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再会 19  〜シュレイノリアの解説〜


 シュレイノリアは、ウィルザイアの言葉で心を開き始めた。


「魔法紋の書き換えは、表面だけを見るんじゃない。表に見えている部分の変化が、周囲に及ぼす影響を考える。刻まれた部分だけを変化させただけでは、魔法紋は、書き換えできなかったんだ」


 ウィルザイアの問いかけにシュレイノリアが答えたので、間に挟まっているメイリルダは、少しホッとしたような表情を浮かべていた。


 その事にウィルザイアもシュレイノリアは気が付かない。


「ねえ、その周囲に及ぼす影響って、魔法の事なのかな?」


 シュレイノリアは、ウィルザイアの質問が少し面倒くさそうな表情で聞いていた。


 それは、自分の説明の意味と少しズレが生じていると思ったからのようだ。


「いや、違う。魔法紋を刻んだ際の事を考えてみてくれ。ポンチ。……」


 シュレイノリアは、そこまで言うと考えるような表情をしたが、それは一瞬で直ぐに表情を戻した。


「釘のような工具を金槌で叩いて魔法紋を描いた時、表面は、叩かれた部分が凹む。それは、その場所にあった素材が叩かれて外へ押し出される事で模様になる」


 ウィルザイアも、言い返された言葉なら理解できるという表情をすると、剣な表情でシュレイノリアの説明を聞き始めた。


「特に、金属の場合は、そうやって作られた魔法紋は、金属の素材の密度が変化している事は目に見えてこない。表面の凹凸を直しても金属の内側に加わった圧力による変化も直さないと、目に見えない部分の魔法紋が残ってしまう。その部分が残っているから、金属製品への魔法紋は、1度だけで2度目は無いと言われているのだ」


 ウィルザイアは、そんなものなのかと思うような表情をしていたのを、シュレイノリアは、様子からウィルザイアの理解力を確認するように表情を伺っていた。


「魔法紋の書き換えは、表面を直す事もだが、その下の金属の、どの辺りまで、刻んだ時の影響があるかを考えて表面を元に戻す。素材内部の圧力による変化は肉眼では識別できないが想像する事は可能だ。そこまで戻せれば魔法紋の書き換えは出来た」


 剣に魔法紋を刻んだとしても、その魔法紋の描かれた素材の状態についてなどウィルザイアは考えた事もなかった事もあり、その事まで指摘するシュレイノリアの能力の底が知れないと思ったように表情が曇った。


「そ、そうよね。魔法紋を描いた後、目に見えない部分が残っていたら、それが影響するわね」


 ウィルザイアにしても、今の説明で魔法紋の書き換えが出来ない理由なのだと言われても、言葉として聞いただけで内容を理解出来たようには見えなかった。


「なあ、それだったら、魔法紋を消した後にも同じ魔法が使えるんじゃないのか?」


「そうだよな。残っているのだったら、消した後も、その魔法紋が使えてもおかしくはないよな」


 ウィルザイアとシュレイノリアの話に、セルレインとアジュレンが割り込んできた。


 今まで、ウィルザイアがシュレイノリアの心を開き始めていたので、その様子を伺いながら、黙って聞いていたのだが、つい、疑問に思って口を開いてしまったようだ。


 一瞬、シュレイノリアは、隠れようとするが、ウィルザイアが、それを許そうとはせず、繋いだ手を、ぎゅっと握りしめた。


 シュレイノリアは、何事かとウィルザイアを見ると笑顔で答えを知りたそうに見ていたので、少しためらうような表情をしたのだが仕方なさそうに口を開き始めた。


「あ、あれは、魔法紋が傷付いているからだ。魔法紋に傷が入ったら機能しないのと一緒の事だ。だが、綺麗に磨き上げるように消した時は、場合によっては機能するものもある」


 シュレイノリアは、少し恥ずかしそうにしていた。


 それを聞いて、セルレインもアジュレンも何となく納得するような表情を浮かべていたが、ウィルザイアは、シュレイノリアの言葉に引っかかったようだ。


「ねえ、場合によっては機能するって? それは、機能したり、しなかったりするって事よね。それは、何でなの?」


 シュレイノリアの恥ずかしそうな様子は変わらないが、ウィルザイアには、少し心が開けてきていた。


「あれは、魔法紋を刻んだ時の深さによる。刻んだ後の魔法紋に、部分的に浅いところができてしまう」


 それを聞いて、ウィルザイアは、何か気が付いたような表情を浮かべた。


 魔法紋を刻んだ時、目に見える部分について、その形になっている事が重要だが、その下の素材について、魔法紋を刻んだ時に与えた力なんて考えて魔法紋を刻む職人は誰一人として居るわけがない。


 それなら、刻まれた魔法紋の下が、アンバランスな形で素材の原子や分子間に与えている圧力について考えられなくて当たり前なの事にウィルザイアが気が付いたようだと、シュレイノリアは判断すると、そのまま話を続けても良いと考えたようだ。


「それが、魔法紋として機能しない事がある。それは、人の手で魔法紋を刻んだ時には顕著に出る。人の力は常に一定とは限らないから、その時の叩く力の違いが、素材の中に深さとして現れるのだと思う」


 ウィルザイアは、納得するようにうんうんと頷いた。


 魔法紋を描く事は無いが、魔法を使う者にとっては、気になる部分でもあったので、その疑問が解決する事はウィルザイアにとって興味深い事だった。


 そんなウィルザイアの様子を見て、シュレイノリアも表情を緩ませた。


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