後期の武道大会 アンジュリーンの5・6回戦 3
槍から大剣に武器を変えてきた相手に、アンジュリーンは少し戸惑っていたが、2回の攻撃を受け流していた。
しかし、自身の思ったような受け流しが出来なかったので、強引な受け流しになってしまった事により、少し両手が痺れていた。
しかし、そんな様子を相手に知られないように様子を伺うように左回りに動いた。
(この人、次席の人と技も力も大差が無いのかもしれないわ)
アンジュリーンは、試合の相手が3年生の15位というランキングに疑問を持った。
3年生の実力は、首席と次席が均衡しており、その二人から、頭二つは違うと言われていた3位グループは、3位〜11位までが、ほぼ均衡していると話には聞いていた。
そして、12位以下については、大した噂は聞いていなかったので、アンジュリーンは、この5・6回戦で手こずるとは思っていなかった。
しかし、この相手は、槍では次席には遠く及ばないと思えたのだが、大剣に変更してからは、考えられない力を発揮してると感じていた。
(ちょっと、どういう事なのよ!)
不思議に思いつつも、表情には出さないように注意しながら、相手の様子を伺っていた。
(いえ、でも、学年ランキングは、正確だと聞いているし、私の学年についても、納得のランキングだったわ)
アンジュリーンは、軽く牽制するように剣を動かしつつ、間合いを測っていた。
(なら、ランキング15位は、15位なりの理由があるはず! 慎重に相手を探っていたら、15位の理由が見つかるかもしれないわ)
フェイントを掛けつつ、動きを牽制していたので、腕の痺れも治ってくると、アンジュリーンは、一気に踏み込んで間合いを詰めた。
相手は、また、フェイントと思ったのか反応が遅れた。
その反応の遅れを利用すると、相手の中段に構えた大剣を叩き踏み込んだ方向とは反対側に叩くと、反射的に剣を引き上げるように振り回してきたので、自身の剣を斜めにして、剣に沿わせるように軌道を修正させて、やり過ごそうとすると、相手は、大剣を途中で止め鍔迫り合いに持ち込もうとしてきた。
アンジュリーンは、鍔迫り合いを嫌うように、相手の大剣を上から押さえ込むようにしながら後ろにステップした。
(あら、最初に打ち込まれた時とは、何だか違うわ!)
最初に大剣で打ち込まれた時は、剣の軌道を変えられてしまい、衝撃をモロに受けていたので、手が痺れてしまっていたのだが、今の打ち込みでは、そんな高度なテクニックは見受けられなかった。
(最初の打ち込みは、計算して行っていたって事? だったら、これならどうなのかしら?)
アンジュリーンは、また、一気に間合いを詰めて、大剣を弾きながら今度は弾いた方とは反対側に大きくステップした。
相手は、反射的に体験を弾かれた方とは反対側に振り上げるのだが、弾いた瞬間に横にステップしていたので、その軌道上には何も無く、アンジュリーンは、その大剣が軌道を変えて自分に迫ってくる事を警戒するように剣をかざし次の攻撃に備えていた。
しかし、相手の大剣は軌道を変える事なく斜め上段まで振り上げられた。
その大剣が振り下ろされる前にアンジュリーンは、後ろにステップして間合いを開けたので、その振りかぶった大剣は振り下ろされる事なく、また、中段に構え直していた。
(そうか、攻撃は得意なのかもしれないけど、防御は苦手だから、単調になってしまうみたいだわ)
そして、軽くフェイントを加え、相手の様子を伺いつつ、攻撃をさせないように軽く相手の剣に触れていた。
相手は、攻撃を積極的に加えてこないのは、呼吸と共に肩が上下している事からも、スタミナも消耗しているように見える。
そのスタミナの消耗が本当なのか?
本当にスタミナが切れているなら、回復をさせないようにストレスを与えるように、嫌がらせの攻撃を加えていた。
そんな相手の様子を、アンジュリーンは見極めようとしていた。
そして、踏み込むと相手の大剣を下から跳ね上げると、反射的に大剣を振り下ろしてきた。
その先には、アンジュリーンの剣があり、その剣を叩き落とすように振り下ろしてきたところを、スッと避けるようにしたので、大剣は地面を叩いた。
アンジュリーンは、反射的な動きを利用して、相手の剣を下段まで下げさせると、その剣の反対側に入り込んだ。
そして、自身の剣を相手のがら空きになった首筋に当てた。
「勝負あり! 勝者、アンジュリーン」
主審の声が高々と会場に響いた。
すると、その声を聞いた相手の3年生は、腰が崩れるように、その場に座り込んでしまい、大きく呼吸をし始めた。
アンジュリーンは、自身の剣を左手で切先が後ろ下すよう持つと、開始線に戻ろうとした。
「いやー、君、強かったよ」
荒い息をしつつ相手の3年生は、アンジュリーンに語りかけた。
「君は、槍の、相手が、得意じゃ、無い、と、思ったけど、俺の剣術じゃ、無理、だったよ」
アンジュリーンは、やっぱりという表情をした。
「槍の後の攻撃で、決められなかった、ところで、俺の負けは決まったよ」
槍を捨てて大剣で攻撃は、アンジュリーンもギリギリで躱していた。
その攻撃が、この3年生の勝つために考えてきた戦法だったようだが、躱されてしまったので、その後の攻撃は、単調になっていたのだと、アンジュリーンは思えたように納得した表情をした。
「あの攻撃は、私もギリギリ躱せただけですし、あの後、手が痺れて、直ぐに攻撃に移れなかったので、あの時に連続攻撃をされたら、私の負けだったと思いますよ」
それを聞いて、3年生は残念そうな表情をした。
「そうか! あの次の攻撃が、出来ていたら、か!」
そして、納得したような表情をした。
「そこが、課題だったのか。 それが出来たら、俺もランキングが、もっと、上になれたんだろうな」
(それを気付けたなら、卒業後は、もっと、上に行けるでしょうね)
アンジュリーンは、3年生の話を黙って聞いていた。
(ここは、スタートラインに立つ場所なのだから、卒業したら、それで終わりではなく、これから先の冒険者と生きていくのよ。 今、それに気が付いたのだから、卒業後はギルドランクを上げるために頑張れるんじゃ無いのかしら)
「おい、君達! さっさと、開始線に戻って挨拶しなさい!」
アンジュリーンが何か声を掛けようとした時、主審から注意されてしまったので、それ以上話す事なく、アンジュリーンは開始線に戻り、相手の3年生もゆっくり立ち上がって、自身の開始線に戻った。




