格闘技に必要な筋肉 足の指の握る力
アリアリーシャは、速く走れるかもしれないという話に興味を示し、真剣な表情でジューネスティーンに尋ねてきた。
身長130センチのアリアリーシャは、ジューネスティーンの前に立つと、見上げるようにして聞いてきていた。
そして、ジューネスティーンは、身長180センチと2人の身長差は50センチあるので、アリアリーシャは、顔を上に向ける事によって胸を張るようになっていた。
ジューネスティーンは、その見上げているアリアリーシャを見て顔を赤くしてしまったが、すぐに視線を逸らしてしまった。
「ちょっと、ジュネス。 何で視線を外すのですかぁ」
アリアリーシャは、少しムッとした様子でジューネスティーンに確認した。
(いや、ちょっと、この体勢はまずいでしょ)
ジューネスティーンの表情は焦っていた。
「あ、ああ、じゃあ、綱上りに行きたいから、歩きながら話そうか」
そのアタフタした様子にアリアリーシャは、不思議そうに思ったが、ジューネスティーンが歩きだしたので、慌ててその横に並ぶように歩き出した。
(ちょっと、姉さん。 格闘技の後だから、薄着に着替えたんだろうけど、あの胸元は反則だよ。 谷間が丸見えじゃないか)
ジューネスティーンは、女子3人の中では、一番の大食いであり、そして、入学時は非常には、子供体型だったアリアリーシャなのだが、食事の量と運動によって、出るところは出て、凹むところは凹み、3人の中では一番メリハリのある体型に変わっており、胸元の開いた服を着るとハッキリと谷間ができている。
そして、身長差が50センチとなれば、上からは、その谷間が綺麗に見えてしまう。
そんな事から、見てはいけないと思いつつ、顔を赤くしながら、少し前に出ようとしつつ歩いていたのだ。
「ちょと、ジュネス。 歩くの、少し速くない?」
話を聞きたいと思っていたアリアリーシャなのだが、横に立って歩くと、その胸の谷間を覗き込んでしまう事になるので、ジューネスティーンは、恥ずかしさから少し早足になってしまっていたのだ。
「ああ、ごめん」
そう言うと、歩く速度をアリアリーシャに合わせた。
そして、視線をあまりアリアリーシャに向けないようにしつつジューネスティーンは話だした。
「こうやって歩いている時だけど、床に一番最後まで付いているところって、爪先って言うか、足の指の部分でしょ。 走る時も一緒だよね」
アリアリーシャは、歩いている自分の足先を見た。
「そうね。 踵をつけてから、足全体が床について、最後は爪先だちのようになって離れていくわね」
アリアリーシャは、語尾を伸ばすことを忘れる程、自分の歩く順番を確認していた。
「走る時は、特に最後の爪先の蹴り上げが重要なのかもしれないわね。 だったら、足の指の力は必要になるのかしら」
そして、歩くというより走る時の事を考えつつ、走る時のような足の動きをしながら歩いていた。
「なる程、ジュネスは、面白い事を考えるわね」
アリアリーシャは、足元を見ながら歩いていたが、ジューネスティーンは、時々、アリアリーシャをチラ見しつつ話を聞いていた。
「それで、足の指の力を付けるためにジュネスは何をしているのよ」
アリアリーシャは、ジューネスティーンの顔を見上げながら聞いたのだが、ジューネスティーンは、アリアリーシャと視線を感じて、そちらを見ると、また、顔を赤くして前を向いてしまった。
その視線を自分に向けないようにする事が、アリアリーシャには少し気に入らないような表情をした。
「あ、ああ、足の指を握るようにするんだ」
そう言うと、自分の左手を出して、指を伸ばしたり握ったりした。
「足の指をこんな感じに動かすようにしているんだ。 それに時々、床を指で押すようにしたりとかしているよ」
アリアリーシャは、なる程といった表情をした。
「それと、こうやって歩いている時も、足の指に力を入れるようにいて歩くんだ。 少しでも指に力を入れれば、それだけでも訓練になるでしょ」
そう言われて、アリアリーシャの足に少し力を加えたのか、歩き方が少しぎこちなくなった。
「うん、そうね。 気をつけて歩くと指に力も入れられるわね」
言われた通りにアリアリーシャも足の指に力を入れたようだ。
「身体を鍛えるって、剣を使うにしても格闘技にしても、その技を掛けることとか、剣を振るうとかに目が行くけど、身体の細かな部分については見落としがちのように思うんだ。 全体も大事だけど、身体の部分部分の事も考えた方が、より効率的に鍛えられると思うんだ」
そう言うと、ジューネスティーンは、また、横を歩くアリアリーシャを見て、また、顔を赤くした。
そして、すぐに視線を前に戻していた。
「うん、面白いわね」
そう言いながら、前に出した時の爪先を見つつ答えた。
アリアリーシャは、身長が低いウサギの亜人の中では長身な方だが、それでも身長130センチと、次に低いシュレイノリアとでも30センチの身長差がある。
そのためなのか、少しでも背を高く見せようとしているのか、常に背筋を伸ばしていたので、下を向いても首を傾ける程度だった。
「でも、何だか、足の裏が変な感じがするわ」
ジューネスティーンは、それを聞いて、思考をアリアリーシャの胸の谷間から別のものに移せたと思ったのかホッとしたようだ。
「きっと、指を握るように踏ん張るからだよ。 指を踏ん張るようにするから、足の裏の筋肉を使うことになるでしょ。 足の指で蹴ることを意識し始めたのだから、足の裏の筋肉を今まで以上に使うようになったんだ。 だから、そのお陰で、そんな感じがするんじゃないかな」
「そうよね。 言われるまで、足の指なんて考えた事無かったわ。 意識して使うようにしたから、その影響が足の裏に出たのね」
アリアリーシャも納得したようだ。
「体全体も大事だけど、身体の部分部分で、大事な部分を見つけたら、その部分だけだと、簡単に鍛える事ができるわね」
自分の感じることの出来なかった事をジューネスティーンは気がついていた。
その事が少し恥ずかしいようにも思えたようだが、それ以上に自分の身体を鍛える方法を教えてもらえた事が、アリアリーシャには嬉しかったようだ。
「私は、背が小さいから、その分ハンデがあると思っていたの。 この身長でも負けたくないから、敏捷性を上げるように速く走れるようと思っていたわ。 でも、考えて鍛え方を工夫したら、ただ走るだけより、もっと効率よく訓練することが出来そうね」
そう言うと笑顔をジューネスティーンに向けたので、ジューネスティーンも視線を感じた様子でアリアリーシャを見たのだが、すぐに顔を赤くした。
「ありがとう、ジュネス」
「あ、ああ」
ジューネスティーンは、赤い顔で答えると、また、前を向いてしまった。
その様子をアリアリーシャは不思議そうに見つつ、一緒に歩いて行った。




