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後期の武道大会  アンジュリーンの5・6回戦 2


「初め!」


 主審の声がかかったが、二人は直ぐに動く事はせず、お互いに探り合いのように前ではなく横に動き出した。


(さっきの相手に叩きぱなしにさせたから、そのせいかしら?)


 アンジュリーンは、相手が積極的に仕掛けてこない事を冷静に分析していた。


 そして相手の様子を窺うために、時々、槍の間合いギリギリあたりまで近づいた。


 そんな時、相手は、牽制けんせいするように槍を突き出してくるが、それを剣で躱していた。


(体力的な部分では、私に分があると思っているのかしら、1年生だからと、無闇矢鱈むやみやたらに突っ込んでくる様子もない!)


 相手の様子を窺いながら、何か考えているようだった。


(だったら、こっちから攻めるしかないのか)


 そして、一歩踏み出すと、そこに、槍が向かってきたので剣で躱す。


 それを何度か繰り返すと、アンジュリーンは、躱しながら更に前に出て、槍の間合いの中に入っていった。


 槍は先端で突く武器なので、間合いの内側に入られてしまうと突く事はできない。


 可能なのは、長い柄で叩くか、ひっくり返して柄尻の部分で突く程度だが、それが有効打になる事はないので、懐に入られた瞬間に相手は、右腰の剣を槍の手前を持っていた左手で抜いてアンジュリーンの剣を防御してきた。


 右手で槍を持ち、左手の剣でアンジュリーンの剣を防御するのは、次席と同じ方法だったので、そうなることは予測の範囲だった。


 そして、アンジュリーンは、間合いを開けるようにステップを踏むと、思った通り槍を突いてきたので、それを剣で払った。


(やっぱり、同じ事を狙っていたわね! でも、それは、想定の範囲なのよ! それに、この槍は、タイミングも遅いわ!)


 相手の槍は、次席の槍より技術的に劣っていたので、アンジュリーンとしたら、来ると分かっている槍なら簡単にかわせる。


 そして、負けた時の試合は、控室でシュミレーションをこなっていた事もあり、同じような攻撃で、しかも次席よりもキレの無い攻撃だった事から簡単に躱せた。


 しかし、そのアンジュリーンの対応が、相手の3年生には面白くなかった。


 槍における戦い方は、2年分のアドバンテージが有るから、次席はアンジュリーンに勝てたと思っていたのか、今の攻撃で決められなかったことに僅かに焦りを抱かせていた。


 すると、相手は左手の剣を腰に戻すと、槍を使って攻撃に転じた。


 アンジュリーンは、その攻撃を剣で躱し、その表情には余裕すら浮かべていた。


(やっぱり、この人、付け焼き刃の槍術そうじゅつだわ! こんな、キレのない突きで、相手を倒せると思っているのかしら!)


 攻撃をかわしつつ、アンジュリーンは、時々、攻撃をするため間合いに入るのだが、その都度、腰の剣によって防御されていた。


 そして、何度か攻撃を行った時に、今までとは逆方向に槍を払って間合いに入ると、アンジュリーンは、相手の頭上目掛けて剣を振り下ろした。


 寸止めの予定で剣を振り下ろしたが、相手は、自身の槍を両手で上に上げて、アンジュリーンの剣をモロに受けると、肘と身体を曲げて勢いを殺した後、一気に押し返した。


 アンジュリーンは、体勢を少し崩しながら後ずさると、胸に向かって伸びてくる槍が見えた。


 しかし、後ろに崩れていても、戻りぎわに狙われるのは想定内だった事もあり、体勢を崩しつつも、その槍を剣でかわしていた。


(やっぱり、何か企んでいたみたいね! でも、今の攻撃もかわしたわよ!)


 アンジュリーンには、まだ、精神的にも体力的にも余裕があった。


 しかし、相手は、わずかではあるが、息が上がり始めていた。


(何なの? あいつ、もう、息が上がり始めている? これも、そう思わせる作戦なの?)


 アンジュリーンは、相手の様子を伺いつつ、次の攻撃に備えようとしていた。


 そして、相手は槍を持っていた左手を外すと、背中に備えていた大剣の柄に手を掛け引き抜いた。


 その間も右手に持った槍はアンジュリーンを牽制けんせいして切先きっさきを向けていた。


 背中の大剣を抜き終わると、今度は剣の切先もアンジュリーンに向け、右手の槍を投げ捨てた。


 アンジュリーンは、相手を見つつ、その槍の動きを視界の中に確認していると、相手は、その右手も剣に添えた。


「やっぱり、不得意な武器は、性に合わないな! 今からは、こっちで相手をする!」


 そう言うと、その大剣を自身の右側に向けると切先を下ろした。


 相手の剣は、切先が地面近くまで下げられていたので、腰の辺りからほぼ45度の角度に構えた。


「これからは、今までのように簡単にはかわせないからな!」


 そう言うと、踏み出しながら、剣を斜めに振り上げてきたので、アンジュリーンは、慌てて中段に構えた剣をひっくり返して相手の剣筋に合わせながら、腕を持ち上げつつ自身に向かってくる剣の軌道を上に持ち上げた。


(チッ! おも!)


 アンジュリーンは、顔を引き攣らせつつ、相手の剣を受けていた。


 そして、剣だけでかわしきれないと判断すると頭を振って、その軌道から避けた。


 相手の剣は、そのまま、アンジュリーンにかわされて振り回し、大剣が左肩の上まで戻ると、今度は上段に構えた。


「今の一撃を躱すとはな! だが、今度はどうか、なっ!」


 そう言って、剣を小さく振りかぶりながら前に飛び出し、その大剣は、アンジュリーンの頭を狙って振り下ろされた。


 アンジュリーンは、自身の剣を頭上に水平に構えつつ柄側にステップして、剣のしのぎで受けつつ切先を下げて、力を分散させ軌道を変えさせようとした。


 しかし、相手は、その事を見越していたのか、相手の剣筋はアンジュリーンを追いかけるように軌道を変えてきた。


 これもアンジュリーンの戦い方を考え、対応策を立てていたようだ。


 それを、慌てて切先を上げる事で剣に掛かる力を分散させるが、大剣はアンジュリーンの剣を滑りつつ、つばの部分まで迫ってきた。


 アンジュリーンは、歯を噛みしめて、唸り声を上げた。


 そして、つばの近くまで相手の大剣が来ると、力任せに腕を持ち上げ、辛うじて自身の頭の上を通過させ、相手の大剣の間合いから離れるように後ろへステップした。


(この人、本当に15位なの?)


 アンジュリーンは、間合いを取り、今の攻撃で痺れてしまった手を少しでも休めようとしていた。


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