再会 28 〜魔法紋の描き換え〜
近寄ってきたウィルザイアは、恐る恐るシュレイノリアの持つ剣を覗き込んでおり、手渡したメイノーマもシュレイノリアの行動が気になる様子で見た。
シュレイノリアは渡された剣を目の高さまで上げると右手の人差し指を鍔脇の鞘の部分に触れるように当てると、その指を離し左手の親指で鍔を弾くように上げ剣を僅かに鞘から抜いた。
子供の小さな親指で弾く程度なので、見えたのはハバキの部分と僅かに剣の部分だけだった。
「うん」
シュレイノリアはハバキをジーッと見ると直ぐに納得したように声に出した。
そして、右手の人差し指を鍔脇の鞘の上に当てると直ぐに手を離した。
「これでよし」
そう言うと、剣をメイノーマに渡そうとしたが直ぐにやめた。
「実験か」
そう言うとウィルザイアに向き剣を渡すように胸の前に出した。
「魔法紋が有効か確認したい」
シュレイノリアは、ウィルザイアに剣を渡そうとしていたが、ウィルザイアは何で自分なのかというような表情をしてシュレイノリアを見た。
そして、メイノーマは自分に渡してくれると思った剣がウィルザイアに渡そうとしている事に驚いた。
「あ、えっ?」
ウィルザイアは、意味が分からないといった様子が思わず声に出た。
「あ、あの、魔法紋の変更は?」
今度は、シュレイノリアが、ウィルザイアの質問の意味が分からないといった様子になった。
「何を言っている? 魔法紋の変更は終わった。効果を確認してくれ」
シュレイノリアは、ジューネスティーンの試し斬りの際、メイノーマが耳を押さえていた事を思い出し、魔法紋の動作確認をウィルザイアに行わせようとしたが言葉が足りなかった。
「えっ? 何もしてなかったでしょ! 魔法詠唱は?」
「詠唱? そんなものは必要無い! イメージが明確なら魔法は発動する」
ウィルザイアの疑問に、シュレイノリアは当たり前の事を聞かれたと不満そうに答えた。
そして、何の事だと不思議そうな表情をしてウィルザイアを見ていた。
シュレイノリアの視線に困った様子で視線が定まらなかった。
(魔法詠唱無し? そんな事が可能なの? そういえば、ある宗派では指で印を結ぶとかあった? いえ、そんな様子も無かったけど、印を結ぶにしても簡単な呪文は有ったわ)
ウィルザイアは心を落ち着かせるように胸に手を当てて大きく息を吸ってから、ゆっくりと吐いた。
そして、決意したようにシュレイノリアを見た。
「魔法は詠唱を行なって実行するのよ。どこの宗派でも魔法の発動には詠唱をするわ」
ウィルザイアの言葉を聞いてシュレイノリアは面倒臭そうな表情をした。
「ふん! 仕方がない」
そう言うと、渡そうとしていた剣を戻して自身の目の前で水平にすると、左手の親指で鍔を弾いてハバキの部分を鞘から外すと右手で柄を逆手に持って引き抜こうとした。
しかし、背の低いシュレイノリアでは剣が長く、1人で引き抜くには腕の長さが僅かに足りないのを柄を逆手に持って長さに対応していた。
引き抜いた剣を上に向けると、呆けた様子で自分を見ていたメイノーマに視線を向けた。
「おい、どうだ?」
メイノーマは声を掛けられて、何の事だというように顔を傾けた。
「耳を覆う必要はないのか?」
聞かれても何の事かというように見返して頷いたので、シュレイノリアは納得したような表情になった。
「今度は、聞こえてなみたいだな」
言われてもメイノーマは理解できずにいたが、シュレイノリアは気にする事なく剣を鞘におさめ剣をメイノーマに渡した。
「ねえ、ちょっと、シュレちゃん。どうなっているの?」
ウィルザイアは恐る恐る聞くと、シュレイノリアは今の様子から理解できていなかったウィルザイアを蔑むような目で見た。
「魔法紋の変更は終わった。発振周波数を上げたら、この人には聞こえなかった。だから、魔法紋を発動させても、さっきのように耳を両手で塞がなかった」
ウィルザイアは、まだ、信じられないという表情をしていたので、シュレイノリアはため息を吐くとメイノーマを睨んだ。
「おい、お前、ジュネスの剣で試し斬りをしてみろ!」
メイノーマは、ジューネスティーンが試し斬りした時の音を思い出したように、恐る恐るシュレイノリアから剣を受け取ろうと手を伸ばした。
その様子をシュレイノリアは面白くなさそうに見た。
「お前の耳には聞こえなかった。だから、試し斬りをしても問題無い」
メイノーマは信じられなさそうに聞いていたので、シュレイノリアは、また、ため息を吐いた。
「今、魔法紋を変更した。発動させても、お前は気が付かなかった。だから、問題なく試し斬りができる」
シュレイノリアは魔法紋の変更をしてメイノーマの目の前で発動させたが、耳を塞ぐ事なく終わっていたので、魔法紋を発動させた時に出る音が聞こえていなかった事を確認したのだが、周りの2人には気付かれなかった。
メイノーマは、ジューネスティーンの試し斬りの時に出た音のイメージが残っており渡された剣が自身の可聴域より高い周波数で発振していたとは思えなかったので、疑うような目で剣を見つめていた。
2人の様子を伺っていたウィルザイアは、シュレイノリアの言葉を思い出すように顎に手を当てていた。
(えっ! 本当に変更してしまったの? さっき、シュレちゃんが剣を掲げた時、魔法紋を発動させていたの? メイノーマには聞こえない魔法紋を、あの一瞬で変更してしまったって事なの?)
そして、徐々に青い顔に変わっていくと、恐る恐るシュレイノリアを見た。
「シュレちゃん。本当に魔法紋の描き変えが終わったの?」
信じられないというように聞かれたシュレイノリアは、自身の仕事が信用されてないと思われたというように睨んだので、ウィルザイアはしまったといった表情をした。
「お前、信用してないな」
シュレイノリアは、思った事を、そのまま言葉にしたので、ウィルザイアは余計な事を言ってしまった事を、どう繕おうかとなり、あたふたしてメイノーマを見るが、不思議そうに剣を見ているだけだった。
この場を取り繕う為にフォローして欲しい人は、自分の事を気にする様子もない。
(ど、どうしよう)
ウィルザイアはシュレイノリアを怒らせてしまった事を、どう取り繕えば良いのか答えを失ってしまった。




