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剣 〜ギルド支部 3〜


 メイリルダは、2階のエリスリーンの執務室に行くと、エリスリーンは直ぐに確認したいというように入口まで歩いてきた。


「ありがとう」


 そう言って、メイリルダから斬られた試し斬りの棒を受け取り切断面を確認し、メイリルダが中庭でしたように、その断面を繋ぎ合わせると綺麗に合う事を確認した。


 その2本が1本の試し斬りの棒だと分かると断面を確認した。


「剣で斬られた部分って、こんなに綺麗に斬れるものなのかしら?」


 エリスリーンが、ボソリと言うとメイリルダは思い出したような表情をした。


「そう言えば、さっき、先輩にも同じ事を言われました。私は剣について詳しくないので、そんなものなのかと思いました。でも、その断面って何だかニンジンを切った時みたいですね」


「ニンジンねぇ」


 エリスリーンは、メイリルダの感想が気になったようだ。


(確かに、この斬り口を見ると、包丁で切った野菜のように綺麗に斬れているわ。一般的な剣だと、ここまで綺麗に斬れるのではなく、剣がめり込むように入るから綺麗に繋がる事はないわ。……。でも、この斬り口は、端の方が棘になって少し残っているけど、ほぼ、ギリギリまで綺麗に斬れている)


 真剣な様子でエリスリーンは、二つの斬り口を眺めていたので、その間合いがメイリルダには苦痛に思えたようだ。


「あのー、私、何か、悪い事を言ってしまったのでしょうか?」


 恐る恐る聞かれて、エリスリーンは、思い出したようにメイリルダを見た。


「あ、いえ、そうじゃないのよ。私も、そのニンジンの切り口って言われてみると、私も同じ印象を持ったわ。こんなに綺麗に斬れた部分を見るなんて無かったから、ちょっと、見惚れてしまったのよ」


 少し誤魔化すような様子で答えた。


「でも、ニンジンの切れ口というのは、面白い表現ね」


 すると、エリスリーンは笑顔をメイリルダに向けた。


「今の感想は、とても参考になったわ。ありがとう。もう、戻って良いわよ」


 エリスリーンの言葉を聞くと、メイリルダは何で参考になったのか良く分からないという表情をしたが、戻って良いと言われたので、それ以上聞く事はなくお辞儀をした。


「それでは、失礼致します」


 そう言って、エリスリーンの執務室を出て行った。


 エリスリーンは、見送ると手に持った試し斬りの棒の断面を見つつ、自身の机に行き椅子にゆっくりと腰を下ろす際も視線は断面から離さずにいた。


(この斬り口は、冒険者達の使うどんな剣でも作る事はできない。でも、これでは鍛冶屋になれる冒険者として見られるか)


 試し斬りの断面を見ていたエリスリーンはため息を吐き天井を見た。


(この程度の事で、本部がジュネスの有用性を認めてくれるかしら。このまま、報告を上げたら、シュレは本部へジュネスは冒険者として引き離されてしまうでしょうね。……。2人の仲の良さを考えたら、これから先も一緒に行動させたいのだけど)


 少し考えていると、何かに閃いたようだ。


(そうよ。あの男、ジュエルイアンなら、……。商人のジュエルイアンなら、この斬れ味の良い剣の有用性を示してくれるかもしれないわ。商人の目から有用と判断されたら、本部も見過ごさないかも……)


 晴れた表情になったエリスリーンだが、直ぐに考えるように顎を右手で摘んだ。


(少し希望的な話になりそうね。本部預かりにさせるには、まだ、足りないかもしれないか。シュレの魔法に関する理解は驚異的だから、本部は魔法の研究の為にシュレは申請したら直ぐに許可が出るでしょうね。でも)


 そして、曇った表情をした。


(ギルド本部は、世界と隔絶されているから、一度、本部に入ったら、会う事もできなくなって、ましてや、冒険者となら連絡手段も無くなってしまうわ。シュレを本部に送ったら、ジュネスとは一生別れて暮らす事になる。それが、2人の幸せなのかしら?)


 エリスリーンは、執務机から後ろを向いて窓の外を見て、そこに広がる青い空を眺めた。


(1日違いで現れる転移者なんて、ギルド創設以来、現れたという記録は無いわ。それに、2人はお互いに話をしながら進めているとメイリルダも言っていた。剣を作る前も話をしていたと言うし、他の職員達も2人が何かを検討しあう姿を目撃している。……。あの2人を引き離したら、ジュネスにしても、こんなに早く剣を完成できなかったのかもしれない。……。それなら、2人は一緒に活動させる方向に進めなければいけないわ)


 青空を見つめていたエリスリーンは、納得するような表情をした。


(2人を一緒に活動できるように配慮するなら冒険者としてが妥当になるのか。シュレの魔法については、私の方で本部への報告を操作して、本部ではなく冒険者に進められるように配慮するにしても、そのまま、冒険者にするには年齢的と言うより体力的な問題が有るわ。それに、この周辺の目ぼしい狩場に新人の入り込めそうな場所は無いのだから、何処かのパーティーに加えてもらえるように配慮する必要がある)


 また、難しい表情をし始め考えをまとめるように、こめかみを抑えると、また、何かを思いついたようだ。


(そうよ、王都にあるギルドの高等学校なら、……。いえ、だめね。シュレの魔法力は特待生が取れるでしょうけど、ジュネスは難しそうだわ。前回のジェスティエンのように火薬を開発のような誰が見ても優秀だと思えないなら、特待生は取れないでしょうね)


 エリスリーンは、考えがまとまらない様子で椅子の背もたれを倒して天井を見上げた。


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