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セルレイン達の常識 11


 ウィルザイアには、アイスランスの魔法を放つ事はできても、板厚1センチの的を貫通さるなんて事は出来ない。


 他の魔法士に強い魔力を持つものがいたとして、的を割る事は出来たとしても、貫通させる程の速度で打ち出すなんて事は聞いた事がない。


 そんなシュレイノリアの能力を聞くと、ウィルザイアは自分と圧倒的な差を感じ取ってしまい、その差が象と蟻ほどの違いが有るように思えたのだ。


 そして、ウィルザイアもセルレインも、最初に聞いたジューネスティーンの魔法について、その凄さを聞いていたはずなのに、今では、その話を忘れてしまい、シュレイノリアの魔法だけが、大きく記憶に焼き付けられてしまっていた。


 ジューネスティーンの魔法も、凄かったのだが、シュレイノリアの魔法が、とんでもないという印象を与えてしまった事が原因で、ジューネスティーンの凄かった魔法の話を上書きしてしいた。


「あ、あの。わ、私達は、……。その、……。いったい、……。何を、教えれば、良いの、で、しょう、か」


 ウィルザイアは、途切れ途切れにエリスリーンに聞いた。


「そうですよ。それだけの威力を持っているのなら、今直ぐ、帝国に行って、東の森の魔物と対峙してもらった方がいいでしょ。あそこの魔物を倒す、初めての人類に名前を載せればいいんじゃないですか?」


 セルレインも、それほどの破壊力を持っているなら、大陸で、まだ、一度も倒された事がない魔物の討伐を行ってもらった方が良いと思ったようだ。


「そうね。それも、ギルドとして考えたのだけれど、……」


 エリスリーンの考えの中にも、その事は有ったようだが、エリスリーンというよりギルドとしてジューネスティーンとシュレイノリアには、早々に東の森の魔物と対戦させるつもりは無い。


 ギルドとして保護した転移者を犯罪に手を染めさせるような方向に進ませるつもりは無い。


 特に、シュレイノリアのような魔法力を持つ転移者なら、尚更、おかしな方向に進ませるような事は行わない。


「私も、東の森の魔物を世界で初めて退治するのは、この2人だとは思うのだけど、早すぎる実績は2人のためにはならないわ。11歳と9歳の子供だから戦うための能力よりも、戦い以外の知識や倫理、人としての在り方を学んでほしいのよ」


 エリスリーンには、何か思ところがあるような表情をした。


 その表情が何を意味するのかは、セルレイン達には分かるはずもないが、ギルドマスターとしての考えが有る事は理解できた。


「冒険者の中には能力は有るけど、村や町で問題を起こす人も居るわ。だから、ジュネスとシュレには、そんな事になってもらいたくはないの。それよりも、周りから慕われる存在になって欲しいのよ。だから、強さを追求するのも大事だけど、それ以上に周りからも慕われ、そして憧れられる存在になってほしいの」


 セルレインは、エリスリーンの言葉の意味が分かったのか真剣な表情をした。


「私達に、冒険者としての心構えを教えるって事ですか」


 エリスリーンは、ホッとしたような表情をした。


「そうなの、あなた達のパーティーの経歴も実績も見させてもらったわ。だから、お願いしたいと思ったのよ」


 セルレインは、エリスリーンの言葉が嬉しいのだろうが、何だか、こそばゆく感じたのか少し顔が緩んでいた。


「なるほど、そういう事なら、うちのパーティーで引き受けま」


 そのセルレインの言葉を聞いて、隣にいたウィルザイアが、慌ててセルレインの口を押さえた。


「お待ち下さい! ギルマス」


 そう言うと、ウィルザイアは覆い被さるようにセルレインの顔の前に自分の顔を持っていき、セルレインとエリスリーンの間に入ったようになった。


 その勢いに、セルレインは、背もたれに体重を預けてのけぞっていた。


「ねえ、ちょっと、何を言っているのよ! そんな子供を引き受けたって、能力も力の差が有り過ぎるのよ。直ぐに、私達は、その子供達に馬鹿にされるようになってしまうわ」


 ウィルザイアの言い分はもっともでもある。


 ウィルザイアは、魔法に関する能力が圧倒的にシュレイノリアの方が上だと分かっているのに、そんな子供を預けられて指導する自信が無いのだ。


 むしろ、自分が教えを請う必要がある相手を指導するような面倒を引き込みたいとは思わなかったのだ。


「いや、でも、お前だって、報酬額も前金も魅力があると思っただろう。前金に目が眩んだじゃないか。今更、やめますなんて言えないだろう」


「で、でも、そんなに能力の違いがあったら、……。自信がないわよ!」


 ウィルザイアの不安は、もっともだとセルレインも思ったようだ。


「い、いや、……。方法は、有る!」


 セルレインは言い切ったが、その言い方が言葉の通りのようには思えなかった。


 セルレインは、ジューネスティーンとシュレイノリアを引き受けるつもりでいるようだとわかったので、ウィルザイアはまずいと思ったようだ。


「何、馬鹿なことを言っているのよ! 私達の指導で失敗したとしたら、ギルドから目を付けられてしまうわ! そんな事になったら、私達は冒険者として終わりよ!」


 ウィルザイアの意見は、もっともな意見だが、そんな心配そうなウィルザイアを、セルレインは少しいやらしそうな笑みを浮かべた。


「俺に考えがある」


 ウィルザイアは、セルレインが自信が有りそうな事と、テーブルの上の金貨を見つつ自分の席に座り直した。


 その一部始終を見ていたエリスリーンは声をかけた。


「相談は、まとまりましたか?」


「ええ、問題ありません。この依頼は、うちのパーティーで引き受けさせてもらいます」


 それを聞いて、エリスリーンはセルレインに笑顔を向けた。


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