後期の武道大会 残念なアンジュリーン
アリアリーシャが、アッサリと5・6回戦を勝ち上がった。
ある者は、前回の敗戦を糧にして勝ったのだろうと思ったようだが、瞬時に決着が付いた事によって、相手の不甲斐なさを嘆いていた者もいた。
大半の観衆達は後者であり、前者のような考えを持った者は少なかった。
それを控室からシュレイノリアは、満足そうに見ていたが、ただ、表情の変化に乏しいシュレイノリアの表情を、パーティーメンバーでもない周囲の生徒達は理解できたかは定かではない。
奥の方に控えて、次の試合に備えていたアンジュリーンは、イメージをするように軽くゆっくりと剣を動かしていた。
そこにシュレイノリアは戻ってきた。
「姉さんが、5・6回戦を勝った」
それを聞くと、アンジュリーンは、わずかに眉を顰めた。
(これで、アリーシャは一歩進んだって事ね! 私も、負けてられない!)
ゆっくりと動かしていた剣を、自身の考えていた最後の型になるまで持っていくと、ゆっくり息を吐いてからシュレイノリアを見た。
「相手の一撃を躱して、一太刀で終わらせてた」
シュレイノリアの言葉に、アンジュリーンは、納得したという表情をした。
「アリーシャ、あの敗戦が、本当に悔しそうだったから、本気で対策したのね」
それを聞いたシュレイノリアは、少しガッカリ気味になると、思い直してアンジュリーンを、もう一度見返した。
そして何かに気がついたようだ。
「アンジュは、姉さんのウォームアップを手伝わなかったのか?」
「ええ、そうよ」
アンジュリーンは、何を当たり前の事を聞くのかといった表情で答えた。
「だって、私の試合の方が早かったし、それに、今は、控室が違うでしょ」
シュレイノリアは、黙ってアンジュリーンの答えを聞いていた。
そして、何か言うでもなく、ただ、見ていた。
その沈黙が続くとことが、アンジュリーンには苦痛になった。
「ねえ、シュレ」
黙ったまま、アンジュリーンを見ていたシュレイノリアに声をかけた。
「何か、言いたい事が有るんじゃないですか?」
アンジュリーンは、少し引き攣った表情でシュレイノリアに話し掛けると、シュレイノリアは、軽くため息を吐いた。
「アンジュは、最初の試合の控室に入った時、誰と入った?」
「それは、アリーシャと一緒に入ったわ」
アンジュリーンは、シュレイノリアの質問に、その時の事を思い出しつつ答えた。
「私は、4・5回戦は、あっちの控室だったし、アリーシャの初戦の5・6回戦は、あっちの控室なんだから、一緒に入ったのよ」
それをシュレイノリアは、黙ったままアンジュリーンから視線を外さずに聞いている。
「まあ、私の方が、早く始まるから、ウォームアップは、私だけ先に行ったわ」
「姉さんは、それを見ていたのか?」
アンジュリーンは、シュレイノリアの質問に何を当たり前の事を言うのかという表情でシュレイノリアを見ると、その答えに少しイラッとしたようだが、アンジュリーンには、その表情の変化が分からなかったようだ。
「そうよ。 だって、アリーシャは、5・6回戦からなら、私と一緒にウォームアップするには少し早いでしょ。 だから、遠慮して、一緒にとは言わなかったのよ」
アンジュリーンは、少し誇らしげに言った。
アンジュリーンとしたら、気を使ったつもりだったのだが、本来、アリアリーシャは、アンジュリーンに、自身の敗戦の反省から、対応策について研究しようと、軽く練習を付き合ってもらおうと考えていた。
しかし、アンジュリーンは、そんな事とは知らずに、良かれと思って自分だけでウォームアップを行なっていたのだ。
「姉さんは、アンジュにウォームアップの手伝いをするかと聞かなかったか?」
すると、アンジュリーンは記憶を振り返っていた。
「そういえば、そんなような事を言われたかもしれないわ」
それを聞いてシュレイノリアはガッカリした。
「それは、ウォームアップを手伝うから、姉さんの研究にも付き合ってほしいというサインだったはずだ」
「ふーん、そうなの」
それを聞いてもアンジュリーンは、まだ、気が付いていなかった。
「自分の研究に手伝ってほしいなんて、メンバーの中で誰に言えると言うんだ」
言われてアンジュリーンは考え出した。
カミュルイアンは、怪我をしており、ジューネスティーンとレィオーンパードは、本戦に挑むので敗者復活戦の最中は、格闘技室で最終調整をすると言っていた。
そうなると、残るのは、シュレイノリアとアンジュリーンの二人だけとなる。
アンジュリーンは、シュレイノリアを見た。
そして、考えるように上を向いた。
その様子を、イライラした表情のシュレイノリアが見ていたが、アンジュリーンは、そんな事には気付かず自分の考えで頭が一杯になっていた。
「それなら、シュレが、アリーシャの研究相手になってあげたら良かったんじゃないの」
その答えには、シュレイノリアもイライラが限界に近くなっていた。
「でも、なんで、シュレに相談しなかったのかしら?」
アンジュリーンは、不思議そうにした。
「それは、私より、アンジュの方が、より実戦に近いと思ったからだ」
「ふーん!」
流石に、シュレイノリアも限界を超えたようだ。
「アンジュ! 私は、魔法職で、格闘技も剣術も、体力系は不得意なんだ! アンジュが相手をする方が、姉さんの練習になるはずだ!」
大きな声で、アンジュリーンに言うので、周りに居た生徒達もシュレイノリアを見た。
「ああ、そうだったのか」
アンジュリーンは、それでも呑気に答えるだけだった。




