後期の武道大会 アリアリーシャ 〜敗戦の反省〜
アリアリーシャは、前回の敗戦を思い出しつつ、敗者復活戦の5・6回戦に挑むためのウォームアップを行っていた。
アンジュリーンも敗者復活戦の4・5回戦から試合があったので、ウォームアップの時に確認をさせてもらおうと思っていたが当てが外れてしまった。
その事が、少し面白くは無かった。
その代わりに1人で自身の戦い方を確認していた。
(あの時は、いつもの通りだと思っていたから、躱した後に油断が出てしまったのよ! あの時、もっと、相手の事をよく見て、……? そういえば、試合の前から自分の剣を振るように見せびらかせていたのは、私の戦い方を熟知して、……? 油断を誘った?)
身体を振って、相手の剣を避けて、相手の首筋を狙う。
寸止めルールなのだが、相手の剣なり防具なりで受けられた場合は、その限りではないため、時々、身体に当たってしまう事もあるが、大怪我にならない限り罰則規定は無い。
そして、剣や盾で受けられた場合は、力任せに押し込んでくる。
その時に、押し込み方を工夫すれば、押し込みながら剣の角度を変えて、相手の体に打撃を与えることも可能となる事から、カミュルイアンは、そこをつかれて怪我を負ってしまっていた。
アリアリーシャは、機動性重視の両手に刃渡り50センチほどの短剣を持っており、相手は背の低いアリアリーシャの頭に寸止めに打ち込んでくる事が一般的な戦い方なので、それを頭上で受けると左右のどちらかに相手の剣を受け流して地面を叩かせる。
その間に自身の攻撃を加えていた。
しかし、6回戦では、受けた瞬間に相手は左手を剣から離して、腰にさしていた短剣でアリアリーシャの首筋に当てた。
今までの選手ならば、剣と剣が触れた瞬間に力を入れて押し込もうとするので、その力を受け流す事で振り切ってしまう事から、相手の剣を受け流すと前のめりになり隙が生まれる。
その間隙を付いて、アリアリーシャは勝ってきた。
小さな身体の不利を利用した戦術であり、今まで簡単に勝たせてもらえていた事から、次も同じ戦法で勝てると思い込んでしまっていた事もあり、相手の装備についても観察を怠り、持っている剣だけで戦うだろうという先入観から、あっさりと負けてしまっていた。
敗戦は自身の問題点を洗い出す良い機会である事から、洗い出せた問題は、原因を確認して対策を施せば良い。
それを対策するなら、同じことを誰かに行ってもらい、何度も繰り返す事により、再確認する事も出来るし慣れる事もできる。
本来であれば、アンジュリーンに相手を頼む予定だったが、当てが外れてしまった事により、1人で相手を想定して剣を振るっていた。
(あの時の人は、入場していた時に、あの大きな剣を持ち上げて軽く回して準備運動みたいにしていたから、私は、あの剣の動きを目で追っていた、わ?)
身体を動かしつつ、アリアリーシャは難しい表情になると、何かを思いついたというように動きを止めた。
(あの時、私が見ていたのは、振り回していた剣の方だったから、他の装備について見ていなかった? 私は、あの人の作戦にまんまと乗ってしまって、あの大剣に気を取られて、腰の短剣を見落とされたの?)
何かに気が付いた様子をすると、悔しそうな表情に変わった。
(そうよ、試合開始と同時に、あの人は上段に構えてくれたから、私は、上からの攻撃を受けるつもりで間合いを詰めた時、下ろしてきた剣は、私の少し左に下りてきたから、左に躱したけど、それだと相手の左に入る事になる!)
下ろしていた手を強く握ると、その拳が震えた。
(振り下ろした剣も左手の範囲に私を誘い込んだから、簡単に腰の短剣を扱えるように! そうよ、逆手に持って突き出してきた! 間合いに入ってくる事を想定していたから、短剣を逆手でも届くと分かっていた! そういう事だったのよ)
アリアリーシャの敗戦の相手は、上段から振り下ろした剣をアリアリーシャが自身の剣で受ける瞬間に剣から左手を離して右手だけで振り下ろしていた。
そして、その左手は、左の腰にさしてある剣を取り、一瞬でアリアリーシャの首元にその木剣の短剣を当てた。
逆手で持つとなれば、剣の長さを利用する事も出来ないが、それでも問題無い距離に誘い込んでいた事から、それで十分だった。
攻撃範囲を広くするより、攻撃速度を優先する事によって、アリアリーシャより先に攻撃できれば良かった。
相手は、完全にアリアリーシャの戦術を把握して、最速で攻撃を当てる方法を理解し、その間合いに完全におびき寄せて戦う方法を考えており、アリアリーシャは、相手の作戦に完全に乗ってしまっていた。
その事に気付くと、アリアリーシャは悔しさが込み上げてきたのだ。
悔しさの滲み出た表情をしながら、顔を天井に向けた。
(私は、まだまだ、思慮が足りなかったのか!)
すると、前に視線を戻すと、また、自身の剣を振り始めた。
誘ってくる相手に対する対策は、自身の持つ2本目の剣を使えば相手の攻撃を躱す事も可能だったはずなのに、自身の配慮が足りずに、いつも通りの戦術で対応してしまった事から油断を生じてしまい、相手の戦術に対応しきれなかった。
注意していたら対応は可能だった事に気がつくと悔しさが込み上げてきた。
そして、それを払拭するように自身の身体を動かしていた。




