再会 4 〜ジューネスティーンの剣〜
セルレイン達は、言われた方を見るのだが、その建具に乗せてある剣を見て微妙な表情をした。
それは、自分達が持っている剣と比べると遥かに細くて薄いと、その鞘の大きさを見て分かり、そして、反りが入った事が分かるように、刃側を上にして置いてあったので、その剣が斬るための剣であることが余計に気に入らなかった。
一般的に斬る剣というのは、突くタイプのレイビアとかとは異なり、衝撃を刀身で受ける事から衝撃にも耐えられる強度が必要になる。
目の前の建具に乗せられている剣は、明らかに自分たちの持つ剣より遥かに薄く細いだろうと鞘を見るだけで分かる事から、セルレイン達からしたら使い物にならないと思えたようだ。
「なあ、ジュネス君。あれは、斬る剣じゃないのか?」
セルレインは恐る恐る聞いたが、ジューネスティーンはギルド内の職員達も同じような反応をしていた事もあり、いつもの通りの反応だと思った様子で愛想笑いを浮かべると、後ろに隠れているシュレイノリアの掴んでいる手に力が入った。
その様子を気にしつつセルレイン達の様子を伺っていると、答えを求めるように見ていた事もあり、ジューネスティーンは仕方なさそうにした。
「ええ、斬る剣です。でも、先端の方は突く事も考えていますから、斬る事も突く事も可能ですよ」
斬る剣だと確定するとセルレインのメンバー達は、お互いに顔を見合わせ、セルレインも少し残念そうにジューネスティーンを見た。
「ジュネス君、斬る剣というのは、刀身に衝撃を受けるんだ。それだけ細い刀身だと直ぐに折れてしまわないか?」
セルレインは、言いにくそうにジューネスティーンに言うと後ろからストレイライザーが顔を出した。
「いや、子供の力なら、この位の方が扱いやすいんじゃないか」
その言葉を聞いて、周りもそんな事も有るのかもと思ったようだ。
「まあ、軽い剣なら腕の疲れ方も違うだろうから、私は良いと思うわよ」
「そ、そうよね。私も剣は、軽い方が扱いやすいと思うわよ。ねっ、ねえ、アジュレンだって、自分の体格に合う剣は少ないって言ってたじゃない」
アイカペオラが、ジューネスティーンの剣をフォローするように言うと、メイノーマも同意するように言い、アジュレンにも同じ意見だと言わせたいと言うように聞いた。
「あ、ああ」
アジュレンは、それ以上答える様子は無かった。
アジュレンとしたら、下手に色々喋って剣の批判になるかと思ったのか、俺に話を振るなと言うように顔をしかめた。
セルレイン達は、その工房にあるジューネスティーンの剣を見て実用性に欠けると思った事が表情に出ていた。
ジューネスティーンは、ギルドでも同じような反応を受けていたので、またなのかと思ていた様子で苦笑い気味にしていると、自分の後ろに隠れていたシュレイノリアの手に力が入った事に気づいて確認するように見た。
「違う! あの剣は、その辺の斬るための剣とは違うんだ!」
人見知りをしてジューネスティーンの後ろに隠れていたシュレイノリアが、大きな声でセルレイン達の言葉を否定し始めた。
しかし、顔は、ジューネスティーンから出そうとはしていない。
だが、その反応をストレイライザーは面白くなさそうに聞いていた。
「斬る剣というのは、斬った瞬間に刀身に衝撃を受けるから、細い剣だと折れてしまうんだ。だから、斬る為の剣というのは、こんな感じで太く厚く作られているんだよ」
そう言って自分の持っている剣を前に出したのだが、ジューネスティーンは、その剣を見て一般的な意見だろうというように愛想笑いをした。
「違う! 斬る剣というのは、斬れ味なんだ! 斬れ味さえ良ければ、剣の刃は獲物に綺麗に入って寸断してくれるんだ! それに、ジュネスの剣は、硬い刃と軟らかい芯によって出来ているから、衝撃を芯の軟らかい鉄がうけてくれる! 硬い刃は、獲物を切り裂き、受けた衝撃は、芯の軟鉄が引き受ける! だから、ジュネスの剣は簡単には折れないんだ!」
シュレイノリアは反論するのだが、顔は出さずジューネスティーンの後ろに隠れている。
その様子を見て、ストレイライザーは少し困ったような表情をした。
「まあ、確かに軟らかい金属なら折れる事は無いけど、そんなもので斬ったら剣が曲がってしまうだろう」
それは、ストレイライザー以外も同意見のようだった。
ただ、鋼鉄と軟鉄が重ね合わせてあると言われた事について、メンバー達には理解が及ばなかったようだ。
「違う! ジュネスの剣は、軟らかい芯に硬い刃を被せてあるんだ! だから、硬い刃は獲物にスーッと入るし、衝撃は芯の軟鉄が吸収するんだ! その辺で売っている剣と一緒にしてもらっては困るんだ!」
シュレイノリアは、自分の意見を全く譲る気配が無い。
日本刀のように軟鉄と硬鉄を重ね合わせて作る技術を知らない人々からは、刃幅も刃厚も薄く貧弱な剣としか思えない。
ストレイライザーは、シュレイノリアに何て言ってあげればいいのか困っていた。
レイビア程度の細い剣では、下手をしたら簡単に一度の斬撃で折れてしまうかもしれないと思い、そのことを子供のシュレイノリアにどうやって伝えようか伝える言葉が思い浮かばないというように困った表情をした。
周りも、ストレイライザーと同意見なのだが、シュレイノリアへの説明は誰も自分で行おうとはせずストレイライザーに任せていた。
「それなら、ジュネスの剣とその剣で、試し斬りしてみるといい。ここの中庭で試し斬りができるから、性能の違いを確認すれば認識も変わる」
シュレイノリアは、ストレイライザーに挑戦的な事を言うので、ジューネスティーンは冷や汗をかいていた。
一方、言われたストレイライザーはムッとした表情をしていた。
これが、普通の冒険者だったらケンカを売られたことになる。
メイノーマ位の年齢だったら、とんでもない事になっていただろうが、少女のシュレイノリアだった事もあり、ストレイライザーは我慢しているようだった。