも使えるのではないかと思いついたのだ。


 成功していない技を本番で使うというのは勇気が必要となる。


 もし、これが、カミュルイアンのような性格だったら、そんな不安要素のある技は、試合では使わないだろうが、気の強いアンジュリーンだった事から、そんな冒険的で無謀な賭けに出ていた。




 相手の剣は、叩き落とされ試合場から出てしまっていた。


 そして、剣を拾うには試合場を出る事になるので、相手の選手は素手のまま呆然としていた。


 一方、アンジュリーンは、初めて成功した技に感動しており、叩き落としたままの格好で固まってしまっていた。


 通常なら、ここでアンジュリーンが剣を向ければ試合終了となるのだが、アンジュリーンとしたら、そんな事より相手の剣を落とす事が出来た事の方が勝っていた。


 相手選手は、困ったような表情でアンジュリーンを見るが、このままでは、試合が終わる事はないと思ったようだ。


「主審! 棄権します」


 相手の選手は、武器も無くなってしまい、そして、アンジュリーンが追い詰める様子も無かった事から、そう進言した。


「勝者、アンジュリーン」


 主審は、力無く宣言した。


 アンジュリーンの準々決勝は、相手選手の試合放棄という形で幕を閉じた。


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