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覚醒 2



 その黒い生き物は横を向いていた。


 黒く大きなハサミを一対、それを持ち上げると、ハサミとは反対側から長い尻尾を持ち上げた。


 その持ち上がった尻尾のようなものは、胴体から上に弧を描きながら、その先端を背中の上に高々と持ち上げ先端が体の中央に来るように立たせた。


 その尻尾の高さは、地上から1メートルより少し高い程度だ。


 それは、少年の身長よりも僅かに高い。 


 地面を這うような胴体の脇からは4本の足が見えている。


 それは黒い生き物が右の方を向いているので、少年の見える方向だけの足が4本見えている。


 それなら、胴体の向こう側にも同じ数だけ足がある。


 その黒い生き物は、足や体を揺らすと上に乗った砂を払い除けた。


 大きさは、大きく反った尻尾の高さが、少年よりわずかに高く、胴の長さは、尻尾の長さと同じか少し長いので、かなり大きめなのだ。


 その黒い生き物は右を向いていたそれが、体に乗った砂を払い終わると方向を少年の方に変えた。




 そして少年の方に、二つのハサミを向けて威嚇した。


 その黒い生き物は、少年を認識したとハサミで示したようだ。


 目が何処にあるのかわからないが少年よりも大きく、そして、砂漠という食糧事情の乏しい世界で理性を持たないと思われる黒い生き物の考えることは、腹を満たすことだと理解できる。


 少年は、危険を感じた。




 すると、その黒い生物は、手前に一対あるハサミを、カチカチと鳴らし始めた。


 それは、敵対の意思というより、獲物を見つけ狩を始めることを示しているようにみえる。




 そのハサミの片方だけでも少年の胴を包み込む位の大きさはある。


(あの一対のハサミに挟まれたらひとたまりも無い!)


 少年は後ろを向き、そびえ立つ岩に手をかけて登り始めた。


 それを合図とするように、その黒い生き物は少年めがけて一直線に向かっていく。


 何かが、あの生き物から遠ざかれと少年に言っているのか、必死になって目の前の岩を少年は登っていた。


 頂上に差し掛かる頃になった時、岩の淵に黒い生き物がつくと、尻尾を少年目掛けて振りつけていた。


 先端が、鋭利な刃物のように見える尻尾は、少年の足の下に到達するだけで届くことはなかなかった。


 少年は岩の山頂に達したので、黒い生き物の攻撃を受けることは無かった。


 だが、少しでも判断が遅れていたら、尻尾の攻撃で大きな痛手を負っていたことは理解できた。




 直ぐそばの岩に登る事で、少年は、ひとまずは助かったのだが、その黒い生き物は岩の周りを回り始めた。


 その黒い生き物の行動は、上れそうな場所を探しているようだ。


(どうする? 今のままで、良いのか? 最善策は?)


 少年が、岩に登っていた時、鋭利な尻尾を少年に目掛けて打ち下ろした。


 それは、明らかに少年に対する敵対行動であって、決して、友好的関係を結べるとは思えなかった。


(どうする?)


 少年は、黒い生き物を視線に捉えつつ険しい顔をしていた。


(あの生き物と対峙して戦ったら?)


 口の両脇にある大きなハサミで挟まれても、先端が鋭利な刃物のように硬質化した尻尾の攻撃でも少年は一撃で倒されてしまいそうだ。


(逃げる? だけど、さっき、20メートル位離れていたのに、一瞬で距離を詰めてきたぞ。あのスピードで砂漠を走れるなら、逃げても直ぐに追いつかれてしまう)


 すると、岩の上の少年は、太陽の光で熱せられた岩の上で、時々、足の裏が岩に触れる位置を変えつつ黒い生き物の現れた場所を見た。


(さっき現れた場所からこの岩までのスピード、自分の走る速さと比べて? ……。逃げても、すぐに追いつかれそうだ)


 そして、また、黒い生き物の方に少年は視線を移した。


(この生き物のスピード以上で自分は走れるのか? ……。それより、逃げるとして何処へ? ……。そうだ、岩に登っているなら遠くまで見える)


 少年は、下の黒い生き物を警戒しつつ砂漠の先を確認した。 




 黒い生き物は、時々、岩を登ろうとするが、その都度失敗していた。


 斜面が急過ぎることと足の先の形状から、岩を持つようにできていないこともあり、登り始めると自分の体重を支えきれない様子で後ろに倒れてしまっていた。


 少年の時間的猶予は、一旦、確保できた。


 その事に安堵しつつ、周囲を見渡すと地平線すれすれのところに塀のような建物を太陽とは反対側に確認できた。


 少し斜め上の方向から来る日差し、それを少年は、背中に受けるようにして方向を見定め、自分の影を見て建物の方角を確認していた。


(砂の上を、走って、あそこまで逃げ切れるのか?)


 少年は、建物と思われる方向を凝視していたが、下にいる黒い生き物と建物を交互に見始めた。


 その様子は、自分の立つ岩の周りをグルグルと回る少年の捕食者と思われる黒い生き物と競争して、あの建物に逃げ込めるかを考えているようだ。


(この黒い生き物の持久力と、自分の持久力の勝負なんて。真っ平御免だ。どう頑張っても、途中で、あのハサミか鋭利な尻尾に切り刻まれて、動けなくなったところで、食われてしまう、だろうな)


 少年は、がっかりしたような表情をしたが、その表情には絶望しているようには見えない。


 方法の一つが、ダメになったので、次の方策を考えようとしていた。


(とりあえず、時間的な猶予は取れた。できれば、この黒い生き物がこの岩を登れないと判断して諦めてくれないかな?)


 希望的な思いが頭をよぎったようだが、また、何かを探るような表情で黒い生き物を見た。


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