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後期の武道大会  残念なアンジュリーン 2


 イラついた表情でシュレイノリアはアンジュリーンを見ていたが、見られていたアンジュリーンは、シュレイノリアが何でイライラしているのか理解できていないという表情でシュレイノリアを見ていた。


「ねえ、何で、シュレは、そんなに怒っているの?」


「おバカか! 何でお前は、周りの気持ちを理解してあげないんだ!」


 何を怒っているのか理解できないまま、アンジュリーンは、少し困ったような表情をしたままだった。


「お前は、料理を手伝わせたら、皮は剥かず、下手をしたら、土付きのまま鍋に入れようとするし、料理を運ばせたら落っことすし、鍛治を手伝わせたら完成間近の剣を折ってしまうし! この残念エルフ! お前の取り柄はその美人の顔だけか!」


 アンジュリーンは、切れ長の目に、綺麗に通った鼻筋と、横から見ても鼻の頭から顎までのラインも整って、全てのパーツが完全な大きさとバランスの取れた顔、左右パーツの位置も大きさも変わらす、そして、小顔という事もあり、女性として美しいと言われる全てを備えている。


 しかし、お約束のように、残念だった。


 弓や剣術や、全ての武術について、それなりに出来ている。


 ただ、不器用な面もあるので、最初は、上手くコツを掴めない。


 格闘技の最初の授業のように、全くコツが掴めず、何も出来ない事が多い。


 特に料理については、カミュルイアンからも聞いており、調理せずに食べられるモノしか無理だと聞いていた。


 一時期、アリアリーシャが、アンジュリーンに料理を教えようとした事があったが、数分で諦めてしまっていた。


 ただ、それは、コツを掴むまでに時間が掛かるためなのだが、そのあまりの酷さに、コツを掴むまで我慢できないと諦められてしまっていた。


 料理は火を使うので、火事になっても困るし、食材を捨てる事になっても困るという事から、アンジュリーンに料理をさせる事は無くなっていた。


 そんな事から、“残念エルフ”と陰口を叩かれていた。


「ん? まあ、そうね」


 アンジュリーンは、納得するような表情をした。


「私の不器用は生まれつきだし、それに、私が何でも出来てしまったら、完璧すぎじゃないの! 人は得手不得手があるから、面白いのよ」


 アンジュリーンは、陰口の“残念エルフ”と聞いても、全く気にする様子もなく答えていた。


 その口調から、陰口に使われている言葉も知っていたようだ。


 それを聞いたシュレイノリアは、口喧嘩になる事を予測していたのだが、アンジュリーンは、平常心で対応してきたので呆気に取られてた。


「でも、アリーシャの事に気がつかせてもらえたから、シュレ、ありがとうね」


 今度は、お礼まで言われてしまったので恥ずかしそうにした。


 それは、アンジュリーンが、自分の思っていた通りの怒りに任せた口喧嘩にならず、アッケラカンと冷静に対応してくれた事に、自分の了見の狭さを露わにしてしまい、その様子を周囲の生徒に見られてしまっていた事が、とても恥ずかしかった。


「次は、……。 きっと無理ね。 シュレ、今度、また、同じような事を、私がやりそうになったら教えてね」


 笑顔で、そこまで言われると、シュレイノリアは、居た堪れなくなった。


「もう、いい! 今度からは、早めに言う!」


 そう言うと、控室を早足で歩いて出て行ってしまったので、アンジュリーンは仕方無さそうに、その後ろ姿を見ていた。


「さすが、エルフだ」


「やっぱり、年の功ね」


 シュレイノリアが、大声でアンジュリーンに言ったところから、周囲は二人の会話を聞いていた。


 アンジュリーンは、見た目は、10代半ばではあるが、実年齢は40歳を超えている。


 エルフは見た目よりも年齢は高く、人属のシュレイノリアと同年齢のように見えるが、アンジュリーンは、その倍は生きている。


 転移してきて31年目のアンジュリーンと、7年目のシュレイノリアでは、経験値に大きな違いがある。


 見た目年齢は同じなのに、41歳と15歳の歳の差を、あからさまに出たと、周囲の生徒達は思ったようだ。


 その事が、数人の生徒から、ポロリと言葉に出てしまっていた。


 そして、その言葉をアンジュリーンは聞き逃さなかった。


 シュレイノリアに大人の対応をしたが、今の言葉にはムッとしていた。


 鋭い視線を、聞こえた言葉の方に向けると、周囲の生徒は慌てて別の方を見て視線を避けた。


(まったくもう! シュレったら、私、この後試合なのに、あんなメンタルが落ちそうな事言って出ていくなんて、ちょっと、酷くない!)


 アンジュリーンは、シュレイノリアとのやり取りについて、控室に居る人達にツッコミを入れられないように、控室の選手や、そのウォームアップを手伝う生徒達を睨むように一人一人を確認していたが、誰とも視線が合う事は無かった。


 控室内の誰もアンジュリーンと視線を合わせたくなかったようだ。


(でも、私は、私よ! アリーシャには、少し悪かったと思うけど、私だって勝ちたいのよ!)


 使っていた木刀を見ると、大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐き出した。


(理想は、決勝戦でアリーシャと対戦する事だけど、今年の3年生の上位は強いって聞くから、難しいかもしれない)


 そして、持っていた木刀を前に掲げた。


(でも、戦ってみたいわ)


 アンジュリーンは、シュレイノリアに言われた事も忘れたように穏やかな表情をした。


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