後期の武道大会 アリアリーシャの準々決勝
控室から試合場に、アリアリーシャは、ゆっくりと歩いて向かっていた。
身長の小さいアリアリーシャならば、普通に歩いていたら遅れてしまう。
いつもなら、少し早めに歩き相手に合わせるのだが今回は違った。
そのため、相手のランキング5位は、試合場の開始線についてもアリアリーシャは歩いて会場に向かっているところだった。
その様子が、相手には少し気に食わなかったのか、早く歩けと言わんばかりにアリアリーシャを睨みつけていた。
アリアリーシャは、相手と視線も合わせる事なく、そして、その様子を気にする事なく自分のペースで会場内に入り開始線まで進み、自身の視線を相手のつま先から、一つ一つ確認するようにゆっくり視線をあげていった。
そして、初めて相手と視線を合わせる。
その視線には、明らかに苛立ちが伺えた。
相手は、今直ぐ飛びかかりたいという表情で剣を構えたが、アリアリーシャは、構える様子も無く黙って開始線に立っていた。
「構えて」
主審がアリアリーシャに促すと、初めて両腰につけた2本の刃渡り50センチの曲剣を引き抜くのだが、それを、片方ずつ、ゆっくりと引き抜いていった。
両方の剣を抜き終わると、切先を地面にむけ、利き腕の左腕を、また、ゆっくり上げて切先を相手に向けつつ、右足をすり足で徐々に下げた。
その動作は止まることなく行われていた事から主審は黙って開始を告げる事をせずに見守っていた。
しかし、対戦相手の方は、また、焦らされてしまい、さらにイライラしてしまっていた。
アリアリーシャの構えが止まるのを確認すると主審が開始を宣言した。
その瞬間、相手は一気に飛び出し、自身の剣を左脇の方に大きく振りかぶり横から振り回してきた。
(あれじゃあ、当たったら死ぬでしょ!)
アリアリーシャは、自身の身長の低さを利用し、しゃがみ込みつつ、下げていた右手を上げながら、相手の剣を鎬で跳ね上げるように受けたので、その剣は頭の上を空振りした。
空振りした剣は、相手の右脇まで戻ると、また、大きく振り回して戻ってくる。
(あら、ちょっと、やりすぎかしら)
アリアリーシャが、しゃがんでやり過ごしていた、その脇腹を狙っていたので、先程より低い部分に剣が来るので、今度は飛び上がってやり過ごし、同時に後ろに飛んでいた。
そして、相手も、振り切った勢いを使って間合いを取るように後ろに下がった。
2人は最初の立ち会いを終え、間合いをとって構え直す。
アリアリーシャは、左の剣の切先を相手に向けつつ、右手は、ダラリと下げていた。
そして、相手は、中段に自身の剣を構えて、切先をアリアリーシャに向けた。
仕切り直しとなり、相手が自身のタイミングを測ろうとしている時に、アリアリーシャは一気に間合いに飛び込んだ。
アリアリーシャは、左手の剣で相手の左肩を突くように向かっていくので、それを自身の剣で叩いて落とそうと、剣の鎬を使って自身の左側に弾こうとした。
その時、アリアリーシャの右手が動くが、相手の剣の影からスッと相手の剣に絡めるように上げた。
そして、その右手の剣は、手前に相手の剣の鍔の手前に切先が現れ、自身の剣の曲がりを利用いて切先を相手の剣に引っ掛け左手の剣は添えるようにして押さえつけると、そのまま、相手の剣を抑えつつ、相手の鍔の部分まで滑るように進むと、相手の剣は手から離れてしまい床に落ちてしまった。
その剣は、何回かバウンドして止まった。
一瞬の出来事だったが、アリアリーシャは、ジューネスティーンが、3年生の首席相手に行った方法を、少しアレンジしたやり方で行ったのだ。
そして、相手が武器をなくしたまま唖然としていると、その首筋に自身の剣を添えた。
「勝負あり! 勝者、アリアリーシャ!」
主審の宣言を聞くとアリアリーシャは、ゆっくりと息を吐きつつ剣を戻した。
相手は、ただ、アリアリーシャを見るだけだった。
そして、アリアリーシャが離れていくと、自身の両手を信じられないというように見た。
アリアリーシャが自身の開始線に戻っても、相手は動こうとしなかったので、主審に注意されると、仕方なさそうに落ちている自身の剣を拾って開始線に戻っていった。
その間、アリアリーシャは、相手ではなく、その先にある相手側の控室の窓を見ていた。
(さあ、次は貴方の番よ!)
アリアリーシャは、勝つにあたり勝ち方も考えていた。
それは、次の試合で当たる首席との試合において、頑なに相手の剣を叩き落として勝ち上がってきたことへの当て付けなのだ。
首席はジューネスティーンとの対戦において、自身の剣を落とされて負けていたのだが、それと同じ事が自分にも出来るのだと、この試合でアピールした。
剣を落とすにあたり、ジューネスティーンもアリアリーシャも曲剣を使っていたことから可能となっていたが、特にジューネスティーン達パーティーが使うような細身の曲剣は人気が無かった事もあり、首席や一般の生徒の使う幅広の直剣では出来ない技といえる。
それでも、相手の剣を叩き落とそうと考えたら、より強力な力で相手の剣を叩き落とすしかない。
その強引なやり方で勝ち上がってきた首席に対する無言のアピールをアリアリーシャは行った。
勝ち名乗りが終わると、アリアリーシャは、そそくさと控室に戻っていった。




