格闘技に必要な筋肉 綱上り
ジューネスティーンの提案した綱は、数日後には、格闘技場に取り付けられていた。
格闘技場は、三角の屋根となっており、中央が一番高くなっていた。
屋根の頂点を支えるように伸びている、一番高い部分の梁を利用して、その綱は取り付けられていたので、長さは約10メートル有った。
その綱は入口の扉の脇に縛り付けられるように紐で固定されていた。
そして、綱の太さは人が手で握れる約5センチだった。
ジューネスティーンは、教官からの連絡で、綱が設置された事を聞くと、メンバー達を引き連れて昼休みに、早々と格闘技場に行った。
「へーっ、あの教官って、案外、行動が早いのね」
アンジュリーンは、早々に感想を述べた。
しかし、レィオーンパードとアリアリーシャは、綱を見るよりも食堂で食事をとりたかったのか、面白くなさそうにし、カミュルイアンは、周りから離れたくないというように、レィオーンパードの後ろから、仕方なさそうな表情で付いてきていた。
ジューネスティーンは、取り付けられた綱を確認すると、その綱をゆっくりと上に向かって視線を上げていき、最後に梁に固定されている部分を確認するように見た。
「じゃあ、早速、使わせてもらおうか」
ジューネスティーンは、顔を上げたままの状態で周囲に告げた。
その一言に、シュレイノリア以外の4人は呆気に取られたようだ。
「あのー、お昼ご飯は、食べないの?」
レィオーンパードが、お腹に手を当てつつ、ジューネスティーンに尋ねた。
それは、アリアリーシャ、アンジュリーン、カミュルイアンも同意見だったようだが、そんな事を気にする様子もなく、ジューネスティーンは、取り付けられた綱を満足そうに見ていた。
「うん。 今の時間だと食堂も混んでいるから、場所を確保するのに時間がかかるだろう。 だったら、その前に練習して、みんなが食べ終わった後に食堂に行った方が、時間も効率的に使えるだろ」
確かに、食堂の混雑率は、授業が終わった後が一番高い。
6人がまとまって食べられる席を探す事が難しい状況になる。
それが、10分後20分後と時間が経つと空席が出始め、30分後であれば、席も選んで使えることにもなるのだ。
食事をもらいに行くにも順番待ちになり、テーブルも空きまちになるなら、その時間を有効活用したいと思うなら、混雑する時間には別の事をして、空いている時間に食事を取るというのは有効な方法だといえる。
だが、4人の気持ち的には、早く食堂に行きたそうにしていた。
そんな中、アリアリーシャが1人ため息を吐くと、入口の脇に取り付けられていた綱を外して準備をしていたジューネスティーンに近寄った。
「ねえ、この綱を上るのよね。 さっさと終わらせるわよ」
そう言って、ジューネスティーンを手伝おうとしたようだ。
すると、動こうとしなかったメンバー達を睨みつけるように見た。
「ほら、さっさと終わらせて、ご飯食べに行くよ!」
残りの3人は、アリアリーシャに言われ、慌てて綱の準備を手伝い始めた。
梁に取り付けられていた綱は5本だった。
それを5人で準備するのを、シュレイノリアが監督するように見ていた。
綱は、等間隔に配置できるようになっており、それぞれが、軽く引っ張ったりして強度を確認していた。
綱が取り付けられている太そうな梁は、5人程度が同時に登ったとしてもびくともしないようだ。
すると早速、ジューネスティーンが上り始めた。
腕を伸ばしてから体を引き上げるが、両腕でやっと引っ張り上げられる程度だった。
そのため、足を使って、一旦支えるようにしてから握る位置を変えて上るようにしていた。
その様子を5人が見上げているのだが、ジューネスティーンは、周囲の事は気にする事なく上っていき、一番上につくと、握る力を緩めるようにして、ゆっくりと滑り降り、床に降りると息を整えていた。
「これ、結構キツイな」
感想を述べていると、アリアリーシャが、カミュルイアンとレィオーンパードを睨みつけるように見たので、2人は渋々ジューネスティーンと同じように綱を上り始めた。
2人も足を使って上っていくと、アリアリーシャは、自分より50センチも背の高いジューネスティーンの横に来て顔を覗き込むように見上げた。
「ねえ、これってぇ、腕だけで上るつもりなのよねぇ?」
アリアリーシャは、ジューネスティーンに確認するように聞いてきた。
「ああ、そのつもりだけど。 まだ、筋力が付いてないから、腕だけってのは無理そうだから、今は、足で補助しているけど、筋力が付いたら腕だけで上る予定だ」
疲れた様子で答えると、アリアリーシャは、やっぱりというような表情をした。
「ふーん。 やっぱり、そうなのね」
アリアリーシャは独り言を呟くように言うと、余っていた綱に行き、そのまま綱に手をかけた。
そして、腕を引き、そのまま、体を持ち上げ、背筋を伸ばし足を体と直角になるようにし、綱を両足の間を抜けるようにして上っていった。
左右の腕を交互に胸に引き寄せるようにして、一気に上ってしまった。
一番上まで上ると、上った時と同じようにして左右の腕を交互に下に持っていきながら降りてきた。
上るときと同じように腕を使って降りてきてしまったのだ。
その様子をジューネスティーンは、驚いた様子で見ていた。
「ねえ、これでよかったかしら?」
驚きが隠せなかったジューネスティーンにアリアリーシャは確認した。
ジューネスティーンは、頷きだけで答えた。




