再会 24 〜メイリルダの誤解〜
メイリルダは、アジュレンに言われてギルドへの報告は直ぐではなくても良いと思えたようだ。
「そうよね。出来た魔法紋が一本の剣だけじゃあ、良くないのか」
メイリルダは呟くと、アジュレンは悦にいった表情をしたが、メイリルダはアジュレンの表情の変化を見ずに自分の後ろに隠れているシュレイノリアを見た。
(そう言えば、シュレは、魔法紋が失敗だったと言ってたわ。失敗した事を報告しても仕方ないかもしれないわね。それにストレイライザーの試し斬りした剣には魔法紋が付与されてなかったみたいだし、成功した魔法紋について報告した方が重要性が増す事になるわね)
実際、魔法紋を付与した剣を見たのは、ジューネスティーンの今持っている1本だけでストレイライザーの使った剣は魔法紋の付与が無かった事からメイリルダは魔法紋を描いた剣は一本だけだった事と、シュレイノリアの失敗と言う言葉に錯覚していた。
シュレイノリアの失敗は、魔法紋付与の魔法の失敗ではなく、剣を振動させた時の音が亜人であるメイノーマとアジュレンに聞こえてしまった事にあった。
シュレイノリアとしたら、一般的な人には聞こえない高周波数に振動を設定していたので自身もジューネスティーンも聞こえなかった音域だと思い問題無いと思っていたが、先程の試し斬りで2人の亜人が耳を塞ぐ程の音になってしまった事で味方への悪影響がある事が失敗だと言ったつもりだったがメイリルダは本質を捉えていなかった。
魔物に聞こえたとしても、魔法紋の発動させるタイミングを考えれば良い事であって、魔物と対戦している時は問題にはならない。
奇襲を掛けるにしても、潜んでいる際は魔法紋を切って潜んで襲いかかる瞬間に魔法紋を発動させれば良く、その剣の振動する音が魔物に襲いかかった時に聞こえて怯んでくれれば奇襲の成功率も上がる事になる。
しかし、味方に影響が出るようでは良くない。
同時に襲いかかる時、剣の振動する音を聞いて不快感を抱いてしまえば、正確な判断も落ちてしまう事もある。
実際の戦闘の際、アジュレンやメイノーマが魔物と対峙している後ろや横で、斬りかかる瞬間だけだと言っても不快な音を立ててしまえば、分かっているとは言っても影響が出ないとは言えない。
戦いにおいて精神面の安定は大きく生死に影響するので、シュレイノリアは亜人の可聴域の周波数で発振させては失敗だと言ったつもりだったのだが、メイリルダには伝わらなかったのでアジュレン達からしたら好都合だった。
そして、万一にでも付与できた魔法紋がジューネスティーンの持つ剣だけだったとなったら情報の重要度が大きく変わってくると思ってしまっていたので、アジュレンの言葉を聞いて新たな魔法紋に関する報告は、もう少し情報を得た後の方が良いだろうと納得した。
本来であれば、メイリルダはシュレイノリアが魔法紋を魔法で付与したと報告をする必要があるのだがアジュレンの口車に乗ってしまっていた。
アジュレンとしたら、自分と自分達のパーティーの利益を考えただけなのだが、その話をしていたセルレインはヒヤヒヤしていた。
メイリルダが、アジュレンの言葉に反論してくるかと思うと気が気では無かったようだ。
しかし、メイリルダは、アジュレンの話術にハマってしまった事で、ギルドに魔法による魔法紋についての報告されるのは先送りした方が良いとおもてくれた事でホッとしていた。
メイリルダは考えていた。
(でも、魔法紋付与の魔法が完成したとしても、シュレの評価が上がるだけでジュネスの評価が上がる訳じゃないのよね。できれば、魔法紋が無いジュネスの剣が、もっと評価されればギルドの見方も変わってくるはずなのに)
メイリルダは、ストレイライザーを見て残念そうにした。
(結局、シュレの魔法紋が有るからジュネスの剣も引き立っているんだって事なのよね)
何かを考えるようにしつつ、ジューネスティーンを見ると、違う方を向いておりその視線を辿るとセルレインがいた。
(ふーん、セルレインに興味があるのか。まあ、パーティーリーダーを見るのは良い事だわ。少しでもリーダーとしての気質でも出来てくれれば評価が上がるかもしれないし)
ジューネスティーンは、今の話について何かを考えるような様子は見受けられず、セルレインの様子を観察していた。
(作った剣は使いやすそうではあったけど、あの剣って、誰もが欲しがるような剣になるのかしら? ストレイライザーは、不満そうにしていなかったけど、今直ぐ剣が欲しそうにはしてなかったって事は、自分の剣の方が良いと思ったって事よね)
メイリルダは、不満そうな表情で空を見上げた。
(どうしたら、ジュネスの評価が上がるのかしら)
メイリルダにとって、評価の高いシュレイノリアと、その陰に隠れてしまったジューネスティーンについて、2人の評価の差が大きい事が気掛かりでいた。
(シュレは、本部に入れるという話もギルドの中には出ているけど、2人を引き離してしまったら、きっとシュレは今のようには生活できないでしょうから、2人を引き離すような事にしたくない。それは、エリスリーンも一緒だから、ジュネスの評価を上げないといけないのに思惑が外れてしまったわ)
シュレイノリアという巨星の影になってしまったジューネスティーンを、メイリルダは憂いていた。