魔物のコア
アンジュリーンは、肩を軽く回しながら、一度深呼吸をして、アリアリーシャの方に歩いていく。
パワードスーツの中で、中の人とパワードスーツを固定させるため、中の人を固定するためパワードスーツ内部のインナーが空気で膨らみ、体との隙間がなくなる仕組みになっている。
そのため、中と外での開放感が違うので、アンジュリーンは、体の各部の開放感を味わうように体を動かしていた。
「姉さん。 大変だったわね」
アンジュリーンは、10メートル級の魔物に追われた事を、アリアリーシャに労いの言葉をかけたつもりだったのだが、アリアリーシャは、そう言われて、ムッとした表情をする。
「アンジュ! 私に姉さん呼ばわりはないでしょ」
ウサギの亜人のアリアリーシャは、身長こそ、ローティーンと言っても通りそうな130センチなのだが、それ以外は、見た目の通り、20代後半の顔つきと体型をしているので、身長以外は、見た目通りの年齢なのだ。
20代後半のアリアリーシャは、見た目だけは若いが、実年齢は、40代半ばのアンジュリーンに、姉さん呼ばわりされるのは、気に入らないのだ。
「あっ、ごめん。 つい、言っちゃった。 ごめん、アリーシャ」
「もう。 ……。 まあ、いいです」
少し膨れてはいるが、アリアリーシャも、本気で怒っているわけではない。
「ねえ、それより、魔物だけど、コアだけしか出なかったって本当なの。 あれだけ大きかったのに、それだけだったなんて、何だか、拍子抜けよね。 てっきり、持てない程の金塊でも出るかと思ったのに、ちょっと、残念ね」
アンジュリーンは、信じられないといった様子で話しかけた。
「でも、魔物のコアは大きかったわよ」
アリアリーシャは、そう言うと、左手をかざして、収納魔法から、先程、拾った魔物のコアを地面に出す。
30センチ×50センチの六角推のような魔物のコアが地面に浮き上がってきた。
アンジュリーンも、魔物のコアの話は、通信で聞いていたのだが、実際にこの大きさの魔物のコアを見るのは初めてなので、思っていた大きさより大きく感じたようだ。
「コアは、大きいのね。 ちょっと持てそうもなさそうだわ」
「確かにデカイね」
カミュルイアンも、自分のパワードスーツを収納魔法の中に収納すると、2人に合流して感想を述べた。
カミュルイアンも、アンジュリーンとアリアリーシャが、身につけている前身水着のような、体にフィットするインナースーツを身につけている。
胸には、2人の女子と同じように、短めの前開きのベストを付けているが、腰には、短めのホットパンツを履いている。
それは、後から近寄ってきたレィオーンパードも同様である。
「にいちゃん。 このコア、ギルドで買い取ってくれるのかなぁ。 東の森の魔物のコアだってこんなに大きくなかったし、それに持てない程の大きさだと、ギルドだって困るんじゃないのなぁ」
レィオーンパードもコアの大きさが気になったようだ。
ジューネスティーンも、パワードスーツから出て、パワードスーツを収納魔法の中にしまうところだった。
その姿も、レィオーンパードとカミュルイアンと、同じインナースーツにベストとホットパンツといった姿だった。
パワードスーツが収納魔法の中に入ると、レィオーンパードに向いた。
「ああ、多分、引き取ってくれると思うけど、この魔物の使い道は限られそうだよな。 最初は、研究用として引き取ってもらえるだろうけど、使い道の無い魔物となったら、買取価格は低くなるかもしれないな。 それに、向こうの大陸には、10メートル級の魔物なんて居なかったから、ギルドの依頼が無ければ可能な限り避けて通りたいね」
ジューネスティーンは、あの大きさの魔物の使い道について考えていたのだ。
ギルドは、冒険者から魔物のコアを買い取ると、そのコアを利用した召喚術を使って魔物を使役する。
使役されている魔物は、ギルドが、貸し出す事で、農家の人手不足の解消やら、倉庫の運搬用等、様々な労働力として使われている。
「ああ、そういえば、姉さんを追いかけている時に、横から見てて思ったけど、あの魔物は、尻尾と口は、大きかったけど、腕も手も小さかったから、ギルドが使役する召喚獣としての価値は低いのかもね」
レィオーンパードも、10メートル級の召喚された魔物の使い道について疑問に思ったようだ。
「ギルドは、魔物のコアを使った召喚獣による労働力を提供しているから、労働力としての使い道がない魔物だと、買取は渋るだろうね。 とりあえず、魔物の使い道が見つかれば、買い取ってもらえるようになるだろうね」
レィオーンパードは、少しがっかりしたような顔をしている。
10メートル級の魔物を倒しても、魔物のコアに価値が無いなら、骨折り損のくたびれもうけということになるのだ。
だったら、10メートル級の魔物との遭遇は、避けることになる。
そのレィオーンパードの表情を見て、ジューネスティーンは声をかける。
「なあ、レオン。 これは、ギルドも初めての魔物になるのだから、利用価値は、ギルドに渡してから決まるんだ。 ひょっとしたら、レオンが思い付かない事をギルドが知っていて、この魔物のコアに価値を見出せば、価格は高くなるはずなんだ。 何事も価値は、使う側が価値ありと判断するかどうかにあるんだ」
レィオーンパードの表情が少し良くなった。
価値が無いのかと思っていたのだが、場合によっては価値があると言われて、少し、希望が見えたようだ。
そんなレィオーンパードを見て、ジューネスティーンは話を続けた。
「ダメだと思って諦める前に、ちゃんと確認してみよう。 ガッカリするか、喜ぶかは、その魔物のコアを、ギルドに渡してからにしような」
「そうだね。 そうするよ」
ジューネスティーンの言葉に、レィオーンパードも納得した様子を見せた。