再会 23 〜アジュレンのアイデア〜
セルレインとストレイライザー、そしてアイカペオラは、真剣な様子でシュレイノリアとメイリルダを見比べていた。
アジュレンは、そんなメンバーの様子を伺うように見上げていた。
「今のうち、俺達の武器に、あの魔法紋を印刷してもらえないかな? ジェスティエンのカヤクとジュウとかいうものは、ギルドが完全にガードしているから、俺達には情報すら入ってこない。噂に聞くジュウを使ってみたくても目にすることもできないんだ。あの斬れ味を上げる魔法紋もギルドが独占してしまったら、また、俺達は噂話を聞くだけになってしまうんじゃないか?」
アジュレンが言うと聞いていたメンバー達はゾッとしたような表情をするが、直ぐにストレイライザーとアイカペオラは、もっともな意見だと思ったようにお互いの顔を見た。
ギルドに技術を隔離されてしまう前に恩恵をいただきたい。
前回のジェスティエンのようにギルドに独占される前に新たな技術を自分達にも使えるようにしたい。
魔法が使えるウィルザイアが、シュレイノリアから魔法を教えてもらえたら自分達の武器でも防具でも魔法紋の効果を受けられたら自分達の目標に近づける。
それぞれがアジュレンの話を考えていると、ストレイライザーは何かを思い出したようにそれぞれの顔を見た。
「おい、そう言えば、魔法紋の中には、刃こぼれを起こさないように刃だけを硬くするものが有ったりしたんじゃないか? それも上位ランカーじゃなければ、……。俺達の稼ぎじゃ手が届かない魔法紋だったから、あまり気にしてなかったが、あの娘なら、その魔法紋も作れるんじゃないか?」
ストレイライザーは思わず自分の考えている事を言葉にしたようだが、それを聞いて真剣な表情でストレイライザーを見た。
(しめた! 乗ってきた)
そんな中、背の小さいアジュレンは少しイヤらしい笑みを浮かべたが、2人はストレイライザーを見ていたので、アジュレンの表情を確認していなかった。
「おい、それ、可能性ありだと思うぞ」
自分の話に乗ってきたので直ぐにアジュレンが同意すると、アイカペオラも頷いた。
「そうよ! 耐久性とかも上げてもらえれば、メンテナンスの時間だって減るわ。それに武器の買い替えだって無くなるとは言わないけど、買い替えまでの時間が延びるはずよ!」
アイカペオラが、現実的な事を言い出したのは、大して儲からないこの地でもギルドから貰える冒険者レベルを上げるためには仕方が無いと思っていた中、降って湧いたような幸運を逃してはなるまいと、自身にも恩恵を得られる方向に話を進めたかった。
武器のメンテナンスや買い替えには、大金が動く事もあり痛い出費になっていたが、シュレイノリアの魔法紋で解消できるなら武器に掛かる費用を抑えられる事になり自分達の懐具合が大きく変わる。
預金も増えるだろうし、我慢していた買い物に回すことも可能となるので、今の魔法紋の話は非常に興味深かくなった。
(やっぱりアイカペオラは、お金の話になると乗りやすいな。上手く気付かせられた)
アジュレンは、2人が上手く自身の考えていた方向に話が進んでくれた事に満足そうにすると、ストレイライザーも、その通りと言わんばかりに同意するようにアイカペオラを見た。
この周辺の魔物では、簡単に武器や防具を新調するようなことはできないのは、アイカペオラだけでなくアジュレンもストレイライザーも同じなのだ。
始まりの村周辺の魔物では、魔物のコアの購入価格が高くない。
新人向けの狩場だという事もあり弱い魔物という事もあるが、ギルドが独占している魔物のコアによる召喚された魔物の需要が低い事から、ギルドの購入金額が安く設定されていて、冒険者が始まりの村周辺で魔物のコアを販売しても装備を簡単に購入できる金額が稼げない。
むしろ、生活していくだけで精一杯な冒険者の方が多いが、経験や技術、戦略と戦術を学ぶために活動していると言って良い。
始まりの村周辺の弱い魔物と戦う事によって戦い方を学び、より強い魔物と戦えるようにしてから活動拠点を移していく為には、南の王国の南端にある始まりの村は都合が良かった。
弱い魔物の生息地であるにもかかわらず、ギルドが支部を置いている事から、新人には都合が良い場所と言えた。
ギルドには、南の王国の王都の郊外に大規模なギルド本部が有り、各国にギルド支部を置いている。
各国の都合によって大半はその国の首都に支部を置き、その下部組織としてギルド出張所を設置しているが、魔物のコアの利用価値の高さによって出張所の規模も変わってくる。
ギルド出張所では受けられないサービスも有り、場合によっては魔物のコアの買取と銀行機能しか無い事もある。
そんなギルドの都合もある中、南の王国の南端に位置しており、大して価値のない魔物だったとしても、転移者が現れる事から支部を置いている始まりの村は、新人やランクの低い冒険者には都合が良かった。
ここで力を付けて、南の王国の王都なり他国へ移り住み高額で購入される魔物を狩って魔物のコアを買い取ってもらう場所に移動する。
冒険者ランクを上げるには力以外に知識も要求されるため筆記試験も求められる事から、手っ取り早く上を目指す冒険者は南の王国の王都にあるギルドの高等学校への入学を考える。
そこには、冒険者としての知識と技の他に各国の言語以外にも歴史や習慣も学ぶ事になる。
ギルドは、力だけを求めるような冒険者ではなく、広く知識を得る事によって冒険者以外の人にも敬意を持って接し、力を持たない者から慕われるように配慮されていた。
強い力は、力の無い者達から脅威になる事、力に驕るような冒険者になって人々から嫌われるような冒険者にさせない為に力と同様に知識が要求される事から、始まりの村周辺の魔物を狩り基礎を身につけ、稼げる場所に移りギルドの高等学校に入学しようと冒険者なら誰もが考える。
それは、セルレイン達も口には出さないが思っていた。