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剣 〜ジューネスティーンの課題〜


 鍛治工房に戻るとジューネスティーンは、腰に差した剣を鞘毎抜くと壁にある剣を横に引っ掛けられるようになっている建具に置いた。


 過去にも剣を作った転移者が残してくれた物と思われるが、それ以上の詮索はしなかった。


 ジューネスティーンは、ありがたく工房内に有る物は使わせてもらっていたので、都合よく剣を建具に寝かせるように置いた。


「ジュネス。次の焼き入れは、どれにするんだ?」


 シュレイノリアは、作業台の上にある建具に寝かせておいた焼き入れ前の剣を見つつ聞いた。


「ん。ああ、短い1本以外は、ほぼ、同じだからね。どれでも良いかな。剣もだけど、……」


 ジューネスティーンは、壁の建具に置いた剣を眺めながら気の無い返事をしたので、そんなジューネスティーンの態度にシュレイノリアは、何かあったのかと焼き入れ前の剣からジューネスティーンに視線を向けた。


 ジューネスティーンは、壁に掛けた剣を見ていただけで、シュレイノリアの方に向く事は無かった。


「ジュネス?」


 気になったシュレイノリアは、ジューネスティーンの方に行き隣に立って同じように剣を見た。


「何か、気になる事でもあったのか?」


「うーん、そうだね」


 掛けた剣を真剣に眺めて、気のない返事をした。


「剣もだけど、身体も鍛えないと不味いかな」


「どういう事だ?」


 シュレイノリアとしたら、今回の試し斬りが満点とはいかないが、評価はとても高いと満足していた事もあり、次の剣も同じ結果が出るのか、次の剣の完成が待ち遠しそうだった事もあり、ジューネスティーンと自身の考える方向性の違いが気になったようだ。


「ああ、さっき、僅かに斬れなかった所があったじゃないか。あれは剣の性能というより力が足りなかった方か大きかったんじゃないかと思うんだ」


「まあ、成人とは言い難いからな。腕の筋力が足りないだろう」


 シュレイノリアも、その通りだと分かっていたが、ジューネスティーンが何を考えて言ったのかが気になり出したのか、自身の意見は言わず同意するように答えた。


「いや、斬るには腕だけじゃないのかもしれない」


「それはどういう事だ」


 シュレイノリアは興味を示した。


「あの時、踏み込んで斬ったじゃないか。もう少し下半身が安定していたら、もっと力がのったんじゃないかと思うんだ。腕の力は必要だと思うけど、身体全体で剣に力を乗せられたら、今の腕力でも完全に斬れたかもしれないと思うんだ」


「確かにそうだな」


(なる程、ジュネスは、身体の部位を動かしたとしても、それ以外の部位も連動して動く事に気が付いたな。腕を振るにしても背骨や腰も、それに連動して動いて無意識にバランスを取っているからな。……。腕を振る)


 頷くとシュレイノリアは嫌そうな表情をした。


「ジュネス! お前、前に寝ぼけて歯磨きをしながらトイレに行って、床に垂らしていたな」


 ジューネスティーンは、嫌な事を指摘されて嫌そうな表情をした。


「ああ、歯を磨く時は、無意識のうちに腰も動いていたから、左右に揺れてしまったんだ。その後、ちゃんと掃除しただろう」


「ああ、そうだった。また、やったら、殴るだけじゃ済まさないからな」


「あれから、そんなことはしてないし、もうしないよ」


「そう願う」


 ジューネスティーンの自身の黒歴史について話されて面白くなかったが、直ぐに考えるような表情をした。


「ああ、歯磨きの腕の動きでも腰を振る事になるんだ。剣を振るなら、腕だけじゃなくて下半身も強化しておく必要がある。土台となるものがしっかりしてないと振り回した時の力を抑える事も厳しいはずさ。今回は、試し斬りの棒だったけど、冒険者として魔物と戦う時って、常に一対一で戦うとは限らないだろうから、振り抜いた後も次の攻撃に備える必要がある。この剣は、市販の剣より軽いけど空気じゃない。軽いと言っても、それなりに重さがあるから連続して斬る場合は下半身は重要だと思うんだ」


(おやおや、歯磨きしながら用を足した時の事が繋がったな)


 シュレイノリアは、ジューネスティーンの話を心地良さそうに聞いていた。


「そうだな。剣で戦うなら下半身の安定は大事になる。当然の事だな」


「腕だけじゃなく、下半身も鍛えるのか。まぁ、基本は走るだろうけど、もっと効率良く鍛えないとな」


(ジュネスの下半身強化か。走るは確かに基本だが、剣を振るうなら足の踏ん張りも重要だ。間合いを詰める時の瞬発力が高ければ、剣の間合いは広くなる。そうなれば、攻撃を受ける前に剣で仕留めたり重傷を負わせられれば生存率は高くなる)


 シュレイノリアは、ニヤニヤしながら聞いていた。


「下半身の強化か。それなら階段登り、スクワットも加えてみたら良いんじゃないか。重いものを持ってのスクワットなら、より強化できそうだが、基本の走るは行った方が良いだろうな」


「うん」


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの答えを聞いて考えるような表情をしながら返事をした。


(ジュネスのやつ、もう、下半身の強化のメニューを考えだしているな。本当に、思い付くと直ぐに行動するのは、こいつの良い所なんだろうな)


 そんなジューネスティーンを横目で見ていたシュレイノリアは満足そうにしていた。


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