格闘技に必要な筋肉 新しい弓
弓道場には、ジューネスティーンとカミュルイアンが、アンジュリーン達を待っていた。
「なあ、カミュー。 本当に試し撃ちしてみなくていいのか?」
カミュルイアンは、ジューネスティーンの作った弓を手に持つこともせずに、ただ、羨ましそうに見ていた。
ジューネスティーンは、そんなカミュルイアンを見て、気を遣ったようだ。
「うーん。 でも、アンジュが来るのを待つよ」
カミュルイアンは、弓から視線を外す事なく答えたので、ジューネスティーンは、仕方なさそうな表情をした。
ジューネスティーンは、カミュルイアンが弓を見るだけで触ろうともしない理由が理解できてしまっていたのだ。
カミュルイアンは、二卵性双生児と思われるアンジュリーンに遠慮して、完成した弓に手を付ける事を遠慮しているのだ。
アンジュリーンとカミュルイアンは、どちらも弓を得意としており、そして、アンジュリーンは、自分の弓をカミュルイアンに触らせるような事は無い。
そんな事もあるので、作業台の上に置かれている弓を、ただ、見ているだけだった。
(そんなにアンジュに気を使わなくてもいいんじゃないのか?)
ジューネスティーンは、カミュルイアンの弓に対する欲望もアンジュリーンへの気持ちも理解している様子でカミュルイアンと弓を見比べていた。
そして、一つため息を吐いた。
すると、教室のドアが開いてアンジュリーンが入ってきた。
「ジュネス! なんか、いい弓ができたんだって!」
にやけた様子でアンジュリーンが入ってくると、その後ろからシュレイノリアの手を引いてアリアリーシャが入って来た。
そして、最後にレィオーンパードが入ってくると、教室の扉を閉めた。
ジューネスティーンは、アンジュリーンの表情を見るとカミュルイアンをチラ見した。
カミュルイアンは、少し焦ったような表情をしていたが、アンジュリーンが来た事で、視線を弓からアンジュリーンに向けていた。
その様子は、アンジュリーンに何を言われるのか心配のようだ。
今までのカミュルイアンとアンジュリーンのやり取りから、2人がどんな様子なのか理解していた事もあり、気の弱いカミュルイアンが、気の強いアンジュリーンを気にしているようなのだ。
(何もしてないんだから、そんなに気にする事はないだろうに)
そんなカミュルイアンをジューネスティーンは、少し可哀想に見た。
「ねぇ! ジュネス、新しい弓って、どれなの? 呼びに来させるくらいだから、さぞ良い弓ができたんでしょうね!」
2人の事を気にする事もなくアンジュリーンは、わずかにニヤケ気味に聞いてきた。
(あーっ、やっぱり、アンジュも弓と聞いて、興味津々なのか。 カミュルイアンが物欲しそうに新しい弓を見ていたものな。 やっぱり、弓使いは弓使いって事なんだろうな)
ジューネスティーンは、何か納得するような表情をした。
「ああ、そこに置いてあるから、2人で試してみて欲しいんだ」
そう言って、カミュルイアンの後ろの作業台の上を指差すと、アンジュリーンの表情が一変した。
今までの少しニヤけた表情から、イラついたような表情に変わったのだ。
「……」
アンジュリーンは、無言のままカミュルイアンに射抜くような視線を送った。
その視線を受けたカミュルイアンは、ビビった様子で肩を震わせた。
「ちょっと、カミュー! おどき!」
カミュルイアンは、慌ててジューネスティーンの後ろに移動した。
作業台の前に2人が立っていたのなら、カミュルイアンは、ジューネスティーンとは反対側に移動すれば良いと思えるのだが、わざわざ、ジューネスティーンの後ろに回り込むように移動したのだ。
その様子をアンジュリーンは、面白くなさそうに見つつ、作業台の前に歩いて移動すると、視線を作業台の上に置いてある弓に移した。
アンジュリーンは、作業台の上を確認すると、そこには、2張りの弓が置いてあった。
どちらも金属でできており、そして、弦は2本が中央で交差し、その外側にもう一本の弦があった。
よく見ると、外側の弦は、弓の先端に付いた滑車を通って反対の弓の先端へ繋がっていた。
そして、一般的な弓とは異なり、弧を描くような作りではなく、持ち手の部分から真っ直ぐに伸びた棒状の部分が、弓の長さの、ほぼ8割を占めており、弦を引いた時にしなる部分は、弦と垂直とまでは行かないが、弦としなる部分の角度はかなり鈍角になっていた。
例えるなら、弦を底辺にした台形のような形になっていた。
「ジュネス。 この弓って、3本の弦を使っているの?」
アンジュリーンは、今まで一般的な一本の弦が弓の先端から反対の先端に繋がった弓を使用していたので、滑車を使って三重に弦が張られている弓を見た事が無かった事から、この弓の特殊性が気になったのだ。
「弓の先端に滑車が有るだろう。 そこを通して反対側の先端に繋いでいるんだ。 だから、弓を引いた時、しなる幅が小さくて済むから、その分、強度の高い金属を使えたんだ。 それにジュエルイアンさんから頂いた軽い金属を使ったから重さも気にならないと思うんだ」
「あら、これって、鉄じゃないの?」
「うん、鉄とは違って、何かの合金らしいんだけど、鉄の3分の1位の比重だから、見た目よりは、軽いはずなんだ」
「そうなのね。 だったら、早速、使わせてもらうわ」
アンジュリーンは、材質について気にすると、ジューネスティーンが説明し始めたので、慌てて、区切りが付いた部分で、口を挟んだようだ。
アンジュリーンとしたら、ジューネスティーンの説明より弓を使ってみたいという思いの方が強かった事もあり、長々と説明を聞きたいとは思わなかったのだ。
そして、ジューネスティーンの影に隠れるように移動していたカミュルイアンに視線を送った。
「カミュー、どっちの弓を使ったの?」
「いや、まだ、どっちも手に取ってないよ。 見比べていただけだから」
アンジュリーンは、答えを聞いて嬉しそうにした。
「そう」
二つの弓を見比べて、どちらの弓にも、大した違いはないと判断したのか、2度ほど頷くと、一方の弓を手に取った。
そして、体から離すように持つと、軽く弦を引いて、弓のしなり具合を確かめてから指を離し弦の戻り具合を確かめた。
それを何度か繰り返すと、今度は矢の無い状態で、弓を引く動作を行った。
「ん!」
アンジュリーンは、顔を顰めた。
「ねえ、ちょっと、こんなに弦が強いの!」
アンジュリーンは、弦の強さが気になったようだが、それ以上にジューネスティーンは、驚いた表情をしていた。




