黒竜とアリアリーシャ
目の前の黒竜は、地面に立つと、かなり高いため、身長180センチと長身のジューネスティーンでも、黒竜と話をするときは、顔を上に上げて話をしていたので、目の前に身長130センチのアリアリーシャが立っていたとしても、気がつく事は無かった。
ジューネスティーンの目の前で、黒竜との間に入って、アリアリーシャが仁王立ちで立っていたのだが、ジューネスティーンは、黒竜と話をしていたので、視線が上に向いていた。
そのため、アリアリーシャが、ジューネスティーンの前に、仁王立ちしていても、気がつかなかったのだ。
そんなアリアリーシャの後ろ姿を見て、いつものような自分の低身長を利用した、少し甘えるような仕草は無い。
黒竜は、地面に立った状態で、肩までは7メートルもあり、首も2メートルは有る黒竜の前に、身長130センチのアリアリーシャが仁王立ちしても、アリアリーシャは、顔を真上にあげるようになる。
その両手は腰に当てているので、横から見ると、Hカップの胸が、更に強調されて大きく見えている。
そのアリアリーシャが、黒竜に話し掛ける。
「ちょっと、黒竜さん。 情報が間違っていたわよ。 あの魔物、10メートルはありましたぁ。 大きさ位、ちゃんと調べてもらえないと困りますぅ。 お陰で、私は踏み潰されそうになりましたぁ」
黒竜は、アリアリーシャの声に反応して、首を丸めて、なんとか、アリアリーシャの前に顔を持っていく。
『おお、あの魔物は、そんなにでかかったか。 成長したのかもしれんな』
黒竜は呑気にアリアリーシャに答えるのだが、その呑気な反応にアリアリーシャはイラついたようだ。
「あのですねぇ。 あなたは、最強の竜なんです。 私はぁ、か弱い亜人なんですぅ。 あんな大きな魔物なんですからぁ、踏み潰されたらペシャンコじゃないですかぁ。 それに、あれだけ大きかったら、待機する場所だって、もっと距離をとる必要があったんですよ。 想定の待機場所に行ったら、あの魔物に上から覗き込まれてしまいましたぁ」
アリアリーシャは、黒竜に苦情を言うのだが、どうも、黒竜には、苦情を聞いている様子は無く、顔を更に低くして、アリアリーシャと同じ目線になるように、顎を地面に付けてしまった。
『だけど、お前は生きているじゃないか。 こうやって、わしに可愛い姿を見せてくれているじゃないか。 本当に、アリーシャは可愛いやつじゃな。 その可愛い耳にも傷一つ無いし、その赤くて可愛いつぶらな瞳もちゃんとあるじゃないか』
複雑な顔の表情を作れない黒竜なのだが、瞼の動きで僅かに優しい表情を無理して作る。
ただ、アリアリーシャの顔は、先程のような険しい表情ではなく、顔を赤くして恥ずかしそうな顔をしている。
黒竜に、可愛いを連発されたので、その可愛いに反応してしまったようだ。
いつもは、自分から可愛い仕草をするのだが、メンバー達は、そんなアリアリーシャをスルーするので、面と向かってアリアリーシャに、可愛いと言う事は無い。
黒竜からストレートに可愛いを連発されて、恥ずかしくなってしまったのだ。
それを黒竜は、不思議そうだと表現するように、顔を斜めにした。
『どうしたのだ。 顔が赤くなっているぞ。 それにさっきよりも、もっと可愛い顔になっているではないか。 ワシに、お前の可愛い顔をもっと見せてくれるのか。 可愛いお前の顔を見るのが、ワシの楽しみなんじゃから』
アリアリーシャは、更に顔を赤くする。
『おお〜っ。 そうじゃ、そうじゃ、どんどん可愛くなっていくじゃないか』
流石にアリアリーシャも恥ずかしくなり、耐えきれなくなってしまったのか、クレームを付けていた事も忘れてしまった様子で、逃げるようにその場を去っていき、アンジュリーンの後ろに隠れてしまう。
それを見ていたアンジュリーンが、アリアリーシャの顔を見てから、黒竜を見る。
「黒竜さん。 あまり、アリーシャを揶揄わないであげて。 半べそになっているわよ」
アンジュリーンに言われた言葉が分からないといった様子で、黒竜は、何度か瞬きをする。
『何でなのだ、ワシは、思った事を、そのまま伝えただけなのだが? いけなかったのか?』
アンジュリーンは、困ったような顔をする。
「そういった話はデリケートだから、場所を選ぶのよ」
黒竜は、また、瞬きを何回かする。
『そうなのか? 相手が嫌がりそうな言葉は控えると聞いたが、喜ぶような言葉は、はっきり伝えた方が良いと聞いたのだ。 それは、違っていたのか? ワシに生殖能力があって、アリーシャと同じ種族だったら、毎日でも求愛するのだがなぁ』
アリアリーシャは、アンジュリーンの背中に抱きついてきた。
黒竜の言葉が、ストレートすぎて恥ずかしいのだろう。
アリアリーシャは、自分がどんな態度を取ったら良いのか分からない様子だ。
ただ、アンジュリーンは、自分の背中に押しつけられているHカップの胸が気になっている様子で、視線が、背中の方に向いている。
アンジュリーンとすれば、自分がCカップなので、Hカップのアリアリーシャが少し羨ましく思っているのだ。
それが、自分の背中に感じているので、女同士でも少し恥ずかしく思ったようだ。
だが、黒竜の求愛のような言葉は、まだまだ、続くのだった。
『アリーシャよ。 何で、アンジュの後ろに隠れてしまうのだ。 その可愛いい顔を私に見せてはくれないのか?』
ここまでストレートに言われると、流石にアンジュリーンも顔を赤くする。
「こら〜っ! そんなにストレートに言ったら、アリーシャが泣いちゃうでしょ。 そういうデリケートな発言は、2人だけの時にするものなの! こんなに大勢の前でするものではないのよ!」
それを聞いて、目をパチクリする黒竜が、体を立たせると腕を組む。
『うーん。 どう言う事なのだ? 愛の言葉は、いつでも何処でも、言った方が女子は喜ぶと聞いたのだが〜』
黒竜は考え込んでしまったようだが、アンジュリーンは、何だか、思い当たる事がある様子を表情に浮かべる。
「ねえ。 その話は誰から聞いたの?」
アンジュリーンは、ジト目で黒竜を見上げる。
『ん? 決まっておろう、シュレに聞いたんだ。 ワシらは、お前達と違って子孫を残す必要が無いから、恋愛感情というものはないのでな、昔、シュレと話していた時に、そう教えてもらったのだ』
黒竜が、当たり前のように答えると、アンジュリーンは、やっぱりといった顔をするとため息を吐いた。