黒竜は、シュレイノリアの恋愛観を伝える
黒竜のアリアリーシャへの、愛の告白の話を、遠巻きにカミュルイアンとレィオーンパードが聞いていた。
黒竜が、何やら、アリアリーシャに愛の言葉をかけていたので、不思議に思っていたのだ。
だが、アンジュリーンとの話で、その偏った考え方が、2人も誰の考え方なのか、おおよそ分かってはいたのだが、黒竜の言葉から、シュレイノリアの名前が出て、理解したように、お互いの顔を見た。
「カミュー。 やっぱりシュレ姉ちゃんが原因だったみたいだ」
「みたいだな。 あの偏った考えの人に、恋愛関係の話なんて聞く方がおかしいよ」
「そうだよな。 数万人に1人かそれ以下の人の考え方だもんな。 シュレに魔法の話だって、ジュネス経由じゃないと理解できないのだから、恋愛の話なんて、絶対に聞いちゃまずいよね」
レィオーンパードとカミュルイアンは、内緒話をしていたのだろうが、黒竜にはしっかりと聞こえていたようだ。
『おい、2人とも、それは本当の事なのか?』
黒竜は、言葉を喋る事は出来ないのだが、言葉を聞く事はできるし、人の発する脳の伝達する時の電気信号を、周りを伝わる電磁波として捉える事ができる。
小声で話していても、何を話していたのかも、しっかり聞き取ることができるし、頭の中で、強く思ったことも、読み取ってしまうのだ。
その為、レィオーンパードとカミュルイアンの話を聞いてしまったのだ。
ただ、それを聞かれてしまった、レィオーンパードとカミュルイアンは、しまったといったような顔をして固まってしまった。
それを見ていたアンジュリーンは、カミュルイアンとレィオーンパードが、固まってしまったなら、これ以上、話ができないだろうと思ったようだ。
「全く、余計なことをしてくれたわ。 シュレったら」
アンジュリーンは、黒竜に話が出来そうなのは、自分だけだと思った様子で、仕方なさそうな顔をすると、黒竜に話し掛ける。
「ねえ、黒竜さん。 何で、アリーシャに、あんな事を言ったの?」
そう聞かれて黒竜は、少し考え込む。
『自分には無い感情だったんだ。 ワシらは、雌雄が無い、それに子孫を残す必要が無い、雄や雌に対する感情というものがなかったのだ。 それが、そのアリーシャを見ているとな、心臓の鼓動が早くなったり、気持ちが昂るような感じに襲われたのだよ。 最初は、何の感覚か分からなかったのだが、それを、昔、赤竜の所にいたシュレに聞いたら、それは恋という感覚だと言われた』
アンジュリーンは、間違ってはいないと判断したようだ。
アリアリーシャを見て、心臓の鼓動が速くなるとか、気持ちが昂るのなら、それは、恋心と言って構わないだろう。
ただ、黒竜になんでそんな事が起こったのか、アンジュリーンは不思議に思ったのだが、それは置いといても構わないと判断したようだ。
「確かに、間違ってはいないわ。 それで、シュレから、それ以外に何か言われた?」
シュレイノリアに相談して、どんな回答を得たのか、恋愛マイノリティーのシュレイノリアが、どんな戯言を黒竜に吹き込んだのか、それが、1番の問題なのだ。
『ああ、言われた。 その感情を感じたら、相手に気持ちを、そのまま伝えるようにと言われた』
アンジュリーンは、渋い顔をしている。
(あのバカ。 何万年も生きている竜に、なんて事教えるのよ。 しかも子孫を残す必要が無い種族に恋愛なんて分かる訳ないじゃないの。 しかも、恋愛マイノリティーのくせして、恋愛を語るなんて、あり得ないわ! ……。 ん? 何万年も恋愛してない竜だから、シュレでも話ができたのか! )
アンジュリーンは、頭の中で考察している。
(シュレの事だから……。 シュレの恋愛観を他人に話したら、絶対に笑われるけど、恋愛をしてこなかった竜の皆さんになら、きっと真剣に聞いてくれたので、面白がったのかしら? いえ、嬉しかったのかもしれないわね。 魔法には優れた才能を持っていたけど、一般常識なんて授業があったら、あの子は、絶対に点数を取れないわ。 赤点だって無理よね。 そうよ、あの子の常識は、非常識なのだから、完全に間違った答えしか回答出来ないのよ。)
アンジュリーンが、シュレイノリアの事を考えつつ、顔の表情を変えていた。
そのアンジュリーンを心配そうに見ていた黒竜は、アンジュリーンの思考を読み取っていたのだ。
『おい、アンジュ。 それは本当のことなのか?』
アンジュリーンは、黒竜に、そう問われて、気が付いた。
竜は、言葉で話すのではなく、脳波を相手に伝えるような方法で、会話をしているのだ。
自分が、強く考えただけで、竜には伝わってしまうのだ。
黒竜の問いにアンジュリーンも慌ててしまった。
「まあ、……。 はい、……」
アンジュリーンは、自分の考えていた事が、黒竜に伝わってしまったと分かって、困った顔をする。
だが、自分の思っていた事が、黒竜に伝わってしまったのなら、仕方がないと思ったのだろう、開き直った様子で黒竜に答える。
「そうです。 シュレの恋愛観は、一般人とは、かけ離れていると思います。 なので、シュレの価値観で恋愛を行なってしまったら、アリーシャのようになってしまいます」
それを聞いて、黒竜は、目を大きく見開くと、少しのけぞった態度をする。
『なに〜っ! そうなのか、じゃあ、アリーシャの、その態度はどう言うことなのだ?』
そう言われて、アンジュリーンは、自分の後ろで、背中に張り付いているアリアリーシャを、肩越しに見るのだが、表情まではうかがえない。
その様子から、恥ずかしさから身を隠したいのだと、アンジュリーンは思った。
「ああ、周りに聞かれて恥ずかしいだけです。 さっきのような言葉は、2人だけの場所で行ってあげないと、大半は、こうなってしまいます」
その言葉に、レィオーンパードとカミュルイアンも反応する。
「そうだよ、逆効果だよ。 アリーシャ姉さんは、あまり慣れてないんだから、良くないよ」
「オイラも、みんなの前で、2人に迫られた時は、本当に恥ずかしかったんだよ。 人前で、あれだけ積極的な言葉は、ちょっと引くよ」
カミュルイアンは、初めて出会った、女性エルフの2人から、積極的に迫られた事があったので、その時の事を思い出して話した。
アンジュリーンだけでなく、レィオーンパードとカミュルイアンにまで言われると、流石に、黒竜も自分の発言が不味かったのだと認識したようだ。
『うーん』
黒竜は、黙ってしまった。
その黒竜の態度を見て3人は、ちょっと言いすぎたかと思ったようだ。
ただ、黒竜は、考えていただけだったのだ。
長年の経験から、記憶を引き出して、アンジュリーン達の話を総合して、黒竜は結論を出したのだ。
黒竜は、自分の考えがまとまると、アンジュリーンの言った事が、理解できたようだ。
『そうなのか。 では、今度から、そうすることにする』
3人は、黒竜が分かってくれたことでホッとするのだった。
しかし、それは、3人と黒竜だけで、残った中には、納得できないでいる者もいたのだ。