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剣 〜ギルド支部 4〜


 エリスリーンは、自身の執務室の席に座り思案を巡らせていた。


 それは、ジューネスティーンとシュレイノリアの今後についてだった。


 2人に同じ未来を持たせてあげようと考えていたが、シュレイノリアの魔法力の大きさと、ジューネスティーンの作った新たな曲剣についての評価がかけ離れていた事により、エリスリーンには2人が同じ未来を歩むビジョンが見えてなかった。


 もし、ジューネスティーンの作った曲剣について正しい評価が出来る人が周囲に居たら話は変わっていたかもしれない。


 しかし、ジューネスティーンの作った剣は、曲剣なのに薄く細い剣にしてあった事で、直ぐに折れてしまうだろうと思われてしまい、ギルド支部内での評価は最低だった。


 ジューネスティーンは、刃表面に硬鉄を使用して、芯鉄に軟鉄を使用している。


 軟鉄ならば折れる事は無いが強い力が加わると曲がってしまうが、硬鉄は強い力が加わったら折れてしまう。


 しかし、ジューネスティーンの剣は、軟鉄の表面に刃側からコの字型に硬鉄を薄く覆って作ってあるので、芯鉄がしなやかな軟鉄となっている事により衝撃を緩和させている。


 そして、どんなに硬い鉄であろうと、細く長くなればしなる事を専門知識の無い職員達は見逃していた。


(あの2人をギルドの高等学校に入れるにしても、このままでは、ジュネスは特待生を得ることはできず、入学の為に資金を集める必要があるわ。でも、この周辺で新人が入れる狩場は無い。ジェスティエンの前に現れた転移者達も村を離れて周辺国の魔物を狩って稼いでいるわ。でも、まだ、入学できるほどの金額は貯まっていないと、担当のギルド支部から報告があったから、彼らの入学はもう少し先の話になるわね)


 エリスリーンは、思案を巡らせるように執務室の壁を眺めていた。


(ジュネスの剣については、ジュエルイアンの意見を聞いた方が良いのかしら? でも、それだけで、特待生を得られるとは言い難いのか。……。もっと、何か? いえ、いっその事、ジュエルイアンの商人としての目で見てもらった方が、私が見つけられていない何かを得られるかもしれない)


 エリスリーンは、何かを閃いたように自身の机に置いてある呼び鈴を手に取って鳴らした。


 直ぐに隣の部屋のドアが開き、職員が1人執務室に入ってきた。


「お呼びでしょうか?」


 入ってきた職員は、執務机に腰を下ろしているエリスリーンに声を掛けた。


「王都のジュエルイアン商会に連絡を取って欲しいの。内容は、見て欲しい剣が有るので、可能な限り早めに顔を出して欲しい。それで連絡を取って下さい」


「かしこまりました」


 職員は、一礼すると元のドアから出て行った。


(ひょっとすると、私達には分からない何かを見つけてくれるかもしれない)


 エリスリーンは、期待を込めるように両手を握っていた。


(私達には、ジュネスの剣について高い評価を出来ないけど、商人であるジュエルイアンの目なら、私達には理解できない何かを見つけてくれるかもしれない。そうなれば、ギルドの高等学校の特待生にさせる為の何かを見つけてくれるかもしれないわ。ギルドの本部に入れるようにするより、冒険者としてギルドの高等学校に入れる方が、まだ、可能性は高いわ。シュレは、今のままでも特待生は取れるだろうが、ジュネスは、あの剣程度で高等学校への特待生としてくれないだろうけど、ジュエルイアンが口添えしてくれたら)


 握った手を見つめて、ため息を吐いた。


(いえ、可能な限り早く高等学校に入れる為には、ジュエルイアンに確認してもらった方が良いはず。とにかく、あの剣についてだけでも確認してもらった方が良いはずよ)


 エリスリーンは、待ち遠しいように向かいの天井と壁の縁を見ていると、先程のギルド職員が部屋に入ってきた。


「失礼します。今、王都のギルド支部と魔道具通信で、依頼を伝えておきましたけど、……」


 職員は、言いにくそうに言葉を途中で止めた。


「依頼が連絡できたのなら、良かったじゃない。何か、問題が有ったの?」


「実は、王都の職員の話ですと、ジュエルイアンは、今、王都には居ないはずだと言っておりました」


「?」


「ご存知のように、大ツ・バール帝国にギルド支部設立の話がありますけど、その開発の為に帝国に行ってしまっているようです」


 エリスリーンは、言われて思い出したというような表情をした。


「そう言えば、ジュエルイアンは、ギルドだけじゃなく、帝国のイスカミューレン商会ともパイプを持っていたわね。……。そうね。ギルド支部の建設も帝国とギルドの間を取り持つには丁度良かったのよね」


「はい、ジュエルイアンと筆頭秘書のヒュェルリーンが帝国の帝都で新たな区画の開発の指揮を取っているはずだと王都の職員は言っておりました」


 エリスリーンは、その報告を聞いて、ジューネスティーンの利点を見つけてくれそうなあてが無くなったと思ったようだ。


(ジュエルイアン以外に、ジュネスの良さを見つけてくれそうな人? いや、そうじゃない)


 終わったと思ったようだったが、直ぐに思い直したようだ。


(ジュネス達を直ぐに入学させる必要は無い。ギルドの高等学校は、最低年齢は決められているが、入学するための上限年齢は定められてない。来年がダメなら、再来年、いえ、それ以降でも構わないわ)


 納得したような表情をした。


「わかりました。ジュエルイアンには、確実に伝わるようにしておいてください。帝都の仕事が終わり次第でも構いませんので、必ず、こちらの支部に顔を出して欲しいと伝えてください」


「かしこまりました」


 職員は、エリスリーンの指示を聞くと執務室を出て行った。


(そうよ。今直ぐジュネスをギルドの高等学校に入学させる必要は無いのよ。あそこは、冒険者の育成の為の施設ではあるけど、実際に入ってくる冒険者の年齢は同じじゃないわ。むしろ、年齢に達したから入る方が稀な例で、冒険者登録した後に入学金を稼いでから入学する人の方が多いのだから、20歳を過ぎてから入学でも問題無いわ。なら、確実に特待生を取れるようにしてから入学させた方がいい)


 エリスリーンは、思案を巡らせていた。


(だったら、ジュネスとシュレを、何処かのパーティーに入れて基礎を学ばせておけばいいのよ。今は、自身の体力に合わせた薄くて細い剣を使って、冒険者として活動させておいても、成長したら一般的な剣も振ることができるようになるはずよ。それに、転移者の2人にはギルドとして予算も付いているわ。その予算を利用して、何処かのパーティーに依頼を出す事も可能になる。何年か後にギルドの高等学校に入学させれば良いのよ)


 そして、納得したような表情をすると、窓の外を眺めた。


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