後期の武道大会 ジューネスティーンの感性を考えるアリアリーシャ
敗者復活戦も4・5回戦が終了し、5・6回戦に入っても進行の順番は、C組、D組、G組、H組、B組、F組、A組、E組と、2・3回戦から同様に組まれていた。
5・6回戦から出場予定のカミュルイアンとアリアリーシャ、そして、4・5回戦を勝ったアンジュリーンの3人が、ジューネスティーンのパーティーの個人に出場の権利があった。
しかし、H組のカミュルイアンは、ケガのために棄権したので、B組のアンジュリーンと、D組のアリアリーシャの2人が試合に出る事になっていた。
5・6回戦が始まると、アリアリーシャは、2番目に出場する事になている。
そして、アリアリーシャは、最初のC組の試合が始まる直前に入口付近の選手控室から観戦していた。
各組の勝者が出揃う5・6回戦が終わると、今度は準々決勝となり、勝者同士の対戦となる。
しかし、前の組のC組は、直ぐに対戦する相手ではないが、上位の対戦を観戦することにより、何か得るものがあるかもしれないと思え確認していた。
(この試合に勝ったら、そのあとは準々決勝になり、その後は、おそらくジュネスの倒した、3年生の首席よね)
アリアリーシャは、ふと、何かに気が付いたような表情をした。
(いけない、いけない! そんな先の試合の事を考えていたら、次の試合に負けてしまうわ! 今は、この5・6回戦に勝つ事だけを考えなくちゃ!)
そして、試合を真剣な表情で見始めた。
(そうよ。 私は、ジュネスの言っていたように、人の癖を盗むために、この試合を観戦しているのだから、集中して観戦しないと!)
試合を見る事によって、人の癖を見抜けるようにと、真剣に双方の動きを気にしながら観戦していた。
アリアリーシャは、入学してジューネスティーン達とパーティーを組んでから、徐々に上位に上がってきた。
特にジューネスティーンとパーティーになれた事には感謝していた。
それは、自身の強さが、ジューネスティーンに引っ張られて強くなったと思っていたからになる。
ただ、自身の強さもだが、それ以上にジューネスティーンが格段に強くなっている事にも気になっており、理由を聞いた事があった。
「そんなの、一緒に練習していたら、相手の癖とか覚えてしまうだろう」
ジューネスティーンは、当たり前だというように答えたので、アリアリーシャは、その答えに驚いていた。
アリアリーシャとしたら、何となく、強くなってきたと思っていた事、それに理由なんて、練習する以外に有るのかと思っていたこともあり、ジューネスティーンには、自身の考え以上のことが分かっている事に驚いた。
「格闘技の時に気が付いたんだけど、技に入る前に、何かしら動きがあるから、それを見て対処する事を、最初は考えて動いていたんだ」
アリアリーシャは、その答えに違和感を感じた。
最初は、それがなんだか分からなかった。
言った内容を再確認すると、ジューネスティーンは、過去形で語っていた事に気が付いた。
「ねえ、最初はって事は、今は、考えて無いって事なの?」
「ああ、今は、考える前に、勝手に身体が動いている、かな?」
その答えに、アリアリーシャは、少し怖いと思えたのか、表情を曇らせた。
「そんな、超人みたいな事、できるの!」
「うん、できているよ」
信じられないと思いながらアリアリーシャが聞くと、ジューネスティーンは、あっさりと答えてきた。
そして、アリアリーシャの様子から、ジューネスティーンは、その心の内を察したようだ。
「他人には出来て、自分には出来ないと思うと、それは、その人の才能だと思ったら、そこで終わりだよ。 才能というのは、万人に共通に用意されているから、その才能のスイッチをオンにしたら、同じ事ができるようになるよ」
アリアリーシャは、ジューネスティーンの答えを聞いて、本当かというような表情をした。
才能は、人それぞれ違いがあって、その差によって強さの違いが出ると思っていた。
しかし、才能は共通に用意されていて、そのスイッチをオンにしたら同じようにできるという言葉に驚いた。
「その事が、嫌いだと思って取り組んでいる人が、そのトップに立てるとは思えないだろう」
それについては、アリアリーシャも納得できた。
「なりたいと思って、その事に対して前向きに取り組んでいたら、辛い訓練でも頑張れるから、そうやって、どんどん努力したら、才能のスイッチはオンになるから、どんどん、上手になっていくんだよ」
「努力する? 才能のスイッチがオン? それは、前向きに努力するから、その才能のスイッチがオンになるという事なのかしら?」
アリアリーシャが、ジューネスティーンの話を聞きつつ、ポイントになる部分を呟くと、ジューネスティーンは良かったという表情をした。
「そうなんだよ。 でも、それ以上に、もっと効率よく才能を開花させるなら、試合を見るのもいいと思うよ」
「見る?」
「そう、見るの」
アリアリーシャは、何でと思ったようだ。
「これは、俺だけの考えかもしれないけど、人の戦い方の動きとかを確認すると、自分には無い動きをしていたりするから、人の動きは観察していると参考になる事があるんだ。 相手をしている時には気が付かなくても、外から観戦していたら気がつく事もあるよ」
その説明を聞いて、そんなものなのかというな表情をした。
「剣の受け流しは、最初にパーティーを組んだ大剣使いの人から教えてもらえたけど、これは、例外だと思う。 一般的に技を教えてもらえるなんて、学校なら教授達から聞けるけど、生徒達は自分の技は、その触りを教えてはくれるけど、そのコツとかポイントは、案外教えてくれないからね」
言われた事について、アリアリーシャは納得できた。
卒業したら冒険者になって、生活するとなれば、卒業後は同級生だったとしてもライバルとなる。
場合によっては、パーティーメンバー同士でも自身の技を、他のメンバーに教える事は無い。
むしろ、ジューネスティーンのように聞かれたら細部まで教えてくれる人は珍しい。
最初は、アリアリーシャも技については遠慮して聞く事は無かったが、レィオーンパードが、時々、ジューネスティーンや、シュレイノリアと3人でレィオーンパードの質問に答えていた事もあり、それを見て便乗して質問していた。
それが、徐々にアリアリーシャだけでもジューネスティーンに聞くようになっていた。




