セルレイン達の常識 18
セルレインは、自分なりにジューネスティーンとシュレイノリアへの対応は実際に実演してみせるような指導はせず、言葉で説明して2人に行わせる事を考えていた。
そして、武器を扱う事に関しては、転移して1年の2人が、セルレイン達の実力より上になるとは到底思えない事もあって、剣や槍、そして、弓などの武器の扱いについては、セルレイン達の方が上だと考えていた。
武器を扱う技術というのは技の知識だけではなく、それに伴った身体能力も必要となる。
剣を振り回す腕力もだが、そのためには、体を動かし体を捻るという動作もあるので、それを支えるための下半身と体全体の筋力が、ものを言う事になるので10代になったばかりの子供であり、身長も成長期である事から筋力が付けにくい時期でもある。
ならば、明らかに体力差が出る。
そんな事から、武器を扱う訓練ならセルレインに勝てるとは思えない。
そして、魔物との戦い方、戦略と戦術を立てる事については知識は有ったとしても、実戦経験が皆無となったらセルレイン達から伝えられる事は多い。
この辺りは、メンバーの誰もが理解できているので、もし、誰かが言葉に詰まってしまったら周りにフォローをしてもらう事で、立場的な問題は何とかなると思われる。
セルレインの言葉から、アイカペオラとストレイライザー、そして、アジュレンは理解できたようだが、メイノーマは微妙な表情をしていた。
「ねえ、私は、そんなに色々と教えられるか自信はないわ。言葉だけで説明するなんて無理っぽいよ」
メンバーの中では一番年下であり、今まで、どちらかというと周りから教えられたり、フォローされていたので教えた経験が無い。
「あんた、休みの時とか、近所の子供達と一緒になって遊んでいるじゃないの。その時のつもりで、今度の2人に教えてあげればいいじゃないの」
アイカペオラは、休暇の時に近所の子供達と遊んでいるメイノーマを思い出しながら言うと、周りも同意見だと言うようにメイノーマを見ていた。
「へー、俺は、てっきり、メイノーマが一番喜んでいると思ってたんだがな」
セルレインの言葉は、メンバーを代表した一言であったようだ。
それなのに何でなのかというような表情で、メンバー達はメイノーマを見ていた。
「そりゃ、あの時、助けた転移者の少年と少女と、一緒にパーティーを組めるのは嬉しいけど。……。だって、子供達と遊ぶのは、いつもの事だし、遊びのルールだって簡単な事だし、……。 それに遊ぶ時って、説明なんてしてからなんて。そんな風になんて、しないわよ!」
メイノーマの反論を聞いて、言われてみれば、そうだったなというような表情を周りはした。
「それも、そうか」
アジュレンが、納得したように呟いたが、それは周りの意見を代弁しているようだった。
ただ、ウィルザイアだけは、そんな余裕が無かったようだ。
「ねえ、それは、武器とかの指導だったら、そうかもしれないけど、……。私は、魔法職なのよ。私が教えられる事って、……。何か、有るのかしら」
ジューネスティーンも魔法が使えるが、シュレイノリアの魔法は、圧倒的にウィルザイアより高いだろうことはエリスリーンから聞いて分かっている。
炎の魔法を使ったとして、ウィルザイアが出せる炎とシュレイノリアの出せる炎となったら、マッチ棒の炎と山火事程の違いがあるだろうし、水を出すにしてもコップ1杯と大洪水ほどの違いがあるだろうと思える。
そうなると、ウィルザイアが2人に教えられることは、全く無いと考えてしまっていた。
そんな、ウィルザイアをセルレインは、何を言っているというような表情で見た。
「あのなあ、砂漠でとか、海面でとかで使わせなければならないような魔法って、そんなの、どこで使えるというんだ? 俺達が、狩りで使っている地下遺跡で、そんな魔法を放ったら、どうなるっていうんだ?」
セルレインの言葉を聞いて、周りは納得したようだ。
「そうだよな。地下遺跡の中で、そんな勢いの炎を出されたら、魔物も全滅だろうけど俺達も全滅するだろうな。その焼跡を見たら、きっと、俺達の焼け残った装備とか、骨格から当人の確認をするしかなさそうだな。アジュレンなんて、耳じゃなくて、身長からしか判断できなくなりそうだぞ」
諦めたような表情でストレイライザーが言うと、アジュレンは、その様子を想像したのかゾッとした表情で黙って自分の耳を両手で隠していたが、アジュレンの大きな耳は自分の手で隠せず手からはみ出ていた。
そして、女子2人は違う反応をしていた。
「そうよね。狭い空間では使えそうも無いわね」
「私は、料理を作る時にカマドに火を付けてくれるウィルザイアには助かっているけど、その転移者の少女に頼んだら、家ごと、……。いえ、街ごと消し炭にされそうよね」
ストレイライザーの言葉を聞いてメイノーマが悲観的な意見を言うのだが、アイカペオラから少し逸れた話が出た。
メンバーの中でも料理が得意なアイカペオラは、その時にどうなるかを考えてしまっていた。
「そうだろう。強すぎる魔法は、逆に使い道が限られるんだ。だから、ウィルザイアにも、2人を指導する必要があるはずなんだ」
セルレインは、諭すようにウィルザイアに言ったのだが、メンバー達には、いまいち理解できていないようだった。