後期の武道大会 アンジュリーンの試合
アンジュリーンは、敗者復活戦のB組に出場していた。
本戦の5回戦で、3年生の次席と対戦して敗れてしまったので、パーティーメンバーの中では、シュレイノリアの次に負けていた。
勝ち残ったジューネスティーンとレィオーンパードは、本戦のベスト8に進出しており、アンジュリーンとカミュルイアンは、ベスト8をかけた6回戦で敗退していた。
メンバーの中で、魔法職のシュレイノリアを除いた中では、アンジュリーンが一番成績が悪かった事、特にカミュルイアンが自分より上の6回戦に進んだ事が気に食わなかった。
しかし、カミュルイアンは、ケガのために棄権しているので、アンジュリーンは、ここで、最低でも2つ勝ってカミュルイアンより上だと証明して、あわよくば、優勝候補である3年生の首席を倒して、ジューネスティーンと同等だと証明したいとも思っていた。
そう思うと、ここで負けるわけにはいかないと、最初の4・5回戦にも力が入り、ウォームアップにも真剣に取り組んでいた事もあって、1人で真剣に取り組んでいた事もあり、アリアリーシャの言葉など、全く耳に入らないほどだった。
そして、アンジュリーンは、本気で勝ちにいっていた。
アンジュリーンは、前の試合が終わり、選手達が退場したのを確認すると、委員会職員から、競技場に入るように指示された。
アンジュリーンは、言われた通りに競技場に立つが、相手の3年生の選手は、まだ、来ていなかた。
競技場には、主審も副審も位置に着いていたが、もう1人の選手は控室に居るのか競技場には居なかった。
すると、審判用の扉が開き、職員が1人、競技場に入って来ると、審判員席の方に行き、何か話をしていた。
そして、話し終わると主審の方に行き、また、耳打ちするように話した。
話し終わると主審は、その職員に頷くような態度を示すと、その職員は、直ぐに競技場を後にした。
主審は、それを見送ると、アンジュリーンを見た。
「相手の3年生なのだが、さっきの試合で古傷を痛めたので、治療を行っているとの事だ。 治療時間は、1試合につき、10分を認められているから、その時間を使わせて欲しいと、申請があった」
アンジュリーンは、主審からの説明を聞いて、何やら考え込んで返事をせずにいたので、主審は不審そうな表情をした。
「アンジュリーン?」
「あ、すみません。 分かりました」
そして、また、何か考えだしたが、直ぐに主審に視線を戻した。
「あのー、待っている間ですけど、軽く体を動かしていても構いませんか?」
アンジュリーンは主審に尋ねた。
「そうだな。 身体を冷やしても仕方がないな」
主審は、納得したような表情をした。
「だが、ここではダメだ。 試合場の外なら構わないが、競技場の中で行うように。 相手選手が入場したら、直ぐに試合を始めるから、見える範囲に居てくれ」
「分かりました」
アンジュリーンは、返事をすると、軽くお辞儀をして、自分の入ってきた入口の方に行くと、木剣を持って、中断に構えると、振りかぶってから構えた場所に振り下ろした。
それを何度も繰り返し始めた。
そして、腕だけで振っていたが、そのうち、足も木剣を振りながら前後に動かしだした。
それを1分ほど続けると軽く身体を休ませてから、今度は、見えない相手に剣を振い始めた。
それも、1分ほど続けると、また、休んでいた。
そんな事を繰り返していた。
「アンジュリーン」
試合会場の方から主審が呼んだので、それを聞いたアンジュリーンは、主審を見た。
主審は、右手で試合場に上がるようにと示したので、アンジュリーンは、試合場の自分の立ち位置に立った。
「時間になったのだが、相手選手が現れないので、不戦勝に」
「お待たせしました」
主審が説明をしていると試合場の反対側の扉が開いて、相手選手が試合会場に入ってきた。
「すみません。 少し時間が掛かってしまいました」
相手選手は、そう言いつつ、試合場に上がってきた。
「いや、もう治療時間を使い切っているから、君は負けだ」
主審が、時間が経過していた事もあり、アンジュリーンの不戦勝にしようとしたようだ。
しかし、相手の3年生は、納得出来ないといった表情をした。
「すみません。 包帯を巻くのに手間取ってしまったんです」
そう言い訳をしつつ、自身の包帯の巻いてある左腕を見せた。
「いや、ルールはルールだ。 君は、時間に遅れたので、この試合は、アンジュリーンの不戦勝だ」
「そんな、僕は、3年生で最後の試合なんです。 せめて、この試合だけでも、お願いします」
3年生は食い下がったが、主審は困った表情で、その生徒を見ていた。
「私は、構いません」
困った様子の主審にアンジュリーンが声を掛けたので、主審と相手の3年生は、アンジュリーンを見た。
「せっかくの試合ですから、私も、戦わないで勝ちにしてもらうのでは、あまり、嬉しくありません。 せっかく、試合をやる気で来てくれたのですから、私も試合がしたいです」
2人は、アンジュリーンから目を離さず話しを聞いていた。
「そうか、君が、構わないなら、……」
主審は、答えながら審判員席の方を見た。
その中の1人が頷いたのを主審は確認すると、視線をアンジュリーンに戻した。
「では、試合で勝負をつけてもらおうか」
そう言うと、相手の3年生を見た。
「ありがとうございます」
主審に対して、お礼を言うと、深々と頭を下げた。
そして、頭を上げると、今度は、アンジュリーンを見た。
「君にも感謝を」
それをアンジュリーンは、右手を上げて遮った。
「私に、お礼は、要らないわ」
アンジュリーンは、少し強い口調で答えた。
「それと、怪我をしていても、試合は手を抜かないわよ」
それを聞いて、相手の3年生は、不敵な笑みを浮かべたが、アンジュリーンは、蔑んだ目で、相手の3年生を見ていた。




