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剣 〜試し斬りの結果〜


 ジューネスティーンの試し斬りは僅かに斬れ残った部分はあったが、概ね良い結果と言ってよかった。


「ジュネス。一般的な曲剣で斬った時の斬り口はどうなると思う?」


 シュレイノリアの質問を聞いてジューネスティーンは考えだした。


「ああ、市販されている曲剣は見た事が有るけど、あの刃は鋭角とは言えないから斬れるというより折れるだけかもしれないな」


「そうだな。市販されている剣は、基本は板状だからな。板の側面の四隅を45度の角度で削るから、刃の先端の角度は90度が基本だ。薄くしたとしても精々60度といったところあろうな。だから、刃が鋭利とは言えない。ジュネスの剣との違いは、刃の先端の鋭角さだ。先端の鋭さを出すために硬鉄の刃を軟鉄に覆うように作った。あの作り方だから薄くて鋭い刃を作る事ができたと言える」


 一般的な曲剣は、刀身に衝撃が加わっても折れたり曲がったりしないように太く厚く作り、刃は辛うじて付けてある程度になってしまい、その剣を振るうにはかなりの筋力を必要とする。


 強い筋力から繰り出させる剣戟によって砕く事になる。


 これが、今の世界の一般的な曲剣のあり方だったが、ジューネスティーンが仕上げた剣は、今までの砕くではなく斬り裂く剣となった。


「シュレがアイデアを出してくれたから作れたね」


「いや、ジュネス。作ったのはお前だ。アイデアだけでは形にならない。アイデアを形にしてくれたジュネスがいたから作れたんだ」


「軟鉄の刃を表面に、軟鉄を芯に使うアイデアもだけど、焼き入れで材料に変化が起きて縮む可能性を教えてくれた」


「ああ、あれは、マグレに近い。焼き入れの遅れによって縮みが強くならなかったらどうしようかと思っていた。それに、桶に入れた瞬間は、刃側に反っていたんだ。それが温度が下がると峰側に反っていたんだ。あの時は、生きた心地がしなかったぞ」


 その時の事を思い出したのかシュレイノリアは青い顔をした。


「そうだったのか。あの時、あんなに表情が変わったのは、そのせいだったのか。……。入れた瞬間は、粘土の影響の無い刃側は一気に冷やされるから熱収縮が早いはずだから水に入った瞬間は刃側に一旦反るって事かな」


「金属は熱によって膨張する。熱の抜ける事を粘土で遅らせていた事で峰側は温度が下がりにくく、粘土の無かった刃側との温度差が生じる事が、頭から完全に抜けてた」


 ジューネスティーンの考察にシュレイノリアは同意したが、少し悔しそうな表情をした。


「考えるだけで全部が予測できるのは、知識と経験が必要なはずだよ。シュレにも僕にも経験が無かったんだ。図書館の知識と刀鍛冶ではない鍛冶屋さんの教えだけで作れたんだ。この剣ができたのは、奇跡に近い事だったんじゃ無いかな」


「うーん、そうかもしれないな。誰もができるとは思わなかった細身の曲剣を理論だけで設計もせずに作れたのは、とても良かった。だが、これは偶然出来ただけかもしれないから、残りの剣も同じように焼き入れをして同等以上の性能が出て初めて成功と言えるな」


「そうだね。この剣は実験的に作った。これが偶然の産物だったら、次の剣は、こんなに斬れないかもしれないのか。再現性が無ければ意味がないって事だな」


 ジューネスティーンは、腰の剣を考えるような表情で見た。


「そういう事だ。再現できて初めて成功と言える。再現できなければ、その理由を追求しておかなければ思ったような剣は作れない。今の剣以上の物を作りたいなら、腰の剣を詳しく調べて微妙な変化も見逃さないようにして次の剣に反映させないとな」


 実験によって得られたデータは、想定していた以上の事が導かれる事があるので、実験データについては思いついた事も可能な限り書き留めておくと、後から大きなデータとなる事が多い。


 今は、気が付かなかったとしても何度も実験を繰り返した時、最初のデータが非常に有効になる事がある。


 シュレイノリアは、未知の分野に踏み込んだジューネスティーンに自身の思い付く限りの内容を記憶させるように示した。


「それに、冒険者として魔物と戦う道具としての剣だからな。魔物によって剣の特性を変える必要に迫られる事も考えられる。些細な事だったとしても、相手の魔物によっては、有効となる可能性が出てくるかもしれない。気になる部分は全て書き留めておいた方がいいな」


 それを聞いてジューネスティーンは、考えるような表情をした。


「まあ、そうだけど、用紙なんて簡単に手に入れられないからなぁ。シュレなら申請したら許可は下りそうだけど、あんな高価な羊皮紙を簡単に用意してくれるとは思えないよ。まして、僕の申請じゃあ、1枚だって微妙だと思うよ」


 それを聞いてシュレイノリアはイラっとした。


「お前はバカか! 無い物ねだりなんてせず、有る物を使うんだ! 黒板が有るだろ! あれに書き込んでいき必要な部分は足す。本はページをめくる必要があるが、黒板は折り畳みができない分、要点をまとめる必要に迫られる。それに用紙が無いから頭に記憶する。毎日、黒板を見て閃いた事は記入する。見返しているうちに記憶は重複する事で理解が深まり新たな閃きにつながるはずだ。用紙が足りない事をチャンスだと思えば前に進めるが、置かれた現状に絶望したら閃きも無くなり進歩も無くなる。今の状況を最大限に利用する事を考えろ!」


「そうだったね。限界は自分の気持ちの中に有る。欠点ばかりを考えていたら前に進む事はできないだろうし、今の現状なら自身の記憶の中に留める方法を考えた方が良いね」


「そうだ! 今を不幸と考えるのではなく、今の状況で出来る最大限を目指す。それによって副産物が生まれる事もある。簡単に書く事の出来ない現状だからこその記憶だと言える」


 シュレイノリアはドヤ顔で答えたので、ジューネスティーンは、それを可笑しそうに見た。


「まだまだ、出来そうな事は色々有りそうだ。工房に戻って、この剣と残った焼き入れ待ちの剣を見てみるよ。新たな一面が有るかもしれないからね」


「ああ、きっと、次の剣は今の剣より良い物になるだろうな」


 2人は、満足そうな表情をすると鍛治工房に戻っていった。


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