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剣 〜ギルド支部〜


 ギルドマスターの執務室で、エリスリーンは自身の執務机に置かれた石板を1人で読んでいた。


 始まりの村のギルド支部では、ジューネスティーンとシュレイノリアについて、ギルドマスターのエリスリーンに報告が上がっており、2人からは冒険者として生きていくと聞いていたが、ギルド支部として2人の希望通りで良いのか検討して本部に報告する必要があった。


 その判断の為に各部署からの報告を確認してギルド支部としての報告を本部にする必要がある。


 言葉も喋れるようになり、鍛治や縫製に興味を示した2人は、冒険者としての装備を自身で作る事を考えていたのであれば、冒険者として魔物を退治する事によりギルドは、魔物のコアを購入し活用することで利益につながる。


 しかし、魔道具の開発等となれば、冒険者以上の利益に繋がる可能性が出てくる事もあり、ギルド本部に行き開発をしてもらった方が良い。


 エリスリーンとしたら、ジューネスティーンとシュレイノリアの事を本部への報告の内容で悩んでいた。




 シュレイノリアの作った魔法紋入りの衣類については評価が高った。


 大陸の南に位置して、ギルド支部の西には砂漠が広がっていた事もあり、暑さ対策の施された衣類は大いに役に立つと高評価を得ており、商品化の話をギルド本部に送っていた。


 しかし、ジューネスティーンの剣については、子供のオモチャ程度の剣という評価しか上がってなかったので、報告はエリスリーンのところで止まっていた。


 一般的な曲剣は、折れたり曲がったりしない事が重要と思われおり、剣自体を太く厚みを持たせて作られ、刃の鋭さは二の次とされており、一般的には刃の角度は直角程度だった。


 ジューネスティーンの考える剣は、一般的な曲剣とは違い、鋭く斬る為に素材の特性の良い部分を併せ持っていた。


 硬鉄と軟鉄を重ね合わせて作る事で、鋭い刃と軟鉄の芯鉄によって衝撃を吸収させる事によって、一般的な曲剣より刀身に掛かる衝撃を軽減していたにも関わらず、その事にギルド職員の誰も気がついておらず、エリスリーンに報告が上がってくる内容には職員の考えが含まれているため、一般的な知識が邪魔してジューネスティーンの作った剣の本質を見抜く事ができずにいた。


 もし、ギルド支部に鍛治に精通した上級鍛治士が居たら、見ただけで他の曲剣との違いを見抜き、製造方法を知りたがった事だろうが、辺境の始まりの村のギルド支部には、そんな技術を持った職員も居ない事もあり、作られた剣の良し悪しが見抜けずにいた。




 その報告を読み、エリスリーンは難しい表情をしていた。


(ジュネスの剣は細く薄い為、数回の攻撃を行ったら折れてしまう可能性が高く、試し斬りにおいても一番細い角材を斬った程度で終わったか)


 エリスリーンは、少しがっかりしたような表情をした。


 一般的な曲剣なら、1センチ程度の角材なら簡単に《《折って》》しまう事から、その程度の性能しか無いなら一般的な曲剣と何ら変わりはないと、エリスリーンも思ってしまった。


(魔法適性について、最初の調査では、シュレにのみ魔法適性があったと報告されたが、後にメイリルダからジュネスが魔法を使ったと報告があり、2度目の調査ではジュネスにも魔法適性が有った)


 エリスリーンは、小鼻を右手で摘んで軽くリラックスをするように椅子にもたれた。


(メイリルダの話だと、最初の検査の後に中庭で2人が遊びに行った時にシュレがジュネスに何かを伝えていたと言っていた。その後にジュネスも魔法が使えるようになったと言っていた)


 難しい顔をして、悩むような表情をした。


(ジュネスは、魔法の使い方が上手く無かったから、魔法適性が有ったのに検査の時には使えなかったのかしら。魔法が使えたシュレにレクチャーしてもらった事で魔法が使えたと考えられるのかしら?)


 エリスリーンは、このままでは2人に同じ未来に繋がらないと思い思案を巡らせていた。


 2人の仲の良さは、ギルド支部内では兄妹以上の関係、むしろ、おしどり夫婦と思える程だと噂になっていた事もあり、エリスリーンとしては2人を引き離すような未来を作りたいとは思っていなかった。


(ギルド本部でも、魔法適性のない人に教える事を研究していたが、結果は魔法適性の無い人には魔法が使える人から教えられたとしても使える事は無かった。……。だが、ギルドの高等学校では稀に魔法適性の無い人でも使えたと報告があった。……。魔法が使えるかどうかについて、研究が進んでいない事が問題で、使えるようになったら運が良かったで済まされている。……。シュレが研究したら魔法も進歩するのかもしれないが、本部に行ってしまったら外に出る事はできなくなる。ジュネスを本部が引き受けるとは思えないから、シュレが魔法の研究の為に本部に入ったら2人は完全に離されてしまうか、……)


 そして、少し寂しそうな表情を浮かべると、別の事を考え始めるように壁の本棚を見た。


(ジュネスの剣は、薄く細く作られていると報告にあったわ。購入担当の話だと、2種類の素材を用意して欲しいと言われ、それぞれ、1本分とは言ったが、初めての鍛治なら失敗も踏まえて2本分用意したと言っていた。今、製作中の剣は、数本の同じような剣が作られているとメイリルダは言っていた)


 エリスリーンは、何かを思いついたように少し鋭い表情になり、黙って同じ本棚を見つめている。


(そう言えば、試し斬りはしたらしい。……。でも、一番細い角材を斬った程度では斬れる剣だとは言い切れないなら、……)


 執務机の椅子に座ったまま、今考えていた事を振り払うように首を振った。


(本部がジュネスを有用だとは思わないでしょう。2人を一緒に本部へ送る事は、難しいのかもしれないわね。……。そうだわ)


 エリスリーンは、立ち上がると執務室を出て1階に向かった。


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