セルレイン達の常識 10
エリスリーンは、2人の反応を見ていた。
ウィルザイアは、魔法士でもあることから、シュレイノリアの状況を理解しているようだが、剣士であるセルレインは、そんなものなのかというような表情をしていた。
「しかし、すごいな。その魔法は、的の外側の円に沿って、何発も打ち出したというなら、的に氷が突き刺さっていたって事になるのか」
セルレインは頭の中で状況をイメージしているようだったのだが、エリスリーンは話がうまく伝わっていない事に気がついたようだ。
「すまないな。どうも私の説明が悪かったようね。シュレの魔法なのだけど、その小さなアイスランスを数十個、的の手前に作ると、高速で打ち出したと分かったのは、後ろの壁にアイスランスが刺さっていたからなのよ」
それを聞いて流石にセルレインも、その異様さに気がついたようだ。
「ギルマス。それって、アイスランスが、的を貫通して、後ろの壁に刺さったってことですか?」
エリスリーンは、やっと気がついたようだと思った様子で大きく息を吐いた。
「そうなの、シュレのアイスランスは、小指程度の小ささで数十個作り、一瞬で消えると的を貫通して、その後ろの壁に丸い円を描くように刺さったというわ。それに、……」
セルレインは、今の話だけでもシュレイノリアのアイスランスの威力が分かったようだが、それだけで終わる様子が無かった事から、その後の話が何なのか聞きたいと思ったようだ。
「シュレのアイスランスなんだけど、小さな数十個が的の外側の円に沿って打ち出したことで的を貫通させたのだけど、どうも数十個のアイスランスは打ち出すと直ぐに、また、発動させて同じように打ち出したみたいなのよ」
その説明にセルレインは、何を言っているのか理解できなかったようだ。
「それも、瞬間的に打ち出した後、直ぐに同じ場所から、少しずらして打ち出させたと言ったらしいわ」
セルレインは、徐々に状況が理解できてきたのか、先ほどの何の事だといった表情から真剣な表情に変わってきた。
「あのー、ギルマス。的をアイスランスが貫通したと言いましたけど、何で打ち出した後に、また、直ぐに同じようにアイスランスを発現させて打ち出したって分かったんですか?」
エリスリーンは、やれやれといった表情をした。
「それなんだけど、的の外周に沿って穴が綺麗に空いたから、その内側が地面に落ちた事で職員達も気がついたようなのよ。それで、その理由を聞いたらシュレが答えたそうよ」
セルレインは、今度は呆けた表情をした。
人は、自分の理解できる範囲を超えてしまった場合、一瞬、何があったのか理解できない場合がある。
セルレインは、そんな状況になっていた。
「あ、あのー、ギルマス。今の話だと、後から話を聞いて気がついたみたいだったのですけど、……」
呆けているセルレインと変わって、ウィルザイアが、エリスリーンに聞いた。
「それね、的の内側が丸くなって落ちた、その様子を見ていた職員は、的の手前に数十個のアイスランスが出来たのは見たらしいのだけど、それは、一つ一つのアイスランスが離れて、丸い円状に発現したのを確認してたの。それが的を貫通したとしても、円に沿って穴が開くだけのはずなのに、その的の内側が丸くなって地面に落ちたのよ」
ウィルザイアの質問に対するエリスリーンの話を聞いて、セルレインも状況が見えてきたようだ。
「ギルドの職員は、その的が落ちた理由が分からなかったから、それをシュレに問いただしたら、最初に作った数十個のアイスランスを打つと、直ぐに同じ数を少しズラして発動させて打ち出した事を説明してくれたようよ」
数十個の小指ほどのアイスランスが隙間を開けて打ち出し、的の外側の円に沿って貫通するほどの速さで打ち出したにしても、隙間が開くように配置して打ち出したのなら円に沿って穴が開くだけになる。
それが、何で的の内側が落ちたのか疑問が生まれ確認すると、人が確認できないほどの瞬間に同じものを数回出して打ち出し貫通させていたというのだ。
そんな事が可能なのかと2人は思ったようだが、エリスリーンが言うのだから本当のことなのだろうと思った様子で2人はお互いの顔を見た。
どちらも、信じられないという表情をしてから2人はエリスリーンを見た。
「そんな事、魔法で出来るのですか?」
ウィルザイアは、信じられないというようにエリスリーンに聞いた。
「私も、報告を受けた時は同じような思いだったわ。でも、それは事実よ。私も後から、その的を確認したわ」
シュレイノリアの能力は、通常なら、単発でしか発動できない魔法が、一度に複数の魔法を同時発動させてから、人の目が確認できない間隔でもう一度同じ事を行ったのだ。
それを聞いていたウィルザイアは、自分は魔法士ではあるが、アイスランスなど1個しか作る事が出来ないどころか、人の目にも止まらぬ速さで射出させ、直ぐに新たにアイスランスを発現させるなんてことを聞いた事がなく有り得ないと思い青い顔をしていた。