格闘技に必要な筋肉 模範試合の相手はジューネスティーン
生徒達は、全員がジューネスティーンを見た。
ジューネスティーンとしたら、入学早々、問題を起こしたいとは思っていなかったのだが、周囲は、そんなジューネスティーンの思惑とは違い、魔法職であるシュレイノリアと常に一緒に行動していることが気に食わなかった。
その腹いせを、この屈強な教官の模範試合の相手に差し出し、自分達の鬱憤を晴らそうと思っているのだ。
入学時に組まれたパーティーは、卒業後も冒険者パーティーとして活動する事が多く、入学時に魔法職をいかにパーティーに組み込むかは、卒業後の活動に大きく影響を及ぼす事もあり、非常に重要な部分でもあった。
ギルドのカリキュラムの中には、魔法の授業も存在しており、ごく稀に、その授業を受けて魔法を覚えてしまう冒険者も居るのだが、そんな奇跡的な確率に期待するより、魔法職が入学しているのであれば、そのままパーティーを組んだ方が手っ取り早い。
だが、シュレイノリアに声を掛けた生徒達は、その都度ジューネスティーンの後ろに隠れてしまった事から話もできずにいた。
声を掛けた生徒の前に、ジューネスティーンが出るようにシュレイノリアは隠れていたので、声を掛けた生徒達は、ジューネスティーンに対して快く思っていなかった事もあって、その腹いせとして、格闘技の授業の実験台として教官に捧げたのだ。
ジューネスティーンは、生徒達から嫉妬の眼差しを向けられていた。
教官は、生徒達の視線の先にいるジューネスティーンを見た。
「おい、お前、……。 ああ、今年の特待生か」
教官としてもジューネスティーンの事を知っていたが、生徒達とは違い、特待生になった経緯について報告を受けていた。
教官は、ジューネスティーンを確認すると、一緒に居たと思われるシュレイノリアを見て何かを考えるような表情をしたが、直ぐにジューネスティーンを見た。
シュレイノリアの魔法については、一般の魔法職とは比べ物にならない程の魔法力を有していると報告もあり、魔法担当の教官がシュレイノリアの魔法を確認していた。
その魔法担当の教官からの報告を聞いても、特待生として扱っても問題無いと思えたのだが、ジューネスティーンの方の報告は微妙だった。
作った剣は、斬れ味が良い細身の曲剣だったので、そんな細身の剣など、直ぐに折れてしまう可能性が高いと思えるのだ。
その剣は、一般的な剣に比べたら遥かに軽く使い勝手が良さそうだった。
それが、ジューネスティーンのような子供向けの剣としてなら、軽い剣というのは納得できなくはないのだが、冒険者として本格的に戦うならば、そんな細身の斬るための曲剣では、直ぐに折れて使い物にならないというのが、この世界の常識と言えるのだ。
ジューネスティーンの剣は、この世界の住人からしたら、実用性に欠ける剣と見られてしまったのだ。
その剣は、今のジューネスティーンの体格に合わせた剣であって、屈強な冒険者には合わない剣と見られているのだ。
そして、ジューネスティーンには、もう一つの課題が有った。
卒業までにジューネスティーンが考えている防具を完成させてギルドに提出するというものだった。
それは、パワードスーツと言い、今までのフルメタルアーマーのように体に装着するのではなく、服を着るように装備するというものだった。
フルメタルアーマーは、各パーツを自身の肉体に固定するように取り付けるので、パーツを順番に取り付けていくことから、場合によっては、数人で取り付ける必要があるのだが、ジューネスティーンは、完全な防具の状態で組み立てられたパワードスーツを、人にフルメタルアーマーを取り付けた状態になっており、そのまま装備とするというのだ。
それならば、装備するための時間が短縮できるだろうとは思うのだが、それだけだろうと思われていた。
フルメタルアーマーは、防具として優秀ではあるが、重量があって、動きも制限されるので、それが自立できてとなれば、重量は今のフルメタルアーマー以上となり、装着時の動きがまともにできるのかと、大半の教官の考えだった。
しかし、ギルド本部は、必要な材料の提供を行うので、ギルドの高等学校には教室を一つ提供するように指示してきたのだ。
そんな事までして、入学させる必要があるのかと、大半の教官達は思っていたのだが、ギルド本部は、指示だけをして、学校側の言い分を聞くつもりは無かったので、学校としても教室の提供を認めるしかなかった。
ジューネスティーンは、授業以外の時間を使って、パワードスーツを作ることになったが、それは、卒業までに仕上げると言う条件をつけられていた。
そして、入学前には、ジューネスティーンが実際に使っていたという、フルメタルアーマーを改造したパワードスーツの原型というものを、職員達は確認しているのだが、それは、膝と肘の外側に腕と足に平行に金属の棒と肘と膝の横には蝶番が付いており、肘と膝に連動して曲げることができた。
それによって、力が加わった時に肘と膝を保護するということは理解できたのだ。
ただ、肘と膝以外の関節部分については、動きが複雑だという事もあり、その部分については、ジューネスティーンから設計内容の説明を受けるだけだった。
一部の職員の中から、歓声が有ったのだが、この格闘技の教官には、その説明を受けても、そんなものなのかと思っただけだったのだ。
力自慢の教官には、そのジューネスティーンが考えたパワードスーツが、フルメタルアーマーとの違いが画期的だとは思えないかったのだ。
その程度のものを教室を一つと材料を一式提供して作らせるだけで、特待生として入学させたということが納得できずにいた生徒が、周囲から自分の前に生贄として差し出されたのだ。




