再会 28 〜魔法紋付与の剣〜
アイカペオラが話に納得すると、アジュレンはメイノーマを一度確認するように見るとセルレインを見た。
「じゃあ、俺は、少し遠くに離れるよ。さっきの音は、ちょっとキツかったからな」
「あ、ああ」
アジュレンは、一言了解を取ると離れて行ったが、答えたセルレインは不思議そうに見送った。
その様子を見送ると、ストレイライザーが違和感を感じた様子でメイノーマとアジュレンを交互に見た。
「なあ、あの剣の試し斬りをメイノーマがするのか?」
「そうだな」
ストレイライザーが疑問を投げかけるが、セルレインは何も気にならない様子で答えたので、ハッキリと聞いた方が良いと思ったようだ。
「メイノーマは、さっき、耳を押さえていなかったか?」
セルレインは何か違和感を覚えたような表情をしたまま答えずにいた。
「ええ、押さえていたわ」
アイカペオラは、セルレインが答えずにいたので、その時の事を思い出しながら答えたが、ストレイライザーは自身の疑問に誰も答えてくれない事をもどかしく思ったようだ。
「あいつ、自分で持って剣を振動させて、大丈夫なのか?」
「「あっ!」」
セルレインとアイカペオラは問題に気が付いた。
指摘を受けて、セルレインもアイカペオラもジューネスティーンの剣に刻まれている魔法紋の振動をさせた時にメイノーマの様子から、その剣を自身で持って魔法紋によって振動をさせた時に大丈夫なのか心配になった。
メイノーマは、ジューネスティーンから渡された剣を大事そうに抱えて満足そうにしていたが、自身が耳を塞ぐ程の音が出ていた事に気がついてない。
(メイノーマのやつ、あの剣の性能だけに気が入ってしまって、あの時、音がうるさかった事を忘れているな)
セルレインは、メイノーマの浮かれた様子を仕方なさそうな表情で見た。
(まあ、俺達のような冒険者には、魔法剣なんて見た事なんて無いし、使わせてもらえると思ったら、さっきの事なんて忘れてしまうか。でも、耳を塞ぐ程大きな音だったはずだぞ)
アジュレンは気がついて離れたが、メイノーマは魔法紋の音より性能に気を取られていた。
「おい、メイノーマ。お前、その剣の試し斬りをするのか?」
メイノーマは、キョトンとした表情でセルレインを見ると、大事そうに剣を胸に抱えたまま嬉しそうに頷いた。
その様子を見ていたアイカペオラとストレイライザーが本当かというように顔を見合わせたが、セルレインはメイノーマから視線を外す事なく見ていた。
「な、なあ、メイノーマ。さっき、ジュネスの試し斬りの時、お前、耳を両手で塞いでなかったか?」
メイノーマは言われて、そんな事もあったなというような表情をしてから、青い顔をした。
「お前は、その剣を、使うのは、やめた方が、良いんじゃ、ないか?」
セルレインは、恐る恐る伝えると、メイノーマは、胸に抱えていた剣を慌てて前に突き出すようにして剣を見た。
「あの時、うるさいと思えたのなら、自分で持った状態だと、もっと耳に響くと思うんだが、……」
メイノーマは、自身の手に持った剣を見てゾッとした表情になり困ったようにセルレインを見たが、セルレインとしてもどうしようもないといった表情をした。
「うう」
メイノーマは、恨めしそうに剣を見ていると、違う方向から声が掛かった。
「魔法紋を描き直す」
その言葉を聞いてメイノーマは何だという表情をすると、視線を声のする方に向けると、そこにはシュレイノリアがいた。
シュレイノリアは、ウィルザイアに手を繋がれたままメイリルダの後ろから顔をメイノーマに半分見せていた。
「亜人の可聴域は人より高い。だったら、発振周波数を高くして聞こえない領域にすればいい。今なら、どの周波数に変更したら良いのか確認ができる。実験には丁度良い」
亜人は動物の特性を強く残している事から、犬笛のような人の聞こえない高い周波数の音を聞くことができると、ジューネスティーンの試し斬りで分かったのだから、シュレイノリアは魔法紋の描き直しを行って聞こえない領域に周波数を変更しようと考えた。
その様子をウィルザイアは、魔法紋を描く魔法を見る事ができると分かると、都合が良いと思ったようにシュレイノリアを見るが、直ぐに疑問が生じたような表情をした。
「ねえ、シュレちゃん。魔法紋の描き変えって、直ぐにできるの?」
「問題無い。今ある魔法紋を消して、新しく描けばいい。発振周波数の変更だけだから、魔法紋の設計変更は一部分だけだ。大した設計変更にはならない。直ぐに出来る」
シュレイノリアが当たり前のように答えるので、ウィルザイアは、本当なのかという表情をした。
その様子をシュレイノリアが見ていたのをウィルザイアが気がついた。
「すまないが、手を離してもらえないだろうか? 剣の魔法紋を変更したい」
言われて、手を握ったままだったことに気がついた。
「あ、ああ、そうね。あっ! その魔法紋の描き変えだけど、私も見ててかまわないかな?」
(良いのかしら? 門派が違う私が、……。ああ、シュレちゃんは、門派もないのか。それに、セルレインは、シュレちゃんの魔法を覚えて欲しいのだから、ちゃんと見て使えるようにならないといけないわね)
魔法に関する事は、門派が違うと無闇矢鱈に教える事は無いので、ウィルザイアは不安そうにシュレイノリアに聞いたが直ぐに思い直したような表情をした。
その表情の変化をシュレイノリアは見ていたが理由は分からなかったようだ。
「かまわん。見たいなら、近くで見るといい」
そう言うとシュレイノリアは、メイノーマの前に歩いて行った。
ウィルザイアは、本当なのかと言うようにシュレイノリアを見ており、握っていた手の力も緩めてしまったので、ウィルザイアの横をすり抜ける時に手を離した。
メイノーマの前にシュレイノリアが立つと、剣をよこせと言わんばかりに左手を出した。
その手に剣を渡されると、シュレイノリアはウィルザイアを見た。
「おい、魔法紋の描き変えをするぞ。見なくて良いのか?」
言われて、ウィルザイアは慌てて立ち上がってシュレイノリアに近寄った。