後期の武道大会 アンジュリーンの4・5回戦
アンジュリーンは、視線を相手の3年生から外さなかった。
そして、その表情は、相手を好意的に見ているとは思えなかった。
主審は、双方が試合を行いたいと思っていたことと、審判団の了解も取れた事によって試合を始める事にした。
「両者、準備はよろしいか?」
主審は、答えを求めるのではなく、形式的に聞いた。
2人も答える事なく、お互いに相手を見ているだけだった。
「初め!」
主審の言葉に相手の3年生は一気に間合いを詰めて、持っていた木剣を右から左に払うように打ってきた。
アンジュリーンは、後ろへステップするように下がると、その剣筋を躱すと、相手の木剣は、アンジュリーンの立っていた位置を完全に振り切っていた。
(ふん、やっぱり、寸止めするつもりなんて無かったわね)
アンジュリーンは、ムッとした表情で相手を睨みつけると、一歩飛び出すように前に出ると同時に、木剣を上段に構え相手の頭に振り下ろした。
相手は、振り切った木剣を上げて、アンジュリーンの木剣をモロに受けた。
(あんな受け方をしたら、衝撃が左腕に伝わるでしょうけど、表情から痛みがあるように見えないわ)
アンジュリーンは、自身の剣を受け止められると、その反発を利用して後ろにステップした。
(やっぱり、ケガは嘘! 私を精神的に追い込むことと、温まった身体を冷やして動きを鈍らせるためね)
面白くなさそうにアンジュリーンは相手を見て、自身の構えている木剣の切先を相手に向けていつでも対応できるようにしていた。
すると、相手は一旦後ろに軽くステップすると、足が床に着くと同時に一気に踏み込んで間合いを詰めると、木剣をアンジュリーンの左肩を目掛けて振り下ろしてきた。
アンジュリーンは、切先を相手の木剣の右側に向けつつ、持ち手の部分を左に動かし、木剣の側面で相手の剣を剣の受けた。
相手の木剣は、アンジュリーンの木剣の側面を削るように振り下ろされるので、狙っていたアンジュリーンの左肩に当たる事はなく、そのまま、振り下ろされて木剣の鍔に当たって止まった。
相手は、前に出ながら自身の木剣を振り下ろしていたので、体がアンジュリーンの直ぐ前まできた。
(チッ! 今度も寸止めじゃなくて、振り切るように振ってきたわ! 本気で私の肩を潰しにきていた!)
相手は肘を曲げながら顔を近づけてきたので肘を曲げている。
完全にアンジュリーンの懐に入り込んできた。
鍔迫り合いになると、相手の3年生は、腕に力を入れてアンジュリーンを剣で押した。
剣を振り下ろした時に軽く重心を下げるようにして鍔迫り合いに入ったのは、自身の攻撃を受けられた時の対策も含めて、アンジュリーンを後ろに押して体勢を崩そうとしていたのだ。
しかし、アンジュリーンは、剣に受ける力の変化を察して、身体を右に移動させると、相手の押し倒そうとしていた力を受け流してしまった。
相手の3年生は、これでアンジュリーンに尻餅をつかせて剣を目の前に突きつけて負けを認めさせようとしていたようだが、アンジュリーンが、その力を受け流してしまったので、勢いを抑えられずに、数歩、無様に、そして無防備に前にツンのめるように出た。
アンジュリーンは、その様子を見つつ、いつでも攻撃できるように木剣を構えるだけだった。
(ふん! 小手先だけで考えた作戦ね! 実力が伴ってないから、こんな簡単に躱せるのよ!)
勢いをとめた相手の3年生は、慌てて振り返ってアンジュリーンを見た。
アンジュリーンは、次に備えて構えているだけだったのだが、相手の3年生は無様につんのめってしまったので、気に食わなかったと表情に現れた。
鼻息を荒くすると、雄叫びをあげた。
そして、今度は、無闇矢鱈に自身の木剣をアンジュリーンに叩き込んできた。
ルールは寸止めのはずなのに、そんな事は構わず、相手の肉を削り、骨を砕くつもりで叩いてきたのだ。
しかし、興奮気味に単調な攻撃になってしまったので、アンジュリーンには、その剣筋が手に取るように分かっていたので、剣を使ってモロに受けるのではなく、斜めに受け流すようにして受けていた。
(この受け流しも、ジュネスに教えてもらっていたから、こんな、馬鹿な剣技も無い相手だと簡単に躱せるわ)
アンジュリーンは、相手のガムシャラな打ち込みにも、動ずることもなく躱してしまうので、相手の3年生は、更に面白くなかったようだ。
イラついた様子が表情に現れていた。
そして、アンジュリーンの表情には余裕すらあったことが、相手の3年生には面白くないといった様子で、どんどん悪くなっていった。
(あー、そんなに無茶苦茶に剣を振るっていたら、直ぐに体力なんて無くなってしまうわ)
アンジュリーンは、相手のガムシャラな剣を、最小限の剣の動きだけで受け流していた。
そして、相手の3年生の息が上がってきていた。
しかし、アンジュリーンは、冷静に状況を把握して、最低限の力だけで相手の攻撃を躱すだけだった。
すると、相手の3年生の膝がガクリと下がったのだが、そんな事は気にせずに剣を打ち込んできた。
その瞬間をアンジュリーンは見逃さなかった。
打ち込んできた相手の木剣を受け流しつつ、自身の木剣の反りを利用するため、鎬で受けていたのを峰で受けつつ、切先を下げていった。
そして自身の持つ木剣の反りを利用して、相手の木剣の先端を自身の鍔の部分で受け、切先を相手の剣の峰に当てると、その振り下ろされた剣に合わせて自身の剣に力を加えた。
そのまま、相手の振り下ろす力を利用して自身の木剣も振り下ろしたので、相手の3年生の剣は、床に叩き落とされてしまい、何回かバウンドした。
そして、アンジュリーンの剣は、相手の3年生の首筋に当てられていた。
「勝負あり! 勝者、アンジュリーン!」
主審の勝負の判定の声が会場に響いた。




