後期の武道大会 カミュルイアンの棄権
カミュルイアンの棄権を聞いて、アンジュリーンは、根性無しだと思い、ストレートにカミュルイアンに、その事を言葉にしてぶつけてしまった。
しかし、レィオーンパードは、カミュルイアンから怪我をしている事を聞いていたのか、同情的な意見を言ってくれた。
そして、アリアリーシャは、アンジュリーンを心配そうに見ながら、右手の袖を摘んでいた。
「カミューの腕は、ヒールでも1日じゃ治らない。 明日は、無理して出てもいい事は無い」
「シュレの言うとおりだと思う。 骨にヒビが入っているなら、それ以上悪化させてしまう訳にはいかないさ。 これから先の事を考えたら、無理はしない方がいいさ。 武道大会は、これで終わりって訳でも無いからね」
カミュルイアンを弁護するように、シュレイノリアとジューネスティーンは、アンジュリーンに話したので、少し言い過ぎたと反省したような表情をした。
「でも、にいちゃん。 カミューと対戦した相手と、次の試合で戦うんじゃないの?」
「ああ、そうだな」
ジューネスティーンは、レィオーンパードの言葉に答えると、ニヤリと笑った。
「ああいった戦い方も、ルールの範囲内だからな。 クレームを付けても、言い掛かりになってしまうだろう。 でも、相手の狙いが分かっているなら、戦い方はシンプルになるさ」
ジューネスティーンは、あまり、気にする様子は無かった。
「真の強さの前では、小手先の小細工は通用しない。 ジュネスの強さは、本物だ」
全員がシュレイノリアを見た。
「あれは、楽をして強さを極める事を怠った。 発展途上のカミューと、格闘技の教官にも勝てるジュネスとでは、強さのレベルが違う。 あれも本気を出して訓練していれば、セカンドグループではなく、そこから抜け出して、トップ3と言われてたかもしれない」
そのシュレイノリアの言葉にメンバーの4人は、そんなものなのかといった表情で見ていた。
「まあ、そんな事はどうでもいいさ。 でも、少しだけど、カミューの5回戦を見れたから、それを参考にさせてもらうさ」
ジューネスティーンは、自信がありそうに言った。
「まあ、ジュネスが、そう言うのならぁ。 ……」
アンジュリーンは、それだけ言うと黙ってしまった。
「大丈夫だ。 カミューの負けは、俺の勝ちで返すさ」
ジューネスティーンは、何か意味が有りそうに言った。
「まさかぁ、目には目を歯に歯をとか言ってぇ、倒すんじゃないでしょうねぇ」
アンジュリーンの暴走を抑えようとしていたアリアリーシャが、少し不安そうに聞いてきた。
「いや、そんな事は無いよ。 相手に打撃を負わせるとなれば、防具の無い場所になるって事さ。 戦い方って勝つと味をしめて、また、同じようにと思うから、きっと、次も同じように攻めてくるだろうからね。 こっちは、防具の無い部分を集中してガードするようにするだけだから、相手の攻撃パターンが分かっているならやり易いよ」
「ふーん」
アリアリーシャは、その答えに納得した。
「でもね。 今回は、そんな事にはならないよ」
ジューネスティーンは、何か考えがあるような発言をした。
「分かった、にいちゃん。 カミューの仇はお願いするよ」
その言葉にアンジュリーンは、自分の聞こうとしていたことを遮られてしまったようにレィオーンパードを見た。
本当は、ジューネスティーンの作戦を聞きたかったようだが、その前にレィオーンパードが、話を終わらせるような事を言ったので、それ以上言えなくなってしまった。
仕方無さそうな表情のまま黙ってしまった。
「それより、アンジュも姉さんも、それにレオンも身体の方は、何処か痛めてないの? もし、痛めているなら、早くシュレに診てもらった方がいいよ」
「だったらぁ、私はぁ、肩こりと首筋のはりを見てほしいわぁ。 最近、綱上りの時に重りをぉ、増やしたせいかもしれないわぁ」
早速、アリアリーシャが声を上げると、それが面白くないといった様子で、アンジュリーンが嫌そうな表情をした。
「《《姉さん》》のそれは試合とは別の要因じゃないのかしら」
その後に、アリアリーシャの胸の大きさが、日に日に大きくなってきているように思え、自身との差を感じていたアンジュリーンにとっては、とても皮肉に思えたのだ。
アンジュリーンは、面白くなさそうな声で呟くと、アリアリーシャに聞こえてしまったらしく、こちらも面白くなさそうな表情をした。
「アンジュ、《《姉さん》》って、誰の事かなぁ?」
「あら、ごめんなさい。 つい、周りに合わせて、《《姉さん》》って言ってしまいましたわ」
「ふん!」
エルフのアンジュリーンは、見た目は10代半ばに見えるが、実際には、今年で41歳になる。
そして、ウサギの亜人であるアリアリーシャは、26歳になる。
エルフは、長命な事もあり成長も遅く見た目は、アリアリーシャの方が年上に見えるが、アンジュリーンの年齢は親の世代に近い。
微妙な年頃のアリアリーシャとしたら、アンジュリーンに姉さん呼ばわれされるのは面白くなかった。
「つまり、2人は、大した怪我も無いと言う事で構わないな」
そんな対立を気にする事なくシュレイノリアが、2人に話しかけた。
シュレイノリアとしたら、そんな2人の話題より、身体のケアが必要かどうかだった。
余計な話でメンバーのケアに時間を掛けられなくなる事の方が気になっていた。
「じゃあ、カミューは、時間を掛けてヒールするから、先にレオンだ」
そう言うと、女子2人を一度確認するように見ると、レィオーンパードの方に歩いて行った。
「ねえ、その肩こりと首筋の痛みって、最近、大きくなってきたからじゃないの?」
アンジュリーンは、少し小さい声でアリアリーシャに聞いた。
すると、アリアリーシャは、下を向いて、両手で自分の胸を持ち上げるようにした。
アンジュリーンは、慌てて、シュレイノリアの影になる位置に移動した。
「シュレの前で、胸の大きさの話は禁止よ」
「そうね、これからは、気をつけるわ」
「それと、その手は下ろした方がいいわ」
そう言うと、視線で方向を示すので、アリアリーシャも、ちらりと、その方向を見ると、カミュルイアン居た。
胸を持ち上げるアリアリーシャを少し離れた所から、カミュルイアンが見ており、少し顔を赤くしていた。
アリアリーシャは、慌てて手を下ろした。
「今度から気をつけるわ」
アリアリーシャは、お手洗いでも行くようなふりをして、その場を去っていった。




