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後期の武道大会  ベアリング


 シュレイノリアは、ジューネスティーンが、2回戦での戦いによって、何処かを痛めた可能性があると見て、試合後は、常にジューネスティーンのケアに回るようにしていた。


 しかし、5回戦までは、黙ってケアをしていたが、ベスト8の試合が急遽入ってきた敗者復活戦のお陰で時間が空いた事もあり、問題点を指摘するチャンスと思ったようだ。


「ジュネス。 今のフルメタルアーマーの改造型では、この辺りが限界だ。 今、空き教室で作っているパワードスーツの完成を急いだほうがいい。 関節の所々に炎症がある」


 シュレイノリアは、ジューネスティーンにヒールを掛けながら、自分の意見を言った。


 今、使っているフルメタルアーマーの肘と膝に人工関節になるように蝶番を取り付け、人工筋肉を取り付けただけだったので、関節の無い手首、肩、そして足首を痛めていた。


 しかし、シュレイノリアは、それ以外の箇所にも多かれ少なかれ痛めているだろうと思っていた。


体の内部をイメージし、炎症を起こしている部分を脳裏で予想しつつヒールを掛ける。


 目に見えない部分を触診しながら、ジューネスティーンの言葉と自身の手の感触から、その内部がどうなっているのか想像しつつ、その部分をヒールしていた。


 特に、フルメタルアーマーを使って作ったパワードスーツのような半完成品では、守れる関節は少ない。


 結果として、多くの関節に掛かる負担をシュレイノリアは心配していた。


 ジューネスティーンも、パワードスーツの完成を早めたいと思う事から、シュレイノリアの意見を理解している事もあり、少し困ったような表情をした。


「ああ。 でもなぁ。 形にする事はできるけど、問題は可動部分だな」


「ベアリングか」


 ジューネスティーンは、ベアリングの開発が完成せずに困っていた。


 そして、シュレイノリアも、その事を理解していた。


 ベアリングの開発は、ジュエルイアン商会がバックアップする事になっていたのだが、先方の都合で生産の話が立ち止まってしまっていた。


 その事を思い出すと、困ったような表情をした。


「作ってみたけど、球体の精度を出すって本当に難しいかった。 あれは、手作業じゃ無理だから、完全にオートメーション化しないと、全部、同じになんて作れないよ」


 サンプルを作った際、やっとの思いで、8個のボールを作ったが、それは思っていたものとは違っていた。


 そんな状態の物でも、作った時の苦労を思うと、手作業で作る事に限界を感じていた。


「そうだな」


 その事を知っているシュレイノリアも気を落としたような表情をした。


「ジュエルイアン商会からは、少し待って言われているけど、ベアリングを作ってくれそうな工房なんて、本当に見つけられるか?」


 ジューネスティーンの見てきた鍛冶屋や工房では、手工業によって製品を作っていた。


 自動化された工業用の機械は存在していなかった。


 それを考えると、自身の考えるベアリングが本当に作れるのか心配になっていた。


「分からないな」


 一言を聞いて、シュレイノリアも同意見だというように黙ってしまった。


 この件について、それ以上の意見を言う気にはならなかったようだ。




 ベアリングのボールは、数個の同じ大きさのボールが必要となる。


 その精度は、最低でも1000分の1以下が要求され、尚且つ、それは、全部のボールを含めた精度となる。


 10ミリのボールを要求したなら、すべてのボールが10ミリとなり、その誤差は、0.01ミリ以下となる。


 10ミリ、プラス・マイナス0.01ミリの要求を満たす球体を、ジューネスティーンのように手作業で作るしかない状況では、神業に近い作業と言える。




 なんとしてもオートメーション化が必要となるが、ジューネスティーン達では、その目処が立っていなかった。


 始まりの村でパワードスーツの検討に入ってから、話を聞きにきたジュエルイアンは、説明を聞き終わると、考えがあるからと、その開発に協力すると言ってくれた。


 それが、今は、相手側の都合で、伸ばされてしまっていた。


 その事をシュレイノリアも一緒に聞いていた事から、その時の事を思い出していた。


「だが、ヒュェルリーンは、大丈夫だと言った。 あの表情に嘘は無かったから、何か考えがあると見た」


 シュレイノリアは、ベアリングの開発の延期を、お願いに来たヒュェルリーンの事を思い出して言葉にした。


 ジューネスティーンも言われて、その時の事を思い出した。


「ああ、……。 でも、本当に、大丈夫なのかなぁ」


 ジュエルイアンの筆頭秘書兼パートナーであるエルフのヒュェルリーンは、時々、ジューネスティーン達の様子を確認しに来ていた。


 ジュエルイアンは、ジューネスティーンのパワードスーツにも興味を示したが、それ以上にベアリングに強い興味を示していた。


 そんな事もあって、ベアリングの生産は、ジュエルイアンが受け持つので、ジューネスティーンが作るのは、試作品のみで、その試作品を見て量産化するという話になっていた。


 そのため、パワードスーツに使うベアリングはジュエルイアンが提供することになっていたが、その話は、ジュエルイアン商会側の都合で引き延ばされてしまった。


「ベアリングの完成に合わせて、可動部分も設計変更が必要になるから、部品は早く実物か《《図面》》が欲しいんだ」


 シュレイノリアは、今の発言に気になる言葉が有ったと思ったようだが、それ以上に、ジューネスティーンが、少し他人事のように言った事が気になったのか、少しムッとした。


「ジュネス。 可動部分のベアリングだが、ベアリングのサイズは、指でも膝でも同じでいいのか? 回転部分が大きかったり、加重の掛かり具合によって大きさは変わらないか?」


 その一言でジューネスティーンの表情が変わった。


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