格闘技に必要な筋肉 冒険者アンジュリーン
アンジュリーンは、青い顔をして今引いてみた弓を作業台に戻した。
そして、クラスの中でも筋肉質で腕力も強いクカムランの引けなかった弓を、自分が簡単に引いてしまった事に気がつき顔を青くしていたのだ。
アンジュリーンは、隠していたが、メンバー達は、アンジュリーンが可愛い系の女子を目指している事を知っていた。
それが、クラスでも筋肉質で腕力もありそうな男子の引けない弓を引いてしまった事を知ってしまったのだ。
そして、人の胸板や二の腕は自分のものより、他人のものの方が見やすい事から、アンジュリーンは、自分の体の変化を気のせいで、入学前から大した違いは無いと思い込んで、腕の太さも胸板が厚くなっているのも気のせいだと自分に言い聞かせていたのだ。
今、クカムランが引けなかった弓を自分が引いてしまったことで、自分の方が上だと証明してしまったのだ。
今まで触れたくは無かった現実を目の当たりにしてしまい、ショックのあまり、青い顔をしているのだ。
そして、アンジュリーンは、胸の前で腕を組んで二の腕を確認するように掴み、腕を組み替えて、その太さと筋肉の硬さを確認した。
「最近、ブラウスが腕に引っ付くように思えたけど、腕が太くなってしまったからなの?」
アンジュリーンは、小さな声で呟いたので、一番近くに居たジューネスティーンは、何を言ったのかよく分からなかったようだ。
それは、後ろに居たカミュルイアンも同じようだった。
そして、ジューネスティーンは、アンジュリーンが何か言った事に答えなければと思ったようだ。
「アンジュ? ……」
その後に、もう一度言ってと言葉を繋ごうと思ったようだが、アンジュリーンの様子から、それ以上の言葉を言ってはいけないと思ったのか、そこで止めていた。
「ど、どうしよう。 私、あのマッチョのクカムランより筋肉質になっているのかしら」
また、つぶやくように言うので、その言葉は誰にも伝わることは無かった。
「よかったですねぇ、アンジュ」
青い顔をしたアンジュリーンにアリアリーシャが声を掛けた。
アンジュリーンもジューネスティーン達もアリアリーシャを見た。
「あなたはぁ、冒険者だしぃ、その弓を引けたということはぁ、弓ではぁ、あなたがぁ、一番だってぇ事よぉ」
「そうだよ。 それにアンジュは、初めて使った弓でも、直ぐに的に当てられたじゃなか。 きっと、弓を使う生徒達の中では一番じゃないのか」
アリアリーシャの話に乗っかるようにジューネスティーンもアンジュリーンに声を掛けた。
「う、うん。 そ、そうね。 ハハハ、アハ」
今、アンジュリーンは、誰もまともに引くことの出来なかった弓を引いてしまった事と、そして、的にも簡単に当ててしまった事もあって、現時点で弓の教義があれば、誰よりも高得点で優勝する事になるだろうが、アンジュリーンとしたら、自分の体の筋力が付いてしまっているということを証明してしまった事を思い知らされてしまったのだ。
アンジュリーンの弓の腕は、強い筋力を付けた事によって強い弓も使えるようになり、長年の経験から、その弓の特性を数本撃つだけで理解してしまい、的に当てる事ができてしまったのだ。
弓を使う冒険者としては、アンジュリーンの能力はとても必要とされる能力となる。
そして、強い弓は、遠距離の的を狙う事が可能となる。
それは、今まで以上に遠距離からの支援が可能となるので、冒険者パーティーとして、大変優位に立てることとなる。
遠くの魔物に対して、アンジュリーンの持つ弓の命中精度と、ジューネスティーンの作った弓の威力によって、大きなアドバンテージとなったのだ。
それは冒険者としては喜ばしい事なのだが、可愛いエルフを目指していたアンジュリーンにとっては、あまり、嬉しい事ではない。
ただ、自分自身は、冒険者として生きていくので、攻撃力が高まった事に関しては良いとは思っているのだが、手放しで喜べないというのが実情なのだ。
そのため、アンジュリーンは、その相反する事に関して自分自身がどうしたら良いのか困っている。
「もう、アンジュったらぁ、仕方ありませんねぇ」
そんな様子をアリアリーシャは、残念な人を見るような視線を送ると、ため息を吐いた。
「アンジュ! あなたは、これから先、どうやって生きていくつもりなの?」
「……」
アリアリーシャの問いかけにアンジュリーンは答えずにいた。
「あなたに何か特技があって、それを使った商売で稼ぐなら構わないけど、冒険者以外に何の取り柄も無いなら、行き先は一つしかないのよ」
アリアリーシャは、いつもの語尾を伸ばす口調ではなく、真剣な様子で聞いた。
その質問を聞くと、アンジュリーンも今の自分の冒険者以外の選択肢で食べていく方法を思い浮かべてしまった。
その先にあるものをアンジュリーンも知っているのだ。
その様子を見たアリアリーシャは、アンジュリーンも自分の置かれた立場を納得しただろうと思ったようだ。
「だったら、体型がどうのと考えるより、その体型でも細く見える服を選べばいいでしょ。 一流冒険者なら、それだけで魅力的に見られるんだから、いちいち体型なんて気にしちゃダメでしょ!」
それを聞いて、アンジュリーンも表情から影が消えてきた。
「そういえば、別の国にドワーフ女子とエルフ女子のAランク冒険者が居るって聞いた事があるわ。 パーティーメンバーも全部女性でとても強くて人気も高いらしいわよ。 あなただって、Aランクになったら、きっと、モテモテになるわよ」
そこまで言われると、アンジュリーンの表情が笑顔になった。
「そ、そうよね。 私は、冒険者として生きていくのだから、つ、強い弓を引けるようになった事を喜ばないと、い、いけなかったわね」
アンジュリーンは、少し顔を赤くして答えた。
その様子に周りはホッとしたように肩の力を抜いた。




