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剣 〜ギルド支部 2〜


 エリスリーンは、1階の廊下を足早に歩き受付のドアを開けると、受付嬢達を確認するように順番に見ると、受付で事務処理をしているメイリルダを見つけた。


「メイリルダ。悪いけど、ジュネスが試し斬りをして斬った棒を持ってきてちょうだい」


 メイリルダは、後ろからエリスリーンに呼ばれて振り返ったが、内容を聞いて、そんな事かと思ったようだ。


「わかりました。後で、お届けします」


 そう言って、今の仕事を片付けようとすると、周囲の受付嬢達はメイリルダを信じられないという顔で見た。


 慌てた様子で、仲の良い先輩の受付嬢が、エリスリーンにお辞儀をするとメイリルダの後ろに駆け寄り肩を掴んで自身の方に向かせた。


「あんた! 後でとは何よ! 今直ぐ、取って来なさい!」


 メイリルダは、先輩の危機迫るような血相に驚いた。


 慌てて、うんうんと頷くと立ち上がって、ギルド支部の受付から外に向かって走って行った。


 メイリルダの先輩は、メイリルダが外に出ていくのを確認すると、エリスリーンに向かって一礼をした。


「誠に、申し訳ございません。直ぐにお持ちいたしますので、執務室の方でお待ちください」


「そう、よろしくね」


 そう言ってエリスリーンは、受付のドアを閉めて2階の執務室へ戻って行った。


 受付では、エリスリーンの足音が聞こえなくなると受付嬢達が一斉にため息を吐いた。


 先輩の受付嬢は、周囲の受付嬢達の様子を確認するとホッとした表情をした。


(まったくもう! まだ、メイリルダには、組織の上下関係というものが理解できてないみたいね。ギルマスが、人を使わず直接指示を出したのだから急を要する事だと直ぐに気がついて欲しいわ。……。でも、ギルマスは、何で試し斬りをした棒なのかしら?)


 ため息を吐く中、メイリルダの先輩は、エリスリーンが何で試し斬りの棒が必要なのか不思議に思ったようにエリスリーンの去ったドアを見たが、それ以上の詮索をするつもりは無かった様子で自身の席に着いた。




 メイリルダは、ギルド支部の建物を出ると歩き出した。


「何で、今直ぐなのよ。試し斬りした後の棒なんてゴミと一緒でしょ。そんなに大事でも無いはずなのに、何で今直ぐ持っていく必要が有るの!」


 メイリルダは、先輩に言われて慌てて受付を飛び出したが、急いで取りに行く必要性について理解できていなかった事からボヤいていた。


 自身の担当している冒険者へ出した依頼内容についての処理よりも優先される意味が理解できず、不満そうな表情で中庭に向かった。




 中庭に行くと、そこには誰も居なかった。


 メイリルダは、奥の壁の隅にある柱と屋根だけの物置に向かった。


(昨日、試し斬りは上手くいったと、シュレが言ってたから、まだ、残っているはずよね。でも、ジュネスは、あまり、嬉しそうな表情では無かったわ。……。変ね)


 メイリルダは、試し斬りをしたであろうジューネスティーンではなく、シュレイノリアが良い結果だったと言った事が気になったが、物置の前に着くと詮索は止めて斬られた試し斬りの棒を探した。


 物置には、試し斬りに使う棒やら、弓矢と魔法の的が整然と置いてあり、一番端には使い終わった物を入れる箱が用意されていた。


 箱の中には、二つに斬られた試し斬りの棒が残っていたので、その棒を2本手に取り、二つに斬られた棒を両手で持って見比べるように見る。


(多分、これだと思うけど、どっちを持って行った方が良いのかしら?)


 斜めに斬られた部分を見比べてから反対側を確認すると、片方は固定された痕が残っていた。


(この痕が残っている棒が台座に刺さった方ね)


 二つの棒を確認すると、壁際の地面に埋め込まれている的用の台座を見ると、また、手に持った棒の断面を確認し、一方の角材の一角に細く縦に棘のように伸びている棒を見つけた。


(へーっ、綺麗に切れているわね。でも、端っこの棘のように斬れ残った部分は、ちょっと残念だわ。綺麗な断面を損なっているみたい。……。何だかくっつきそうだわ)


 メイリルダは、斜めに斬られていた断面を合わせると、片側の断面の端から伸びた棘が外側に丸まるように広がっていたが、それは反対側の部分から剥がれていたであろう事は剥がれた部分の面を見たら分かる。


 軽く外に広がっている棘になっている部分を軽く手で押さえてみた。


(断面も合うし、この棘みたいなのも反対側とほぼ合うわ。時間が経ったせいで棘の部分が変形してしまったのかしら)


 その棒は、1日過ぎていた事もあり、断面を合わせると棘の部分は外に広がってしまっていた部分を見て納得していた。


(まあ、断面は合うから、これを持っていけば良いわけだけど、どっち?)


 メイリルダは、二つに斬れている試し斬りの棒を見比べながら悩んでいた。


(まあ、こんな細い棒だから、両方持って行っても問題ないのかな)


 しかし、直ぐに納得するように、うんうんと頷くと二つの棒を持ってギルド支部の方に戻って行った。


 入口のドアを開けるとメイリルダは、先程注意された先輩の元に行った。


「有ったわよ。廃材用の箱の中には、これしか入ってなかったから、これで良いと思うわ」


 メイリルダは、持っていた棒の断面を先輩の方に向けて話したのだが、先輩は少し困ったような表情をした。


「あのね、メイリルダ。これを見たいと言ったのはエリスリーンなのよ。私に見せてくれたのは、ありがたいけど、まず、2階の執務室へ、……」


 言いながら先輩は、試し斬りされた断面が気になったように見た。


「へー、綺麗に斬れているわね。普通の剣って、こんなに綺麗に斬れるものなのかしら? ……」


 先輩も断面が気になったようだが、目的はエリスリーンに見てもらう事だと気が付くと慌ててメイリルダを見た。


「それ、早く、エリスリーンに届けてあげなさい」


 言われて、メイリルダは、奥のドアから出て行った。


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