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後期の武道大会  カミュルイアンの気持ち


 武道大会ベスト8の試合と敗者復活戦は、翌日に行われる事になり、シュレイノリアは、レィオーンパード、アンジュリーン、アリアリーシャの身体の確認とケアを行うと、カミュルイアンのケガのケアを行なっていた。


「カミュー、お前は、何事にも我慢しすぎだ。 ケガの時くらい、すぐに、話しかけろ!」


 カミュルイアンの腕を見つつ、シュレイノリアがぼやくように話すと、カミュルイアンは、少し恥ずかしそうにした。


「うん、でも、オイラは5回戦で負けてしまったから、次の試合があるジュネスやレオンの方が優先かと思ったし、それに、シュレはジュネスの方を見ていたから、……」


 カミュルイアンは、遠慮して言えなかったと言いたかったようだが、それを聞いた、シュレイノリアは少しガッカリしたような表情をした。


「この状況で痛みを我慢するなんて、気を使いすぎだ! 私たちはパーティーになったから、そういった遠慮は無しだ! ここでのパーティーは、卒業後も同じに活動する場合が多いから、私たちは、家族と一緒だ! だから、もっと、レオンと同じように話をしてくれて構わない」


「う、うん」


 カミュルイアンは、嬉しそうな表情をした。


「ありがとう、シュレ。 家族なんて、考えた事も無かったよ」


 カミュルイアンにとって、今までアンジュリーンと2人だけの活動を経て、やっとの思いでギルドの高等学校に入学してきた。


 学校の方針として、パーティー戦も想定していることから、入学早々、6人以上のパーティー決めがあった。


 そんな中、最後までメンバー外として見られていた6人がパーティーを組んだ。


 特に、カミュルイアンとアンジュリーンは、2人ともアーチャーだった事もあり、一方だけならという話もあったが、アンジュリーンが2人一緒を主張したことから、他のパーティーは、2人のアーチャーは要らないとなって、結局、残ってしまったジューネスティーン達3人とアリアリーシャの6人でパーティーを組んだ。


 中には、カミュルイアンを前衛に置き換えるならという話も有ったが、カミュルイアンの性格から、前衛にはなりたくないと言うので、パーティーに入れなかった。


 入学早々だった事もあり、生徒の誰もが実力よりも見た目を優先したことから、60歳以下のエルフは、人の子供と同様と見られ、不要と判断されてしまっていた。


「私は、ジュネスが、お前達をパーティーに誘った時から、友達以上だった。 卒業後は、一緒にパーティーを組みたいと思っていたから、それまでに本当の家族になろうと思っていた。 それは、カミューも一緒だと思っていた」


 シュレイノリアも、人見知りが強かった事もあり、入学後にパーティーになった3人の中で、異性のカミュルイアンは、女子2人とは違い距離のつめ方に戸惑いがあった。


 しかし、ジューネスティーンが決めた事なら、シュレイノリアは無条件で従うので、新たに加わったアリアリーシャ、アンジュリーン、そして、カミュルイアンもレィオーンパードと同様に考えるようにしていた。


 自分自身が、思っている内容と違いが有ったと思うと、少しガッカリしたように言うと、カミュルイアンも、その気持ちを察したように表情を曇らせた。


「ごめん、シュレ」


 申し訳なさが強く現れた言葉に、シュレイノリアも言い過ぎたのかもしれないと反省したようだ。


「これからは、もっと、頼るようにするよ」


 それを聞いてシュレイノリアも少し安心した表情を見せた。


「ああ、私も言葉が足りなかったかもしれない」


 お互いに大事に思っていると分かるとカミュルイアンも安心したように表情を緩めた。


「ありがとう」


 カミュルイアンが一言つぶやくように言うと、シュレイノリアも肩の力が抜けたようになった。


 今まで2人は、内気なカミュルイアンと、口がずが少なく、よく知らない人には言葉というより単語を並べるように話してしまう事もあり、場合によっては相手に通じない事も多いシュレイノリアの2人は、このように言葉を交わすことが少なかった。


 それが、カミュルイアンのケガを治す事によって、話しをする事が出来た事により少し心が通ったようだ。




 エルフの41歳は、人の10代半ばと同等ともなれば、今まで冒険者として生きてきた周囲の生徒達としたら、そんな子供のなりをしたエルフなど、魔法が使えなければ見向きもされない。


 成長の遅いエルフにとって、60歳を過ぎてないなら、大きなハンデを背負っている事になる。


 そんな中、41歳で入学できるだけの費用を貯めて、ギルドの高等学校に入学できたのは、人には言えない苦労があったはずであるが、周囲からは子供にしか見られてなかった。


 強気なアンジュリーンなら、その時の苦労をメンバーの誰にも話さないだろうし、弱気なカミュルイアンなら、アンジュリーンにも遠慮し、多くを語ろうとはしていなかった。


 記録に残っていない記憶の中の事は、お互いに聞き出そうとはしない。


 過去に触れられたくない記憶も有る。


 余計な事を聞いて気まずくならないためにも、無用な詮索はしないようにしていた。


 カミュルイアンにとって、強気のアンジュリーン以外に初めて気を許せるようになったのは、レィオーンパードだった。


 レィオーンパードは、ジューネスティーンとシュレイノリアの2人より、4年遅れて転移してきた。


 少し歳が離れていた事、そして兄妹か夫婦のような仲の2人の間には、自身が独占的に接することも出来なかった事もあって、入学後にパーティーになったカミュルイアンとは、見た目が若く見え、自分と年齢的に近いと見えるカミュルイアンに親しみが持てていた。


 カミュルイアンも兄のように接してくるレィオーンパードは新鮮に思えた事もあって、接触する機会も多くなり仲が良くなった。


 その事もあり、内気なカミュルイアンもパーティーに打ち解けたと言って良かったが、やはり、他の3人とは、少し距離を感じていた。


 今の、シュレイノリアの家族という言葉を聞いて、カミュルイアンは、あたたかみを感じ、これからは今まで以上に親しみを持って接することが出来ると思えたようだ。


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