セルレイン達の常識 16
パーティー内でも、ウィルザイアの行った亜人の尻尾を握るなんて事はありえないし、ましてやアジュレンの耳を触るとかするメンバーは誰もいない。
お互いに敬意を払っているので、そんな事を今まで行った事はない。
セルレインのメンバーは、転移者ではないので生まれた時から亜人と接していた事もあり、お互いに身体的な違いについて気にしないように育ってきた事から、人属も亜人同士であっても尻尾や耳のような部分を触るような事はない。
ただ、夫婦や親子であったり、親しい同性同士が戯れるように触る事はある。
特に、女子同士が戯れにスキンシップをとるようにして、触ったり軽く握ったりする事はあるが、転移者には、そんな世界の暗黙の了解のようなルールを知っているかは疑問があったと言う事もあり、突然、メイノーマの尻尾をウィルザイアが握ってメイノーマの反応を確認した。
ウィルザイアには、ジューネスティーンとシュレイノリアが、そんな事を知っているとは思えなかった。
今は、女性同士だったから、大きな問題にはならなかったが、男性が女性亜人の尻尾を触るとなればセクハラ行為となってしまい、後に周囲の女性達から、どんな制裁を受けるか分かったものではない。
メイノーマは、自分の尻尾を突然握られてしまった事に対して、まだ、気持ちが収まる様子も無くウィルザイアを睨んでいた。
「ごめんね。今度出会った時、少年か少女に握られるかもしれないから、その予行演習よ」
ウィルザイアは何事も無かったように言うのだが、ストレイライザーとアイカペオラは違う方向に思考が向かっていた。
「でも、メイノーマは、あの時の少年に握られたいと思ったんじゃないか?」
「そうよね。男の子の股間をしっかり確認してたのだから、メイノーマなら恋人に触られているような気になるのかもしれないわね」
ストレイライザーは、核心に触れるような事は言わなかったが、アイカペオラが、それを代弁してくれたので、それを聞いて、メイノーマは顔を真っ赤にしていた。
近所の子供達から、ガキ大将のように慕われているメイノーマは子供達と戯れる事が多いが、そんな中でも子供に尻尾を触られることなどあり得ない。
だが、転移者であってジェスティエンの次という事で、ギルドも警戒している中で、ほぼ、隔離状態だった子供が対亜人に対するルールやマナーを知っているとは思えない。
「おい、その辺にしておけ。それと、ウィルザイア、亜人の尻尾を握るのは無しだろう。ちゃんと、謝れ!」
セルレインは、リーダーとしてウィルザイアにメイノーマの尻尾を握った事に対して、はっきりとした謝罪をするように言ったがウィルザイアは不満そうな表情をした。
「誤ったじゃない」
その一言を聞いたセルレインは、鋭い目でウィルザイアを見た。
「正式な謝罪をしろと言ったんだ」
ウィルザイアは、セルレインの表情の鋭さに驚いた。
パーティーを組んでから初めてみる、その表情からセルレインの真剣さを感じたようだ。
すると、ウィルザイアはセルレインの気迫に負けた。
立ち上がってメイノーマに向くと、一度、深く頭を下げると、ゆっくりと戻した。
「ごめんなさい、メイノーマ。ちょっと、やりすぎてしまったわ。許してください」
そう言うと、また、深々と頭を下げた。
それには、流石にメイノーマも驚いたようだ。
「あ、ううん。もう、構わないわ。でも、恥ずかしいから、もう、これっきりにしてね」
メイノーマとしたら、自分より年上の姉御肌のウィルザイアに、そこまで丁寧な謝罪をされて逆に焦っているようだった。
「ありがとう」
その様子を見て、セルレインの表情も戻ってきた。
セルレインとしたら、自分達のパーテイーに居る2人の亜人に対して敬意を払っている。
メイノーマにしてもアジュレンにしても、人属も亜人も対等であり興味本位で亜人に対する差別的な行動も言動も行わせたくはない。
自分達には持ってない尻尾に対しては、興味本位やイタズラをしてはいけないと思っていた。
それが、人と亜人の混成パーティーにおいて絶対に守られなければならない事であり、自分もメンバーにも守らせなければならない絶対的なルールなのだ。
もし、それを破ってしまったら、その僅かな綻びから組織の崩壊を招く可能性があることを知っているからの行動なのだ。
大きな犯罪を抑えたいのであれば、小さな犯罪を抑える事から始まる。
それを知っているから、パーティー内でも貴重な魔法職であるウィルザイアであっても、なあなあで終わらせるのではなく正式に謝罪を入れさせた。
この事によって、アジュレンも次は自分の耳も尻尾も、同じように触られるようなことが有れば、セルレインが黙っていないと分かるので安心してメンバー達と行動できる事になる。
それを分かっているから、セルレインは亜人に対するタブーを行ったウィウザイアに正式な謝罪をさせた。
メンバーの中に一瞬緊張が走ったが、ウィルザイアの謝罪で場の空気は和らいだ。
そして、テーブルには食事が運ばれてきたので、後の話は食事を食べた後に行うとなった。




