剣 〜試し斬り〜
試し斬り用の棒の前に立ったジューネスティーンは、剣を鞘から抜いて棒の真横に刃を当てるように構え自身の剣の何処に当たるのかをイメージして剣を真横に引いた。
「待て、ジュネス!」
ジューネスティーンは、シュレイノリアの声を聞くと剣を横に振りかぶった状態で止め、姿勢を正して切先を下に向けシュレイノリアの方を見た。
「その斬り方だと棒は途中で割けるように折れてしまうぞ!」
シュレイノリアの言葉にジューネスティーンは、一瞬、ムッとしたような表情をしたが直ぐに考えるような仕草をすると抜いていた剣を一旦鞘におさめた。
「ジュネスは、まだ、成長段階で筋力も弱い。上級冒険者のような力が無いから、斬る物を考えてから剣筋を決めた方が良い。そこに立っている棒は細いが、木材だって反発する力も持っている。自分だけの事を考えるだけではなく、相手側の能力も考えないと成功率は下がる」
その説明を聞いて納得するような表情をすると、ジューネスティーンは、立っている試し斬りの棒の前に行き右手で握ると、差し込まれている棒の台座を見ながら軽く左右に振った。
「なる程なぁ。ただ、横から剣を入れたら、この揺れに力を吸収されてしまうのか」
握っていた棒から手を離すと、試し斬りの棒を指で弾くようにして揺れを確認した。
「確かに言うとおりだ。棒に対して横から垂直に剣を入れたら途中で縦に割けてしまうかもしれないね」
そう言うと、試し斬りの棒を台座から抜いて横にすると腕を上下に振り全体のシナリ具合をもう一度確認すると、上下をひっくり返して台座に差し込むと、その瞬間、ジューネスティーンは顔を顰めて棒を握っていた手のひらを確認した。
「ああー、角の棘が刺さったよ」
手のひらに角材の細いささくれが棘となって刺さったのを見て、その棘を反対の手で抜くと刺さった部分を口に当て止血しようと、口に手を当てたまま立っている試し斬り用の棒を真剣な表情で見た。
「そうか、横なら割けるかもしれないけど縦なら、刺さった棒は固定されたままなのか。でも、縦に斬るのはダメでも斜めだったら上手く斬れるかもしれないのか」
ジューネスティーンが閃いたように声にすると、シュレイノリアは満足そうに見ていた。
止血が終わると、ジューネスティーンは試し斬り用の棒の前に立って右手を手刀のようにして斜めにゆっくり振り下ろすと、今度は、両手で剣を握るようにして同じように斜めに上から下に袈裟斬りにした。
(ジュネスも気がついたな。ああやって斜めに振り下ろせば、横に逃げる力は小さくなる。残りの力は下に向かうから棒も固定される)
シュレイノリアは、ウンウンと頷いて数歩下がり剣の間合いから離れ、ジューネスティーンも立っている試し斬りの棒から2メートル程下がると腰の剣を抜いて右肩の上に剣を上に向けて構えた。
視線は先の方に立つ試し斬りの棒を見つめ、剣筋を視界にとらえるようにして、ゆっくりと剣を袈裟斬りに振り下ろすと剣は試し斬りの棒の前に振られ、その動きを確認するように見て、実際に斬った時、刃が接触して棒に刃が入り斬り裂くイメージを頭の中に描いているようだった。
そして、剣を右肩の上に構えると今度は一気に振り下ろした。それを3回繰り返すと剣を鞘に収め2回大きく深呼吸し、剣を抜いて前に出て右足を前にして、その剣を試し斬りの棒に添えた。
今度は、棒に対して斜めに添え間合いを確認すると、前に出した右足を引きながら剣を右肩の上に引き上げた。
剣が上がった一瞬、動きが止まると切先が後ろに引かれ、引いていた右足を前に出しながら剣を一気に袈裟斬りにした。
すると甲高い音と共に試し斬りの棒を斬り、斬れた棒が地面に落ちて軽くバウンドして止まった。
剣は振り下ろされ左下に綺麗に弧を描いて止まった。そして、台座に残った試し斬りの棒は途中から斜めに斬られており、地面には斬り落とされた棒が横になっていた。
ジューネスティーンは剣の刃を確認して納得すると鞘におさめ、地面に落ちた試し斬りの棒を拾って苦い顔をした。
「少し残ってしまった」
斬り口は斬り終わる部分のほんの僅かな部分だけが、細い棘のように残ってしまっていた。
自分の思った通りには斬れなかった事が気になったようだ。
「やっぱり、まだ、力が足りないみたいだ」
そう言って、斬り口をシュレイノリアの方に見せた。
しかし、シュレイノリアは、ジューネスティーンとは違い満足そうな表情で、向けられた斬り口を見ると直ぐにジューネスティーンを見た。
「よく分かっているじゃないか。どんなに良い剣だったとしても、使う側に技量と力が無ければ思った通りにはできない」
ジューネスティーンは、本当の事を指摘され嫌そうな表情をした。
「だが、ジュネスは、鍛治で剣を鍛え、空いた時間は剣を振るってもいたから、そこまで斬れた。だが、私なら半分位の所で縦に裂けてしまっただろうし、同じ歳の近所の子供でもジュネス程には綺麗に斬れないだろうな」
シュレイノリアは何もかも理解しているというような表情で解説していた。
「今、ジュネスのイメージ通りに斬れるのは剣の達人だけだろう。でも、ジュネスなら、鍛治仕事をしつつ、剣の鍛錬を積んだら、1・2年で完全に斬れるようになるはずだ。いや、もっと早いかもしれないな」
シュレイノリアの話を聞いて、ジューネスティーンは納得したような表情をしつつ、斬り落とされた棒の断面を見てから腰の剣を見た。そして、自身の腕を見ると棒を持ってない手で二の腕と肩の筋肉を確認するように触った。
「そうだね。まだ、筋力が足りてないのか。それに初めて刃を滑らせるように斬ったから、技量も足りて無いのだろうね」
納得した様子で話したので、シュレイノリア満足そうに頷いた。