再会 18 〜魔法紋の書き直し〜
ジューネスティーンとシュレイノリアが、魔法紋に関する話をしているのを聞いて、セルレイン達は驚いたような表情をしていた。
「ねえ、魔法紋を消して描き直すって、どう言う事なの?」
ウィルザイアが、恐る恐る聞いてきた。
それは、セルレイン達全員の思いのようだった。
ジューネスティーンは、ウィルザイアの質問の意味がよく分からなかったようだが、セルレイン達のメンバー全員が、その答えを待っているように見ていた事もあり余計な事を言ってしまったと思ったように困ったような表情をした。
「あ、あのー、この剣に刻んだ魔法紋を消して、また、新たな魔法紋を刻むんです」
ジューネスティーンは自分の持っている剣を胸の前まで上げて答えた。
「ねえ、魔法紋を消すなんて聞いた事が無いのよ。何で、そんな事が出来るの!」
ウィルザイアは、少し強い口調で聞いてきた。
「しかも、その剣に魔法紋が刻まれているって、剣に刻んでいるなら金属に刻んでいるのでしょ。そんなの聞いた事がないわよ!」
魔法職であるウィルザイアとしたら、金属に刻んだ魔法紋を消す方法なんて聞いたことが無く常識的にあり得ないと思ったようだ。
金属に刻まれている魔法紋であれば消したとしても痕跡が残っている事から、その上に上書きしても別の場所に書いても最初の魔法紋の影響を受けて魔法紋の書き換えはできないと思われていた。
確かに表面的な部分を綺麗に消したとしても金属に刻んだ時に金属内部に加わった圧力によって金属材料の密度の変化については肉眼で確認することができない。
目に見えない金属内部に残った刻んだ時の表面からの圧力による密度の変化など、科学分析のような高度な技術が無い世界では、肉眼で確認できなかった事から一度魔法紋を刻んだら書き換えは不可能と考えられていた。
しかし、シュレイノリアは、そこまで含めて考えた上で魔法紋の書き換えを行なっていたが、肉眼で確認できない金属の密度の変化について考えが及ばなかったウィルザイアもセルレイン達も狐に摘まれたような表情をしていた。
その理由を知っているシュレイノリアは、まだ、人見知りが治っていないので説明できる状態ではなかった。
ジューネスティーンも魔法紋を刻んだ部分の内部が、どんな事になっているのかまでは理解できていなかったが、シュレイノリアは今まで何度か魔法紋の書き換えを行なっている事をジューネスティーンは知っており、そんな事を理解して刻み直しているとは思っていなかった。
むしろ、当たり前に魔法紋の書き換えはできるものと理解していたので知ろうともしてなかった。
「あのー、魔法紋の書き換えって出来ないんですか?」
ジューネスティーンは不思議そうに聞いたので、ウィルザイアは少し落ち着いたようだ。
これが、セルレインやストレイライザーだったり、メイリルダのような大人なら気持ちの切り替えはできなかっただろうが、11歳の子供に聞かれたことで、ウィルザイアは相手が子供だったことに気がついた。
それなら、自分としたら大人が子供にしてあげるような対応をしなければいけないと思った。
「ああ、魔法紋って、かなり、デリケートなのよ。ちょっとした傷でも発動できないのよ。それに、一度、魔法紋を描いたら、消して書き直しても発動しないわ」
その説明を聞いてもジューネスティーンは納得できないという表情をした。
メイリルダの後ろに隠れているシュレイノリアは書き換えを行なっていた事を思い出すと、そんな事は無いと思えていた。
「なあ、ウィルザイア。これが、その子の魔法の強さじゃないのか?」
セルレインが助け舟を出すように、ウィルザイアに話しかけると、それを聞いてメイリルダはエリスリーンに言われた事を思い出したようだ。
「魔法力の高さは、威力だけじゃないって事なの? かしら」
ウィルザイアは、今の2人の言葉を聞いて魔法に対する考え方が、ジューネスティーンとシュレイノリアは違うと思ったようだ。
そして、メイリルダの後ろに隠れているシュレイノリアを見ると近付いていき顔を覗き込もうとすると、メイリルダの脇を掴んでいるシュレイノリアの握る手が強くなった。
それを見ていたウィルザイアは、腰を曲げて少しでもシュレイノリアを見ようと左の方に顔を傾けた。
「あなた、すごいのね。魔法紋の書き換えなんて誰も出来なかったのに、あなたは見つけてしまったのね」
ウィルザイアは、優しく語りかけたのでシュレイノリアの握る力が少し緩んだ。
「これは、きっと、魔法概念を変えてしまう程の発見なのよ。本当に素晴らしい事だわ。ああ、私は魔法に革命を起こそうとしている人を目の当たりにするなんて、なんて幸せなんでしょう」
ウィルザイアが、シュレイノリアを褒め称え始め、そして、一歩前に出ると、メイリルダの後ろで隠れているシュレイノリアの手が震えていた。
それは、メイリルダにも伝わったらしく、シュレイノリアの手の震えが脇腹に伝わってくる事をこそばゆく思ったようだ。
「きっと、あなたの名前は、これから先、誰もが知る事になると思うわ」
そこまで言う頃には、もう手が届く範囲まで来ていたウィルザイアは、シュレイノリアの右手を優しく両手で包んだ。
シュレイノリアは、一瞬、手を引こうとしたが、逃げるのではなく、突然、手に触れられて驚いて引いたようだ。
そのまま、手を包み込まれていると、メイリルダの後ろに隠れていたシュレイノリアは手の先のウィルザイアを見た。
「こんにちは、シュレちゃん。私はウィルザイア。あなたと同じ魔法士よ」
笑顔で挨拶をしてきたウィルザイアに、シュレイノリアは警戒しながら視線を合わせた。




